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2. 各論
吟詠・発声の要点 ◎第十回
原案 少壮吟士の皆さん
監修 舩川利夫
(3)発声法
 姿勢、呼吸に続く項目は、このシリーズの主題、発声法です。皆さんは演歌などのカラオケがお好きですか?上手に歌えるのは、きっとカラオケに適した歌い方を覚えたからでしよう。それと同じで、吟詠には吟詠に合った発声法があるのです。それを知って、合理的に練習することが、上達への近道です。今回はその筋道を示して、次回からの準備とします。
 
発声・身体の仕組み
 総論でも書いたが、人の声は、元となる音が声帯で作られ、喉、口の中、鼻などを通る間に共鳴(*1参照)が働いて大きくなると同時に、その人の特徴ある声になって外へ出てくる。普通に話しているときも共鳴は自然に働いているが、歌うときはこれを意識して上手に使い、より音楽的な声を作り上げなくてはならない。人の体の共鳴体というと、普通は気管、喉、口腔、鼻、頭部など、呼気が直接通過して共鳴を起こさせる場所を指すことが多い。
 これを仮に「第一の共鳴」と呼んでおく。そして特に吟詠の声にとってはそれを支える第二、第三の共鳴と呼べるような、男性にとっては重厚な響き、女性の吟にあってはよく通って素直な響きを作る仕組みが大切になってくる。スピーカーにたとえると、真ん中に音波を出す振動体があり(人の声帯にあたる)、そのまわりに振動を増幅する薄い紙のような共鳴体がある(喉、口、鼻にあたる)。それらを囲むようにして厚手の木材やプラスチック材があり、ときにはそれに加えて下に金属板を敷いたりしている。これが第二、第三の共鳴体に相当するもの。
 何のためにこうした装置が必要かといえば、低周波振動(音波でいえば、低音といわれる波長の長い音波の振動)を支えると同時に多分、共鳴作用も働くものと思われるが、いずれにしても、男性吟の特色の一つである腰に響くような声を作るうえで大きな役割を受け持っている。発声の練習がだんだん進むと、このへんのコツを習得することになるが、最初は第一の共鳴を主に勉強する方が効果的のようだ。
 
初めは声の大きさを気にせずに
 「呼吸法」の項で勉強したことだが、吸気は素早く、呼気は長く均等に、発声の初歩ではこれが大切なことだ。(【図】参照)とりあえず「ア」の母音で、自分の出しやすい音の高さで声を出してみる。声の出だしに少し勢いをつけて(アタック、強弱のアクセント、硬起声とも言う)すぐに小さくし、安定した声が何秒続くか。いわば頭部の共鳴を維持する最少限の呼気量を身に付ける。(本稿の第九回に掲載した「保息」を参照してください)
 発声の初めは、声の大きさにはこだわらない方がよい。先生によっては入門者に「ともかく大きい声で詠ってみなさい」と教えるが、これは入門者への興味付け、つまり大声で詠う一種の快感を味わわせるためのものと割り切ったほうがよい。共鳴や、響かせ方を覚える前に音量を上げることを続けると不必要な「力み」癖をつけることが多い。かなり年季を積んだ吟者にも時たま「力み」や「喉絞め」が見られるが、習い始めに気をつけることで、これは避けられるだろう。
 
 
音域、音階に慣れる
 発声と平行して勉強することが二つある。一つは自分の適正な音域を知ること。声の高さは声変わりしたときの声帯の形、大きさなどで決まってしまう。吟界では高音域が尊重されているようだが、無理に高音を出すと、自分の喉を痛めるし、聴く側にも苦痛を与える。自分も楽で、心地よく聴いてもらえる吟を心がけていただきたい。平行して勉強する二つ目は、吟詠の音階に慣れること。「ア」の母音でいいから音程のしっかりした楽器に合わせて「ミ、ファ、ラ、シ、ド、ミ」の上向と下向を何回もやり、感覚的に体にたたきこむこと。音楽としての基本であると同時に、いずれ挑戦することになる「調和」の問題に上手に対処するため、「和音」の感覚を養う上で大事な練習になる。
 
第二、第三の共鳴へ
 第一の共鳴が首から上を使った響かせ方であったのに対し、第二、三の共鳴はほとんど全身を駆使して響きを作る。実践の項に譲る。
(*1=この場合の共鳴とは、声帯で出来た音の波が喉、口、鼻腔などに同じ振動を起こさせ、激しく振動すること。このために声が大きくなる)







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