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吟剣詩舞の若人に聞く 第52回
鍋谷明美さん(三十一歳)●大阪府枚方市在住
(平成十四年度全国吟詠コンクール決勝大会青年の部優勝)
母:鍋谷安美さん
師:増田鵬泉さん(社団法人哲泉流日本吟詠協会)
 
鍋谷明美さん
 
詩吟を楽しむ心が、優勝につながった
 青年の部に挑戦し続けて十数年、念願の優勝を手にした鍋谷明美さん。彼女とご家族、そして師である増田鵬泉少壮吟士に、吟詠のこと、これからのことなどをお聞きしました。
−時間が経ってしまいましたが、優勝おめでとうございます。
明美「ありがとうございます」
−これ以前に優勝の経験はありますか?
明美「少年の部で優勝させていただいて、それからはありません」(笑)
増田「少年の部から何年経ったかな?」
明美「十数年だと思います」
増田「その間、ずっと青年の部に挑戦しては何回も落ちていたよね」(笑)
−意外と苦労しているのですね?
明美「はい」
増田「ほんとうに努力家です」
−やめようと思ったことはありませんか?
明美「何回もありました」(大笑)
−やめなかった理由は何ですか?
明美「予選で落ち全国に行けなくて、やめようと思っても、次の年に全国に行けたりするので、やめる切っ掛けがつかめないまま続けてきた感じです。それに、先生に励まされるので、やめづらくて・・・」(笑)
−今回とそれまでの吟の違いは何ですか?
明美「今回は無欲で、自分が舞台を楽しもうという気持ちで臨みました。結果は、後からついてくるものと考えていました」
−それ以前は優勝の意識が強かったのですか?
明美「今年はがんばって、と言う応援は嬉しいのですが、自分で勝手にプレッシャーとして受け止めてしまっていたところがありましたね」(笑)
−お母様から見た優勝の感想は?
安美「長いことかかっての優勝ですから、あの時は本当に嬉しかったです」
−お母様も吟詠をなさっているのですね?
安美「はい、私がしていまして、この子が三歳の頃には詩吟を覚えてうたうので、もしかしたらするのではと思い、先生のところに連れて行きました」
−先生とは増田先生のことですか?
安美「いえ、別の先生でしたが、その先生が体調を崩され、その会ごと増田先生に見てもらうようになって、知り合うようになりました。増田先生には細かなところも教えていただき、大阪府の大会でも優勝できるようになり、感謝しております」
−お母様からお子さんに吟のアドバイスなどはなさいますか?
明美「アドバイスしてくれますが、言っている意味が分からず、それが元でよく親子喧嘩をしますね」(大笑)
−先生から見た鍋谷さんの印象はいかがでしたか?
増田「小さい時から知っていますが、かわいい子で、素質のある子だと思いました。それから素直で、謙虚な気持ちをもち、高ぶらないのはいいのですが、逆に言うともっとエンジンかけろと言いたい子です(笑)。意外と思った通りにやってくれませんし(大笑)、それが青年になって優勝するのに時間がかかった理由ではないかと思います」
−鍋谷さんの吟の特徴は何ですか?
増田「素直で、バイタリティーのある吟ですが、ただ人の良さからくる甘さをなくし、厳しく吟を見つめたら、もっと素晴らしい吟者になれると思います。あと四年経ったら少壮吟士を目指してもらいますが、いまからがんばらないと具合が悪いかな・・・」(笑)
−少壮吟士と言われていますが、どうですか?
明美「ああ・・・」(大笑)
−少壮吟士はさて置いて、今後の取り組みについてはいかがですか?
明美「もともと声がいい方ではありませんから、人にちゃんと聴かせられるといいますか、味のある吟を目指したいと思います」
−あなたにとって吟の魅力とは何でしょう?
明美「何でしょうか?(大笑)。やめようと思ったときもありましたが、楽しいこともあり、生活の一部になって今日まで来ていますので、私にとって詩吟はやめられないものです」
−関西のご出身ですが、コンクールでアクセントに苦労しませんでしたか?
明美「特にそういうことはありません」
増田「私どもは宗家が黒川哲泉先生で、いち早く標準的なアクセントを取り入れましたし、その面では苦労はないと思います」
−音楽伴奏についてはいかがですか?
増田「伴奏になったことで音楽性があがり、昔でいう音程、今は調和ですが、音への乗り、調和と言う面では、かえって若い人の方がよいのではと思います。しかし、音楽伴奏になったことで、詩の表現をいかに出すかも求められますから大変だと思います」
−鍋谷さんはいかがですか?
明美「先生からいつも、そういうところに重点を置いたご指導を受けますが、逆に言えばそこが一番大事なところと思って練習しています」
−どうしたら優勝できるのか、これを読んでいる人へ何かありますか?
明美「今回は自分が楽しんでやる、と言うことを念頭において吟じ、たまたま結果が優勝だったということですが、・・・あまり緊張しないで、舞い上がらずにするということでしょうか」
 
