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「プレジャーボート等海難防止対策調査専門委員会(機関故障)」報告書から
[平成14年2月(社)西部海難防止協会 (社)九州北部小型安全協会]
第2回
事務局
 
 前回は、九州北部小型船安全協会員へのアンケート調査・分析により、(1)機関故障海難は統計上の数字以上に潜在的な事例が多く発生している。(2)モーターボート・ヨットユーザーの約半数が機関故障海難に遭遇している。(3)出航する前に、燃料の残量・漏れ、冷却水の排出・温度、バッテリーの電圧・液高・ターミナルの緩み、クラッチ・スロットルレバーの円滑作動、潤滑油残量・漏れ、歯車装置の異常音、排気の色・臭い、Vベルトの緩み・亀裂、エンジン音、ビルジの量・燃料や潤滑油漏れによる着色の確認などを行う『出航前点検』により、かなりの機関故障海難を回避できる。(4)機関の異常・故障に遭遇した場合でも、燃料の補充、燃料こし器の水のたまり除去、燃料コックの開放、燃料タンクのエアー抜きの開放、バッテリーターミナルの締め付け、点火プラグの清掃・交換、冷却水の補充については、初歩的な知識でチェック・修理が可能であり、機関についての初歩的知識を習得し、最低限度の対応を行える技術を身に付けておくことが重要であることなどの報告を掲載しました。
 今回は、出航時点検及び初歩的知識のチェック・修理により回避可能な機関故障海難以外の「回避困難な機関故障海難への対応策」への分析・調査・提言とそれに関連した自由意見を掲載します。
 
回避困難な機関故障海難への対応策
 出航時点検や初歩的な知識により回避できる以外の回避困難な機関故障を可能な限り少なくする方策について、アンケート調査を基に検討が行われました。
I 現場修理可能な機関故障の対応策
1 現場修理可能な機関故障のアンケート調査・分析
 アンケート調査によると機関故障の遭遇した回答者のうち、約20%は工具及び予備品があれば自分で現場修理ができたと回答しています。
●現場修理に必要な予備品の記載(記載の多い順)
・インペラ ・Vベルト ・点火プラグ
・燃料ホース、パイプ ・こし器
・パッキン類 ・ヒューズ ・予備電球
・予備燃料 ・予備潤滑油 ・予備冷却水
●現場修理に必要な工具の記載(記載の多い順)
・モンキースパナ ・ドライバー ・ハンマー
・ペンチ ・カッターナイフ
・ブースターケーブル ・ビニールテープ
・CRC ・ウエス
●メーカー、マリーナなどとの間の電話往診の必要性
 初心者も含め、回答者の69%が電話往診が必要であると回答している。
2 現場修理可能な機関故障海難への提言
●予備品、工具の搭載
 初心者及び熟練者であれ、現場修理可能な機関故障であっても工具、予備品が搭載されていなければ修理不可能であり、アンケートで示された工具、予備品をできるだけ搭載すること望ましい。
●講習会への参加
 プレジャーボート関係者は、初歩的知識で現場修理に必要な知識が習得できる講習会を実施するとともに、ユーザーも積極的に受講し熟練者からアドバイスを受けることが望まれる。
 講習内容にVベルトの交換・緩み直し、インペラの交換、冷却水系こし器のゴミ詰まり除去などを取り入れ、講習会を活性化させるとともに、予備品、工具の搭載を周知することが効果的であると思われる。
●電話往診体制の確立
 メーカー、マリーナ等は、ユーザーの電話往診要望に適切にアドバイスできる体制をとることが望まれる。
II 現場修理困難な機関故障海難への対応策
1 機関故障の分析
●製造経過年数と故障割合
 経過年数が多くなるほど故障割合が高くなり、10年以上経過した場合、その割合が50%に達している。
●機関使用時間と故障割合
 機関使用時間が多くなるほど故障する割合が高くなり、150時間を使用した場合一旦減少するも200時間以上使用した場合、その割合が50%を超えている。
●定期・中間検査時の部品交換等の指摘について
 大多数の回答者が検査時に現状より十分なチェックにより、部品交換や修理等の支持を受けたいと希望している。
●機関故障海難事例の分析
 過去10年間の機関故障の原因は、整備不良が一番多く59%、次いで老朽衰耗が16%となっており、機関故障の大半は、日頃のメンテナンスのあり方に問題があることが明白となっている。
●定期点検と機関故障
 アンケート調査によると、定期点検を実施した場合の機関故障をしたり、故障には至らないが機関に異常を感知した者は、定期点検を実施しなかった者より10%少なくなっている。
2 現場修理困難な機関故障海難への提言
●メーカー、マリーナ等プレジャー関係者への提言
 機関製造後概ね10年を経過するものや機関使用が200時間を越えるものについては、検査を請け負ったマリーナ等が船舶所有者に対して部品交換等のアドバイスを行い、特に定期的に交換することによって機関故障が防げる部品については、その必要性も含め積極的にアドバイスするとともに、海難防止講習会等あらゆる機会をとらえ、定期点検の重要性を呼びかけることが必要である。
●ユーザーへの注意喚起
 定期的な点検が機関故障の防止に有効であることが海難分析やアンケート調査で伺えるが、定期点検の実施については、メーカー、マリーナ等プレジャー関係者には何ら強制力がなく、ユーザーの自主性に任されているのが実情であり、本検討委員会委員所属のマリーナの実績でも定期点検を実施しているのは、保管艇の20%程度と報告されている。
 このため、ユーザー自身が意識改革を行い、自ら進んで定期点検を受けることが重要である。
 
