c. 各水域におけるカキ類の稚貝の成長状況調査
【方法】
カキ類の稚貝の成長状況調査では、マガキ(Crassostrea gigas)、ヨーロッパヒラガキ(Ostrea edulis)、オリンピアガキ(Ostrea lurida)の3種類のカキを使用した。マガキは、宮城県桃生郡鳴瀬町東名で天然採苗された稚貝である。ヨーロッパヒラガキ、オリンピアガキは、当研究所で人工採苗した稚貝を使用した。それぞれの稚貝が付着しているホタテガイの原盤を5枚づつ、3種類つなげて1連にし、各水域に4連づつ垂下した。
稚貝は、9月6日に舞根湾のSt.1、St.2、St.3に垂下し、10月から12月まで毎月1連づつ回収して種ごとに稚貝数と殼高を測定した。生残率はこの稚貝数から求めた。台風によって一部のサンプルの標識が流失したため、水域(St.1〜3)ごとに垂下時(9月6日)の稚貝数の平均値を求め、これを100として生残率を求めた。また、測定後稚貝の成長状況を視覚的に記録するため、写真撮影した。
【結果】
9月6日に各水域に垂下したカキ類の稚貝は、ホタテガイの原盤1枚あたりの密度が、マガキは約70個体、ヨーロッパヒラガキは約21個体、オリンピアガキは約7個体であった。
カキ類稚貝の生残率の変化をグラフで示したものが図41から図43であり、殻高の変化をグラフで示したものが図44から図46である。
図41はマガキ稚貝の生残率の変化を垂下地点ごとに比較したものである。9月から10月にかけて全ての垂下地点で生残率は急激に約35%まで低下した。しかし、11月、12月に採取したサンプルでは、St.2で52〜57%、St.3で42%と生残がよいものもあった。しかし、St.1では全て約30%と低い生残率であった。
図42はヨーロッパヒラガキの生残率の変化を示したものである。9月から10月にかけて,急激に低下し、St.1では36%、St.2では29%、St.3では39%であった。St.1では11月に採取した連の生残率は高く、53%であったが、12月では30%まで低下した。St.2では12月の生残率は27%と9月とほとんど変わらなかった。St.3では徐々に低下し、12月の生残率は23%と3水域の中で最も低くなった。
図43はオリンピアガキの生残率の変化を示したものである。St.1では生残率は徐々に低下したが、12月は80%と非常に高かった。St.2では、9月から10月にかけて生残率が45.2%と低い値であったが、11月、12月に採取した連の生残率は高く、12月で73%であった。St.3では、10月から11月にかけて60%まで低下し、12月も変わらず3水域の中で最も低くなった。
図44はマガキの殻高の変化を示したグラフである。9月の垂下時には7〜8mm程度であった殼高は、12月には平均値でSt.1では46.6mm、St.2では54.4mm、St.3では49.6mmまで成長した。9月から11月まで垂下地点によって相違は見られなかったが、12月にわずかに差が見られた。
図45はヨーロッパヒラガキの殻高の変化を示したグラフである。9月の垂下時には8〜9mmであった殻高は、12月には平均値でSt.1では34.1mm、St.2では32.3mm、St.3では33.0mmまで成長した。10月、11月には、垂下地点間で稚貝の成長にわずかに差が見られたが、12月にはその差はなくなった。
図46はオリンピアガキの殻高の変化を示したグラフである。9月の垂下時には7mm程度であった殻高は、12月には平均値でSt.1では27.8mm、St.2では24.8mm、St.3では28.4mmまで成長した。10月、11月には、St.1における稚貝の成長が最もよかったが、12月にはSt.3に垂下した稚貝とほぼ同じ大きさになった。St.2に垂下した稚貝はわずかに成長が遅かった。
図47、図48(p69)は、9月6日に垂下したカキ類の稚貝の写真である。図47のように作製したホタテガイの原盤の連を調査水域に垂下した。図48では、ホタテガイの原盤に付着したマガキの稚貝が黒色に見えているが、ヨーロッパヒラガキは色が白いため、写真ではわかりにくい。
図49から図51は垂下して1ヵ月後の10月18日に採取したSt.1の稚貝の状況を撮影したものである。また、図52から図54は、垂下して2ヵ月後の11月21日に採取したSt.1の稚貝の状況を撮影したものである。マガキの成長が著しいことがわかる。また、図55、図56には特徴のある原盤の写真を示した。図55は10月に採取したSt.3のマガキの原盤である。白く見えているものが稚貝の付着跡であり、多くの稚貝が死亡している。図56は11月に採取したSt.2のマガキの原盤である。密度が高く、各個体の成長が著しい。
d. 水中カメラによる撮影
【方法】
舞根湾では9月と11月、女川湾竹ノ浦では8月と10月に底質調査を実施した際に、海底状況や調査海域の様子、そしてそこに生息する生物の様子を水中カメラで撮影した。
【結果】
図57、58に舞根湾の海底状況の写真を示した。図57は筏直下であり、図58は筏周辺の海底である。どちらの海底状況もあまり変わらず、粒子の細かい泥が堆積していた。図59、図60は女川湾竹ノ浦の海底状況である。図59は実験用筏直下であり、図60は筏周辺の海底である。筏直下ではムラサキイガイや、カキ類などの貝殻が非常に多く堆積しており、キタムラサキウニやヒトデ類など多くの生物が集まっていた。筏周辺は砂質の海底であった。海中に生息する生物の写真は当研究所のホームページ(URL: http://www.kakiken.or.jp/)上で公開しているため、掲載しなかった。
図41. マガキ稚貝の生残率の変化(9月〜12月)
図42. ヨーロッパヒラガキ稚貝の生残率の変化(9月〜12月)
図43. オリンピアガキ稚貝の生残率の変化(9月〜12月)
図44. マガキ稚貝の殻高の変化(9月〜12月)
図45. ヨーロッパヒラガキ稚貝の殻高の変化(9月〜12月)
図46. オリンピアガキ稚貝の殻高の変化(9月〜12月)
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