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漢詩初学者講座
吟詠家に漢詩のすすめ(50)
四国漢詩連盟会長
愛媛県吟剣詩舞道総連盟会長
伊藤竹外
 
一、現代を吟じ現代を舞う
 今、全国各地で行われている吟詠剣詩舞大会のプログラムの吟題の殆どは李白から始まり江戸、明治維新などの漢詩を繰り返し吟じていて現代作詩家の漢詩は皆無に近いようです。
 李白も杜甫も千三百年前、戦乱の世相を歎き作った詩は当時の中国の時代背景に依り、又日本の江戸、明治維新前後の時代背景は今日の世相、世界情勢と全く異っています。何故、吟詠家は過去の詩のみに寄りすがっているのでしょうか。考えられることは、
(一)吟詠は伝統芸術であるから古い吟題の方が適切である。
(二)皆が知っている吟題の方が安心感がある。
(三)新しい吟題に取り組む勇気がない。等々。
 芸術は常に新しさを要求するものであります。繰り返しは最早、芸術ではなく、繪画も書道も彫刻も斬新さを競っています。
 先日、五月四日、四国漢詩連盟結成記念大会では四国各地から投稿された百七十七篇を、自作吟詠、剣詩舞構成吟、更には舞台ホリゾント十米(メートル)に画紙を振りめぐらせ一時間の吟詠の間に松山城四百年を記念して作詩したものを広島から馳せ参じた得能滄暢画伯によって色彩も鮮やかに雄渾なる画道吟をもって感動と興趣を盛り上げました。
 漢詩家たる者は、その時、その場所、その時代を詠歎をこめて賦すのが使命であると思います。現代漢詩家、吟詠家の將来の展望を期待し、研鑽を祈る所以であります。
 
二、課題詩「源平盛衰記」について
 この課題は前記の最も古い吟題の範疇(はんちゅう)に属しますが、八百年前の源義経の波瀾万丈の劇的な生涯は、大楠公や忠臣蔵などとともに、最も好詩題として古より映画に劇に演出され吟じられ、舞われて来ました。
 この歴史的背景を哀愁をこめて漢詩に再現することは現代人の感覚をとおして古さを超越し今後の構成吟舞などの素材たり得るものと思います。
 唯、投稿詩を拝見するに観念的なありきたりの表現が多く、詩情を盛り上げるべき、構成、脈絡、表現技巧に難点が多く、原作ではとても第三者を感動せしめることはできません。
 今月は添削例を多く挙げて参考に供したいと思います。







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