アンケート調査の自由意見抜粋
1 機関故障関連
【その他】
・船の配線図とかテスターとかを揃えているので、大体のところは自分で修理している。
・4ストロークエンジンを使用している。バッテリーが上がらないようにソーラーを付けている。
・燃料タンクを検査時にチェックする。大分で燃料タンクからの燃料漏れで爆発。
・機関故障の事例と修理方法をのせて本を作れば役立つ。機関のパーツリスト、冷却水・潤滑油経路図を参考にしている。
・運航経験は長いボートオーナーでも機関の取り扱いに関しては、初心者と差異はないと思う。大部分のオーナーが自動車感覚で船を運転しているのが現状だと思う。
・最初は初歩のトラブルが多かった。
・ディーゼル機関を点検するのに装置の配置が悪く点検整備がやりにくい。例えば、燃料エレメントは機関前部にあり、またボルトの上にあるので取り外すとき作業性が悪く、VベルトがかかりVベルトのトラブルになる。
・恥ずかしい話だが1級資格は持っているが、エンジンの実物については、ズブの素人と同じで全く業者まかせ。1年に2回ほど見てもらっている。エンジンの専門学校でもあれば入校したい位。
・点検確認は各個人の性格に左右されるところが多く、面倒だ、大丈夫だと思った、この次にしようなどと言ったことが故障事故をおこしている原因ではないだろうか。この点の研究が必要ではないだろうかと思う。当クラブでもやりっ放しの人が故障事故を連発している。私が初心者時代は全部自分で実施できたが、今の初心者は全く出来ない人が多い。
・キングストンにビニールが張り付き、なかなかとれなかったことがある。
 
ユーザーへの機関故障海難防止への呼びかけ
 機関故障海難を減少させるため、ユーザーにあっては、機関の定期的な点検を受けるとともに、発航前点検を励行することはもちろん、各種海難防止講習会に積極的に参加し、講師の話を聞いたり、小型船安全協会会員からアドバイスを受けるなどして、簡単な機関故障に対処できる程度の知識を習得し、最悪の場合には118番通報や海上においてプレジャー関係者からアドバイスを受けられるよう携帯電話などの連絡手段を確保することを強く要望する。
 
