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4. まとめと成果の活用法
 本研究では、ライフサイクルに亘る船舶の合理的な安全性向上に寄与する技術開発課題として、「船体構造の先進的疲労寿命監視・管理」に取り組み、全体コンセプトの確立及びその実現に必要な、設計時の遭遇海象予測/疲労亀裂伝播予測から就航後の実船モニタリング(追跡)/保守点検/運航支援までに係わる各種技術の高度化と具体的開発を試みた。
 その成果として、特定の航路に就航する個々の船舶が遭遇する海象(波高・波周期・波向)の相違を定量的に予測・追跡する事を可能とし、また疲労亀裂の成長(伝播)履歴を逐次シミュレートし、実際の疲労亀裂損傷寸法との直接の比較を可能とする実用的な技術基盤を整備した。
 これらの技術進歩はそれぞれ単独でも船体構造の設計品質/安全性向上に寄与するが、特に就航中モニタリング技術と組合せた場合には、相乗効果で有用性が高まる。従来、船体モニタリングシステムの実船搭載は希であり普及している技術とは言えない。その主原因は、船体モニタリング実施によって得られるメリットが不明確である点に尽きる。メリットについての具体的なアピールが不足していたり、モニタリングデータの有効活用に必要な基盤技術が未熟でメリットの信憑性に説得力が欠けていた等の事情がある。今回SR245が開発し提案する船体構造の先進的疲労寿命監視・管理スキームでは、船体モニタリングは個船の疲労面での履歴と初期設計条件との相違状況とを追跡・把握する為に必須な、重要事項と位置づけられる。そこでモニタリングを含む主要技術に関してはPC版のプロトタイプシステムを開発し、実用性能を把握すると同時に、ユーザーによる入出力作業/運用時の有用性等のイメージアップとアピールとを図った。
 個船毎の特定構造寿命管理の為には、個々の航路別海象特性(嵐モデル)の把握・設定、応力集中部の絶対値/詳細な分布形状の高信頼度推定及び容易な亀裂損傷検査・検知法の実用化等、具体化に伴う検討作業が必要である。また、腐食衰耗を組合せて扱う為には別の研究アプローチも必要となる。とは言え、船体構造寿命の安全性管理高度化の為の一貫した方法論・方針を提示できた。これら方法論の一部(分野)は従来からも独立的・断片的に開発・試用が図られてきているが、関連する現有技術の実用度に応じて全体統合化の為の全範囲的な研究開発目標を設定し、結果としてトータルバランスのとれたレベルアップに至ったのは特筆すべき成果と言える。
 
5. 終りに
 以上紹介した SR245 に於ける研究開発内容は、長期間に亘る海象データの収集、実船モニタリング、疲労強度解析に関する一連の研究実施等、関係者(機関)の基礎的で継続的な努力と理解(支援)の結実である。SR245 では、対象事例としてダブルハルVLCCに焦点をあてて研究開発を実施したが、本研究成果即ち、「船体構造寿命の安全性管理高度化の為の一貫した方法論・方針」はタンカーに限らずあらゆる船種に共通の、汎用性の高い技術でもある点が強調される。
 大学・研究機関・船級協会・海運会杜・造船会杜等、多種多面的な技術と経験とを有する多くの機関が参加し且つ、継続的な協同基礎研究が、安易に追随できない独自性ある技術(コンセプト)を生み出す素地になる事を、再度指摘して終りの言葉(尽力頂いた関係先への謝辞)としたい。
 最後になりましたが、本研究の実施にあたりまして、日本財団より多大なご支援を頂いた事に対し深く御礼申し上げます。







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