新進少壮吟士大いに語る 第三回
八代光晃子さん
(淡窓伝光霊流宮崎詩道会)第二十五期少壮吟士
久保草風さん
(臥風流吟詠会本部)第二十五期少壮吟士
八代光晃子さん
焦らず、休まず、諦めず。
挫折も財産と考え、練習に励む
少壮吟士になられて、まだ日の浅いお二人ですが、少壮吟士とはどんな存在なのか、また少壮吟士に挑戦するために必要なことは何かなど、貴重なアドバイスもお聞きしました。
司会:少壮吟士を受けられた頃から、まずお聞きします。
八代「私の場合、父が師匠であり、少壮吟士の先輩にもなるのですが(編集部註:第五期少壮吟士八代輝霊さん)、ある時、父が少壮吟士として舞台に出ておりまして、その姿を見て子供心ながらいいなと思いました。しかし、私にとって父は少壮吟士である前に師匠なので、父を少壮吟士として意識したことはありませんし、父が少壮吟士だからという理由で少壮を受けたわけでもありません。少壮吟士それ自体に憧れがあって、私も舞台に上がって吟じてみたいという気持ちでした。少壮吟士は雲の上の人という存在でした。本当に子供の頃から舞台を見ておりまして、私もあのように舞台にあがれたらいいな、という大きな夢がありました。時とともに、少壮吟士を受験できる年齢になれましたので、ひとつ自分を試す意味で少壮吟士を受けてみました」
久保「私は全国吟詠コンクールをずっと受けておりまして、優勝できるまでと思って続けていたのですが、残念ながら優勝はできませんでしたが、その延長線上に少壮吟士がありました。先輩に少壮吟士がいらしたので、見ていると大変そうではあるけれど、凄いなという感じがありました」
司会:実際に少壮を受けてみて、いかがでしたか?
八代「私の場合、何度も言うようですが、父が少壮吟士なので、少壮に受かって当たり前という見方を周りの皆さんがどうしてもしてしまいます。先生にかぎって、とよく言われますが、同じ人間ですから、失敗もすれば緊張もします。それがかえってプレッシャーになって緊張につながりましたね。特に第一回目の時には、コンクールをずいぶん離れていましたので、教える立場としては、会員のみなさんに『どうしてそんなに緊張するの』と言っているのに、いざ、自分が出るとなると、やっぱり緊張してしまいます(笑)。少壮吟士に受かりたいという気持ちより、父に恥をかかせられないという気持ちが強く、それで緊張したのでしょう」
司会:久保さんはいかがですか?
久保「初めて少壮吟士を受けたときは、何度受けてもきっと通らないという、自分のレベルの低さを感じました。受けるのはもう止めようかなと思ったのですが、吟を止めて新たに何かを習うのも大変だし(笑)、やはり続けようと思いました。少壮吟士コンクールは自分の力の無さをまざまざと教えられたような気がします。それまで二回受けて落ちていたので(笑)、初めてコンクールを通ったとき、もちろん上手くはありませんでしたが(笑)、この調子で練習を頑張りなさいと、背中をポンと押されたような感じでした。それで頑張れば何とかなるかもしれないと思ったのは初めて通ったときですね。すごく自分の考えが前向きな方向に変わりました」
司会:その考えというのはどういうものですか?
久保「最初に受けて落ちたときは、せっかく一生懸命練習したことが、落ちたことによって、すごく無駄に思えたのですが、そうではなくて、十五題課題曲があるということは、その課題曲を少なくとも人前で吟じることができるように一年のうちに自分のものにしないといけないという、ある意味では過酷なのですが、自分の実力を高めてくれるコンクールだと感じるようになりました。三年で合格すれば四十五曲、もし十年かかっても百五十曲を練習できると考えれば、気分が楽になりました(笑)。最初受けて落ちたときに残念と感じたことよりも、自分の栄養になるのだと考えると、また落ちても次の一年間を頑張れるし、自分のプラスになっているのだと肝に銘ずることができます。だから、がっかりすることはないのだなと思いました」
司会:八代さんのコンクールヘの感想は?
久保草風さん
八代「そうです。たまたま幸運と強運に恵まれまして、十五題課題曲があるわけなのですが、たまたま自分がやれるかなという吟題に当たったということと、私が挑戦する年度から伴奏がカラオケを使ったコンクールに変わったことが、私にとっては幸運だったかなと思います」
司会:コンダクターの方がやりずらいですか?
八代「そうですね、コンダクターですと時間的に今どのくらいなのかというのが、あまりつかめませんので、それを考えると、カラオケは音楽に調和していけば時間内に吟が終わりますから、コンダクターからカラオケになって、私自身は良かったと思います」
司会:その点、久保さんはいかがでしたか?
久保「私の場合も音楽がついて良かったなと思いました。やはり、みなさん同じスタートラインに立って、ヨーイドンで同じところから始まるわけですから、早く音楽になれて音楽を味方につけた方が得だなと思いましたね。最初、音楽になれるまでは食事の支度をしながら音楽だけを流したり、なるべくなれるようにしました。課題曲を決めるときもとりあえず音楽を一から十二まで流してみて、合わないのを消去し、合いそうなのを選んでいきました」
司会:調和というのはなかなか難しい問題ですね?
八代「はい、吟をやる前にある程度カラオケがどういう形で構成されているかということを自分で把握していないと、調和ということはなかなか難しいと思います」
NHKロケにて。左/久保草風さん、右/八代光晃子さん
司会:伴奏は選べるのですか?
八代「自分で選べます。選曲も難しいです。十二曲あり、三パターンに分かれていますから。舩川先生がある時、伴奏をお作りになった時のイメージを知り、それを知ってから、かえって逆に選ぶのが難しくなったかなと思います」(笑)
司会:久保さん、そのへんはどうですか?
久保「説明を読むと、自分が選ぶ曲と多少ズレが出てくるのですが、最後はノリのいいもの、自分がやりやすいもの、自分に合っているものを選びました。センスを問われると思いましたので、自分のセンスと審査員の先生方とセンスが違っていて、落とされても仕方がないかな、と割り切って考えました」(笑)
司会:最後にお二方に少壮を目指されている方へのアドバイスをいただいて終わりにしたいと思います。
八代「私は会員さんに指導する場合、いつも言っているのですが、実は自分にも言い聞かせていることで、詩吟を知らない人にも、何を言っているか、はっきり分かるように言葉を大切に明瞭に発音しなさいということです。日本語ですから言葉を大切にし、言葉の読みなど丁寧に吟じていただきたいですね。コンクールが全てではありませんし、漢詩が好きだから詩吟を学んでいらっしゃる方もいます。そんな方々には年齢を超えて末永く楽しく学んでいただきたいと思います。まだ私自身が若輩者で、勉強中の身ですので、アドバイスなんておこがましい気がします。ただ、ひとつ言わせて頂くのなら、やはり日本語を大切にということです」
司会:久保さんは何かございますか?
久保「焦らず、休まず、諦めず。落ち込んだときにこの気持ちを忘れぬようにしました。稽古を続けていくというのは大変なことです。しかし、続ける喜びというのが必ず待っているのだと思い頑張りました。無駄なこと、回り道だと思っていたことが、その人にとっては一番の近道だったと後になって気づくことがあると思います。挫折も財産となりますから。それから身近によい理解者がいることは大切ですね。私の場合、家族でした」
司会:本日はどうもありがとうございました。お二人のこれからのご精進、ご活躍をお祈りいたします。
左/久保草風さん、右/八代光晃子さん
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