【メーカー、販売店関係】
・販売業者にもある程度のアフターケアー等を課すべき。
・1、2年に1回、比較的安い値段で検査をしてくれるところがほしい。
・各メーカーに年一度くらい定期的に重要部分でも点検してもらい、要注意など指示がほしい。
・業者からメンテ、トラブル対応の説明がなく不安。改善すべき。
・新船、中古船販売時にメーカーが作成した故障、応急修理などのハンドマニュアルを積極的に配布していただき、メカに関する意識を高揚させるようなプランがあってもいいのではないかと思う。
・海上でのトラブルの殆どはエンジントラブルではないだろうか。それも燃料系統及び電気周りによるトラブルが多いように思う。その為には各人のエンジン及び電気周りの日常点検が必要だと思うが、初心者にはなかなか困難な様だ。そこでメーカーの講習会又は免許切り替え講習会等で日常点検方法又、故障時の点検要領を実施されたらいかがか。
2 機関故障に関係する海難防止関連
【電話等連絡方法】
・今まで出航前に故障が起こっており、業者が点検も含めて修理してきているので幸いでしたが、そのため無線機を取り付け非常の時の対応をと考えている。
・通信機器、携帯電話は濡れないように注意して、不慮の事故に備えている。
・どれだけ整備しても、古い船になると故障はつきものですので、何らかの連絡方法を持って出港すべき。
・通信機器の携帯。救助要請手段の方法(大きな旗などによる表示)対応。
・電話・無線等連絡手段を持つこと。釣り友達に目的地を連絡しておくことが重要。
・洋上トラブルの場合、連絡網(僚船とサービス工場)があり、曳船されることを原則としている。
【補助機関の搭載】
・補助エンジンがあれば、一応心強いし、今まで他船に迷惑をかけたことがない。
・私の船は小型ヨット(23フィート)のため、補機として船外機2機を用意しており、1機が故障すれば、他の1機と交換して使っている。
・船外機の場合、いつどこで故障するか分からないので、第2・第3の補機代わりの道具等を用意しておく必要があると思う。
【その他】
・用心のため艪をつんでいる。
・単独行動をさけ、複数で行動し、助け合う。
・小型船には機関士の乗船者がいないので出来るだけ多くの友達と一緒に行動することが望ましい。
・鉄工所と仲良くなることが一番。
・初心者なので何かと熟練者に相談しているが、出港の度に緊張している。
3 講習会関連
【機関講習会の要望】
・洋上において故障したときの応急措置とか直し方など詳しく説明してくれたらよいと思う。
・機関に関する点検部品の取替え等の実技講習が必要と思う。
・エンジントラブルの具体的な対処方法とか、点検技術とかの助言を受けたい。
・船外機の講習会がない。
・自分で修理できるような高度な実技講習会を受けたい。
・講習会においては、機関故障等の内容の話はあまりないと思う。
・海上保安庁等の講習会終了後、10分でも良いから機関等の点検やワンポイントアドバイスを講習していただきたい。
・鉄工社長による技術講習会を望む。
・点検マニュアルの作成。メーカー専門業者の所在地・電話等の紹介。点検要領等の講習会を行ってもらえれば幸い。
・エンジントラブルの実態を知らせて欲しい。実態を参考にしてエンジン等の点検整備を実施したいと思う。
・機関に関する講習会がないのではないか。
・機関の講習を受けたことがない。
・洋上での機関故障の場合、応急修理ができる位の機関等の講習を年に1回2〜3日位の日程で実施していただきたいと思う。(有料にて)
・講習会が開催されればぜひ参加したい。機関故障により救助されることのないよう、メーカー等も含め、販売店がより具体的に・実践的に講習会を開催してほしい。
・過去1年間程度のプレジャーボートの機関故障の事例集、特に問題点別に集約したものを作成してほしい。
【その他の要望】
・講習会の開催はせめて1週間ほど前に通知がほしい。
・講習会は殆ど土、日曜日に行われるので平日にも行って欲しい。
・講習内容に変化及び内容レベルの濃密化を希望する。
・どんどん実例をあげて話しをされると具体的にわかりやすい。
・最近の身近な場所での事故事例を詳細に説明して頂き、事故に対する保安意識を高めている。
・安全講習会には積極的に参加したい。個人的にとても勉強になった。
・講習会はためになっている。ロープの結び目も目になったこと。救助訓練もためになっている。全員参加で安全航海。
・講習会の件、知りませんでした。こんな大切なことはぜひ参加したい。
・自分で勉強しているのでいらない。
・講習会の開催必要。
・時間があれば参加している。
4 その他
・8年ほどの経験で、大型船の自動操舵と思われる危険が2回あった。
・弁当などのゴミの海洋投棄を厳しく取り締まる条例を作ったらよい。
・船名記入の義務化の徹底。(安全上問題あっても連絡船不明でお願いできない。)
・航走中流木に当たってプロペラが破損して運行できなくなった。同型船の近所の人と前後していたのでその船の予備のプロペラを借りて取替えその場は収まった。その後、プロペラを船に積んでいます。
・運転については、複数人としている。(見張り)海の色と同じ(緑・青)のゴムボートはなくしてほしい。接近し、ヒヤッとしたことがある。
・機関故障による救助方法について、各地区で諸連絡し、曳航救助等の具体的な話し合いがなされるよう指導して欲しい。
・釣り人その他による海へのゴミ捨てが言われています。我々も気を付けてマナーを守るよう頑張りたいと思います。
・遊漁船特にプレジャーが法規無視で前方を横切る。
・船の運航で、近くで遊漁している船が止まっている場合、低速で進んで欲しい。
・天候には充分気を付けている。夜間、早朝には使用しない。
・舵破損した場合にはロープに錨を逆さまに縛り、ミヨンのタチに練り長く引き面舵、取り舵で入港できる。気象予報に注意し無理しないこと。
・冬に海に落ちたらジャケットを着ていても15分くらいで手足がかじかんで動かなくなるので、船はタラップを取り付け、手をかけたらはしごが水中に降りてくるようにしている。
・出港時ボートの周りに油が浮いていないか、特に船外機近くの海面に注意している。







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