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3. 自動車事故被害者の救済の概要
(1)自賠責保険制度改正の経緯
 自賠責保険(自賠責共済を含む)に係る制度のあり方は、年間118万人を越える交通事故被害者や、8,000万台を越える自動車(原付自転車等を含む)のユーザーにとって、直接的な影響が及ぶ重大な問題である。
 とりわけ、交通安全の実現や交通事故被害者の保護・救済の問題は、最近約10年間に交通事故被害者が約45%増加し、平成13年度においても昨年の死傷者数を上回るという深刻な状況の中、今まで以上に重要性を増している。
 自賠責保険は、交通事故被害者に対する基本保障の実施を通じ、車社会の安全ネットとして一定の機能を果たしてきたが、平成10年10月の経団連による規制緩和要望をはじめとして、自賠法の制定当時に想定されていたリスクヘッジ機能の必要性の低下により政府再保険を廃止して事務の簡素化を図るべきとの要望が出されていた。
 このような要望を受け、当時の運輸大臣懇談会(「今後の自賠責保険のあり方に係る懇談会」)や自動車損害賠償責任保険審議会において議論が行われた結果、「規制緩和推進3か年計画(再改定)」(平成12年3月31日閣議決定)に「被害者保護の充実」等の5条件を確認した上で政府再保険を廃止することが盛り込まれた。
 この閣議決定を踏まえ、政府再保険廃止の5条件の具体的なあり方について、引き続き議論が行われ、その結果を踏まえ、法律案がとりまとめられ、第151回国会において、「自動車損害賠償保障法及び自動車損害賠償責任再保険特別会計法の一部を改正する法律」として成立し、平成14年4月1日から施行されている。
(制度改正の概要)
(1)支払いの適正化のための監督制度
ア. 一定の重要事案についての審査(第16条の6)
 重要事案(死亡案件等)に限り保険金支払いの事後届出を義務付け、支払いの適正を審査する。
イ. 支払基準の法定化(第16条の3)
 統一的な基準に基づき、迅速かつ公平に保険金の支払いがなされるよう国土交通大臣及び内閣総理大臣が保険金の支払基準を定める。
ウ. 被害者等に対する情報提供の充実(第16条の4・第16条の5)
 保険金支払請求者が、適正な支払いであるかを判断するために必要な情報を入手できるよう、保険会社に対し情報提供を義務付ける。
エ. 申出制度の整備(第16条の7)
 保険金の支払いが支払基準に違反し、又は保険会社が適正な情報提供規定に違反している場合には、請求者は国土交通大臣に対しその旨を申し出ることができる。
オ. 指示・公表・命令等(第16条の8、第23条の2)
 国土交通大臣は、保険会社に対し、適正な支払手続に従うべき旨を指示し、従わない場合はその旨を公表し、当該指示に従わない場合は指示に係る措置をとるべき旨を命ずることができる。
また、保険会社に対する報告徴収及び立入監査の監督規定を整備する。
 
(2)紛争処理の枠組みの整備
 自賠責保険の保険金支払に関する紛争解決のため、業務を行うために必要な要件を満たした公益法人を国土交通大臣及び内閣総理大臣が指定し、専門的な知見に基づき迅速かつ公正中立に紛争を処理する制度を設ける。
 
(3)政府再保険の廃止に伴う被害者救済対策とユーザー還元
 政府再保険の廃止に伴い、特別会計の保険勘定は不要となるが、これまでの積立金を原資として、被害者救済対策事業及び事故防止対策事業の実施に20分の9、保険料の値下げを通じたユーザー還元に20分の11を充てる。
 
(2)自賠責保険制度の概要
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(3)損害賠償の請求方法
(1)責任保険又は責任共済加入自動車による被害の場合
 次の2つの方法がある(カッコ内は責任共済の場合)
ア. 被害者は加害者に対し損害賠償の請求をする。
(注)
加害者は損害賠償金を支払った場合には、その支払った金額の限度においてその自動車について契約を締結している保険会社(農業共同組合又は同連合会等)に対し保険金(共済金)を請求することができる。この保険金供済金)には一定の支払限度額がある。
イ. 被害者は加害者がその自動車について契約を締結している保険会社(最寄りの農業共同組合又は同連合会等)に対し直接損害賠償額の支払いを請求する。この金額については保険金(共済金)と同様の支払限度額がある。
 損害額が支払限度額を超える場合には、被害者はその超過分の支払いを加害者に請求できる。
(2)自衛隊(一部を除く)、米軍及び国連軍が運行の用に供する自動車による被害の場合
 被害者は自衛隊については、各部隊に対し、米軍及び国連軍については防衛施設庁の地方機関に対し損害賠償を請求する。
(3)責任保険等に加入していない自動車((2)に該当する自動車を除く。)又はひき逃げによる被害の場合(保障金請求)
次の2つの方法がある。
ア. 被害者は保険会社、農業協同組合又は同連合会等を経由して政府に保障金を請求する(政府はあとで加害者に求償する。)。この保障金には保険金と同様の支払限度額がある。
 被害者は損害額が支払限度額を超える場合には、その超過分の支払を加害者に請求できる。
イ. 無保険車による事故の場合等加害者が判明しているときには、被害者は直接加害者に対し損害賠償の請求をしてもよい。







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