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吟詠・発声の要点 第七回
原案 少壮吟士の皆さん
監修 舩川利夫
2. 各論
(1)姿勢=続き
 前回の(1)声を出しやすい(2)呼吸を思うようにできる、に引き続き姿勢について考えます。
 
(3)安定していて、見た目に美しい
 総論で触れたように、安定した吟詠は安定した姿勢から生まれる。そのために先ず考えなくてはならないのが″重心″である。これは物の重さの中心といったよく使われる意味の他に、吟詠ではもう一つ大事な意味合いを含んでいる。つまり、意識の中心であり、よく言われる「臍下丹田に気を入れる」場所とも重なる所だ。そこに意識を集中することにより、身体の他の場所の力を抜くことができ、体の安定を得ると同時に、しっかりとした支えのある声を出すための下準備ができあがることになる。いわゆる意識の重心を、どのようにして身に着けるか、一例を挙げてみる。
 
重心を設定するやり方の例
 先ず、ごく自然に立つ。目は一点を見つめず、なるべく遠くを漠然と見る。臍下丹田(へそのやや下の腹中)に大きなリンゴを入れたつもりになる。【図1参照】そのリンゴをだんだん小さくしていって、ついには一点にする。このとき、意識はリンゴの一点に集中され、同時に気力も集中される。従って身体の他の部分は脱力される。このとき、意識の集中点である重心(一点のリンゴ)は、土踏まずの真上に感じるようにする。
 こうしてできた立ち姿は、特に足を踏ん張っているわけではないのに、背中をかなりの力で押されても動かないくらいしっかりとしている。いわゆる″柔の剛″という感じ。
 
 
美しい立ち姿
 言葉で言い表すときは男女で多少の違いはあるが、″自然体″″凛々しい″″スックと″″しなやか″などを頭に描けば、ほぼ間違いない姿勢が浮かび上がる。
 具体的にはどのような姿勢かといえば、いま本欄で記していることの総決算としか言いようがないが、ここでは、美しいとは言い難い二、三の例を挙げておく。
(ア)視線、からだの向き、足の開き、口の動かし方などが、どちらかに偏っている、つまり左右対称でないとき。
(イ)マイクを使う場合。首から上、時には上半身までがマイクに覆いかぶさるような姿勢。これは見た目だけでなく、発声の上でもよくない。
(ウ)男性吟者の中で、威風堂々が過ぎて肩、胸の反らせ過ぎ、足の開き過ぎ。
 なお、礼儀作法に適っているかどうかについては、それぞれの会派、流派のしきたりなどがあるので、ここでは省略する。
 
(4)身体に負担をかけない(疲れにくい)
 年齢を重ねるにつれて腰痛で悩む人が増える。その原因はいろいろだが、立っているときの背骨の形に大いに関係があると聞けば、注意しない訳にいかない。姿勢と腰痛、声の関係を手みじかに記してみよう。
 
出っ腹、出っ尻、腰痛のもと
 背骨(脊柱)は体の重さを支えるのと同時に、すぐ後ろにある神経の束を保護している。これが曲がったり歪んだりすると、痛みを感じるなど体の不調がでてくる。脊柱は横から見てS字型に曲がっている。【図2】のように″S字″の一番下端の曲がりの部分が腰骨(五個の骨からなる腰椎)で、その下の仙骨がさらに角度をつけて曲がり、骨盤につながっている。この場所は体重の負担をもっとも受ける上、骨の並びが曲がっているので、年とともに変形しやすい。只でさえ真っ直ぐにしたいところを、いわゆる「気をつけ」の姿勢のように尻を引き、腹を前へ出すと、腰椎と仙骨の角度がますます鋭くなり、骨は圧迫されて変形しやすく、また骨の間にある軟骨状の椎間板も不均等に押されて飛び出したり、神経の束を刺激したりする。これが腰痛の原因の最大のものだという。
 
 
腹筋を少し引き締める
 対策としては背骨をなるべく真っ直ぐに保つこと。「私は真っ直ぐだから大丈夫」と言う人でも、柱を背にして立つと、腰のすぐ上あたりで、背中と柱に隙間ができることが多い。ということは背骨の曲がりを大きくしているので、治したほうがいい。
 腹を引いて腹筋を少し緊張させてみる。まだ隙間があれば、骨盤を前の方に少し回転させる。それでもダメという人は仰向けに寝て膝を立てみる。【図3参照】これで床面との隙間は埋まったのではないだろうか。この感じをつかんで改めて立位をとると、結局は骨盤を前へ回転させる意味がわかるものと思われる。
 腹を引き締め、骨盤を前方へいくらか回転させて腰をやや落とした状態というのは、重心を低く保つ・腹式呼吸の準備段階・高い声を下支えする・などと関連して好ましい姿勢であるということができる。
 







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