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6. 成果と今後の活用
 本研究部会では、デジタル生産技術を造船現場に投入し、従来にない造船の高精度生産技術を確立することを目標に、次の事項を目標に研究開発を行ってきた。
1)高精度な加工及び組立のための,船殻部材及びブロックの加熱変形推定技術と加熱変形制御技術を確立
2)熟練技能者の作業知識の理論化または簡便な数値化及び数式化によるデジタル変換技術を確立
3)各製造段階における部材の寸法形状を把握するための,熟練技能者の目に変わる三次元計測技術の開発
4)1)〜3)項の技術を融合した数値情報処理技術の開発
 
 これらの研究開発で得られた成果により従来技術からどのように生産技術が革新されるかについて述べ、更には応用範囲を高めるために必要な技術について触れて本研究成果をまとめたい。
 
 本研究の成果を活用して造船工場にデジタル生産技術を導入することにより次の効果が期待できる。
(1)板曲げからドック内工事までの一貫した高精度・高効率ブロック生産
(2)付加価値のない付帯作業(手直し、再マーキン他)の大幅削減
(3)リードタイム短縮による短納期建造と年間建造量の増大
 
 また、表6.1に本研究部会の成果をまとめる。なお、本研究の成果をNASAなどで技術の成熟度と今後の投資効果を評価することを目的に使用されている技術評価基準のTRL(Technology Readiness Level)を用いて自己評価を試行した結果についても併せて記載した。
 
 以下にそれぞれの項目について実用化出来る技術とその技術の応用展開について述べる。
 
(1)板曲げ加工については、従来の現場板曲げ加工ステージで熟練作業者に依存していた加工要領が、本研究で開発した“曲面理論を適用した加熱位置決定手法”と“加熱変形推定技術を利用した加熱量の決定手法”を用いて「加熱位置自動決定プログラム」を展開することで、設計段階の現図展開時に加熱位置を事前に検討し加熱要領として加工指示をすることが可能になる。また、形状計測を板曲げ加工ステージでインライン化することが出来れば加熱加工毎に計測し、計測結果を曲面解析して次の加熱位置を決定することが可能になると共に、自動装置化することも可能になる。また、板曲げ加工の上流工程になる設計作業の現図展開を含めて考察すると、原理的には展開時の伸ばし量が板曲げ加工時の収縮量になるので、展開誤差のない現図展開手法を応用展開すれば更に高精度に設計〜加工までの一貫システムの構築が可能になる。
(2)ロンジ曲げ加工についても、板曲げ加工と同様に従来の現場ロンジ曲げ加工ステージで熟練作業者に依存していた加工要領が、本研究で開発した“目標のネジレ量に対する加熱時の拘束変形量の推定技術”を用いて「加熱加工要領出力リスト」ソフトをExcelなどを使って構築することで、設計段階の現図展開時に加熱位置を事前に検討し加熱要領として加工指示をすることが可能になる。但し、本研究では弾性域(線形)における拘束影響を利用した純捻れ加工方法を対象としているため、塑性域(非線形)まで拘束影響を考慮した、即ち、熱弾塑性FEM計算を駆使して加熱時の拘束変形量の推定を行って加工要領を出力できるように応用展開を図ることが望まれる。
(3)加熱変形推定技術のために必要なガスバーナー加熱時の入熱量の定量化が図られ、従来は現場での入熱量は大、中、小と定性的な指示だったものが、本研究成果を活用することで入熱量のダイナミックスな時間変動まで考慮可能な推定技術化が可能となり、現場での定量的に入熱量を指示することが可能となる。更に、本成果を加熱変形推定技術との連結を図ることにより、通常、推定計算条件としてガス入熱時の温度分布を実験的に求める必要があったが、推定計算のみでガストーチの移動まで考慮した温度
(4)デジタル生産技術に不可欠であると思われる三次元形状計測技術については、従来の巻尺、金尺、水ホース等の計測ツールを用いた計測から、計測データのデジタル値を入手することによって工作精度管理技術に活用できると考えられる。しかしながら、最新の三次元形状計測装置によって高精度に計測が可能となるが、その実現のためには計測対象に応じた治具、場所、基準となる計測ポイントなどが必要である。これらの設備の選択及び使い込むには熟練を要するため、予め計測対象に応じた設備が整備された計測ステージを設けることにより熟練レスでだれでも簡便に形状計測が可能となるものと考えられる。応用展開としての実用面では計測ステージの構想も必要になると思われる。
(5)また、三次元計測技術については、造船に必要な精度以上に高精度に計測が出来ても元々剛性が低い状態では、設置状況、気温、その他の条件で部材が変形してしまう。このため、設計情報と工作情報を単純に比較出来ず、計測結果から部材の必要な精度を管理するには経験と勘に基づく熟練を要していた。本研究で開発した“計測対象の自重、拘束、温度影響キャンセル技術”を用いることで単純に設計情報であるCAD値と計測値を比較することが可能になると考えられる。また、特にブロック製作時の精度管理項目であり、捻れなどの要因を捉えるのに有効なガース長さの計算も管理ソフトとして利用することで計測データを入力するだけで簡便に把握することが出来るようになると考えられる。更に応用展開を図るには、(4)の計測ステージの整備と同様に計測対象に応じた評価ソフトの整備を図る必要がある。
(6)中組立工作精度管理としては、従来は経験と勘に基づく工作精度管理ブロックを設定していたが、本研究の成果を活用することにより板曲げ、ロンジ曲げでの部材精度管理のみで中組ブロックの高精度な生産が可能なブロック形状はどのようなものなのかといったことを定量化することが出来る。更に、この技術の応用展開として、ブロック分割の合理的な設計手法の開発に応用出来るものと考えられる。
(7)本研究自体の研究開発の手法は、造船の多くの熟練を要すると云われる技能に対して作業ノウハウである作業知識を形式知化、即ち、ナレッジ化するためのアプローチとして有効であると考えられる。従来は各社自前の現場ノウハウであり更には作業者に依存していた技能であった作業ノウハウを、本研究部会で実施した現状調査、ヒアリング、討論会を通して得た知見を基に、「各社いい所取り」で実用化を進めている。今後は、本研究部会で取得した研究の進め方を参考に、例えば、中組立作業のデジタル化などで、鉄工作業を模擬した部材引き付け影響を考慮した組立変形推定技術の開発などの応用が可能となる。
 