優勝の感激を語る鍋谷明美さんを中心に(右)師の増田鵬泉さん、(左)母の鍋谷安美さん(武道館大会のリハーサル時にインタビュー)
 
−緊張しないようにするには?
明美「当日の朝食まで舞い上がりかけていたのですが、増田先生がそんなに力むな、気楽にやりなさいとおっしゃってくださり、その言葉で落ち着くことができました。母はここがどうの、あそこがどうの、がんばりなさいと言っていましたが(笑)。舞台に出ると自分しかいませんから、あとは自分を信じることだと思います」(笑)
−これまでの成長振りはいかがですか?
安美「やったらできる子ですが三日坊主で(笑)、落ちたときの悔しさも三日たてば忘れますし、かなり楽天的です。これまで時間がかかりましたが、その経験が少しずつ力になってきたことは良かったと思います」
−少壮吟士への意気込みはありますか?
明美「私は三日坊主なので、とにかく目の前にあるものをきちっとこなし(笑)、気がついたら積みあがっている状態に先生をはじめ皆さんにご指導いただけるので、それに応えられるように努力した結果が、少壮吟士をはじめ、いろいろなものにつながればと考えています」
−少壮吟士にはどんなイメージをお持ちですか?
明美「遥か彼方、遠い存在です」(笑)
−これからの目標などはありますか?
明美「目標は増田先生で、先生が舞台に立ってらっしゃる時に聴く吟には鳥肌が立つ思いで、そんな吟が自分にもできたらいいなと思います。先生に少しでも近づけるようになりたいです」
−先生の方から鍋谷さんへ何かありますか?
増田「いま彼女は看護関係の勉強をしていて、その合間に詩吟をしています。ですから、あまり無理なことを言わずにいますが、それが済めばうるさいことも言おうかなと思っています(笑)。三十五歳までには資格が取れるはずで・・・落第したらだめだぞ・・・」
明美「がんばります」(笑)
増田「今後の抱負としたら、少壮吟士などに向かって、大いに勉強していただいて、先ほど少壮は遥か彼方と言っていましたが、もっともっと近い存在になるような努力をしてもらいたいと思います。努力があってこそ結果があるので、そうたやすくならしてはくれませんから、大いに努力してください。また、人間的にも良い子なので、その人間的良さを厳しさの良さにしてあげたいと思います。三・四歳から初めて、二十七年ぐらいになりますが、もっと責任のある吟道を歩んで欲しいと思います」
安美「少壮吟士を目指し、あとは後輩を育てる方に回って欲しいなと思っています」
−最後に鍋谷さんから一言お願いします。
明美「私は一つのことしかできませんから、勉強が終われば、先生にしごいていただける体力をつけ(笑)、詩吟に打ち込んで生きたいと思っています」
−今日はインタビューにお答えいただきありがとうございます。資格の習得と、これからの詩吟向上にがんばってください。
 
武道館の控室で。写真右より師の増田鵬泉さん、鍋谷明美さん、母の鍋谷安美さん
 
写真右より師の増田鵬泉さん、鍋谷明美さん、母の鍋谷安美さん(武道館の控え室で)
 
鍋谷明美さん







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