1. 研究の目的
船舶の製品としての安全性、性能品質は本来ライフサイクルにおいて評価が求められるべきものである。その実現のためには基本設計の段階からライフサイクルでのコストパーフォーマンスの向上に評価の重点を置いた設計が求められることになる。
性能設計の面からこの問題を捕らえると、従来の平水中性能を評価の基本としていた船型開発、設計法では必ずしも上記の要求に応えられるとは言えない。即ち、実海域での運航状態を想定した実海域性能の推定と評価に基づく船型計画法に変革し、総合的、長期的評価に基づく新たな設計システムを構築し、その実用化を図って行く事が要求される。
本研究では、上記の背景の基に最新の基礎理論を導入し、高精度で実用性の高い実海域における性能設計評価システムを開発し、ライフサイクルコストの最小化、ライフサイクルバリューの最大化を図った船型開発を可能にし、船舶製品の技術的差別化、海上輸送における市場競争力の更なる強化の実現を目的としている(図1)。
図1 実海域対応性能設計の目的
2. 研究の目標
従来の設計においては依然としてストリップ法と線形理論に基づいた周波数領域シミュレーションによる評価法が主であり、設計の詳細段階、船型開発における実海域性能評価への実用化を考えた場合、現実現象への適合性、評価の信頼性についての検討、検証は必ずしも十分とは言えず、平水中性能評価技術と比べると精度面においても多くの改善の余地を残している。
本研究では、実海域における性能設計指針を与えることと、実海域対応の実用的性能設計システムの開発を第一目標として、システムの核となる短期海面応答特性推定技術を最新の基礎理論をベースに構築し性能設計システムに組み込み、推定法の理論的高度化と高精度化を図って行く。また、その一環として推定精度の検証分析と推定モデルの改良を目的として模型試験法の改良とそれによる系統的模型試験、更に実船による検証試験を実施する。
具体的には以下を研究の目標としている(図2)。
(1)波浪中を航行する船の船速低下を、数値解析により精度高く求めるためのモデル構築を行い、実海域対応の最適船型設計および最適運航支援の核となる性能推定システムを試作、評価、課題抽出を行い、実用化に目処を付ける。
(2)航海時に遭遇する波浪状況を的確にモニターし、定量的に推定するためのシステムの技術開発を行い、性能評価の基本となる遭遇波浪特定のための技術の確立と実用化に向けての課題抽出を行い、実用化に目処を付ける。
(3)数値的波浪推定は事前の予測による航海性能推定、航海後の追算による運航性能実績評価に不可欠であり、そのため現在の推定システムをベースに近傍観測値とのデータ同化による精度向上を図り、実用化に目処を付ける。
(4)実船実験を実施し、取得されるモニタリング情報を管理、分析評価するためのデータベースシステムを開発する。また、モニタリングされる実船性能データからシーマージン分析と、応答統計量分析とを行い、実績性能の評価法を確立する。
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図2 システム技術の開発目標
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