 最後に、本研究の実施を支援していただいた日本財団にお礼を申し上げると共に、始終活発な研究と討議を行って頂いた参加委員各位に、更には、本研究部会に参画ご指導頂いた先生方、また、研究の実施に始終努力を払われた日本造船工業会及び日本造船研究協会の方々に心より感謝する次第である。
 
表6.1 船殼ブロックのデジタル生産技術の実用化(技術Map)
開発テーマ(*特許出願) 従来技術(SR246実施前) 設計・現場へ即適用可能なデジタル生産技術(SR246実施後) 応用範囲を高めるために
必要な技術
TRL
(1)*設計段階からの板曲げ加工指示 現場板曲げ加工ステージで熟練作業者に依存 a. 曲面理論を適用した加熱位置決定法

b. 加熱変形推定技術を利用した加熱量の決定法

(試作ソフト)加熱位置自動決定ソフト
a. 展開誤差のない現図展開手法 4
(2)設計段階からのネジレのあるロンジ曲げ加工指示 現場板曲げ加工ステージで熟練作業者に依存 a. 目標のネジレ量に対する加熱時の拘束変形量の推定技術

(試作帳票)加熱加工要領出力リスト
a. 塑性域(非線形)まで拘束影響を考慮した加熱時の拘束変形量の指定 5
(3)ガスバーナー加熱時の入熱量の定量化 現場での入熱量の指示は大、中、小と定性的 a. 入熱量のダイナミックスな時間変動まで考慮可能な推定技化
→現場での入熱量指示の定量化
a. 加熱変形推定技術との高度な連結

(モデリング、計算時間の簡素化)
5
(4)板曲げ、骨曲げ、中組ステージの3次元形状計測技術 巻尺、金尺、水ホース等の計測ツールを用いた計測 a. 計測データのデジタル値入手による工作精度管理技術

(作業ステージに適合した最新計測技術の選定)

(試作ソフト)工作精度評価ソフト
a. 3次元形状計測技術に対応した造船現場の基盤整備

(計測ステージの設置他)
4
(5)*設計情報と工作情報の整合性評価技術 決め方、鉄工職などの専門的な熟練技能に依存した評価 a. 計測対象の自重、拘束、温度影響キャンセル技術

b. 工作精度管理計測技術

(試作ソフト)ガース長さ管理ソフト
a. 計測対象に応じた評価ソフトの整備 5
(6)中組工作精度管理 経験に基づく工作精度管理ブロックの設定 a. 板曲げ、ロンジ曲げの部材精度管理のみで中組ブロック高精度生産が可能なブロック形状を定量化

(ブロックのネジレ度の把握)
a. 左記観点からのブロック分割合理化設計法の開発 3
(7)造船現場固有のノウハウのナレッジ化 各社自前の現場ノウハウで運営 a. 各社横通しの熟練技能者討論会

(板曲げ、ロンジ曲げ、中組立)を実施し、熟練技能のデジタル化手法が明確になった。
a. 中組立て鉄工作業のデジタル化

例:鉄工作業を模擬し、部材引き付け影響を考慮した組立変形推定技術の開発
4
TRL(Technology Readiness Level):NASA等で使用されている技術評価基準を用いた自己評価

レベル 内容
1. 原理・技術コンセプトの提案
2. 机上解析レベルでの検証
3. 実験室レベルでの検証(模擬環境)
4. 実験室レベルでのスケールアップ則の検証
5. 設計・現場での技術検証







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