■3. 地域発展戦略への視点
(1)機能主義への転換
「機能主義への転換」というのは、今まで地方というのは、公共事業をたくさん持って来る、これは金額が高いほど良い、雇用効果があるという話をしていたのです。これはそうではなくて、高いということは、結局料金に跳ね返ってくる、税率に跳ね返ってくるわけですから、安くて良いもの作って、ビジネス環境を良くしてもらった方がいいに決まっている。
ですから、雇用を維持するための土木事業ではなくて、社会資本整備を速やかに、安く、良いものを作ってもらう。良いものというのは、それなりのものであればいい。高速道路でも、一車線でいい所は一車線で安上がりにしていくことによって、同じ金額でも2、3倍早く、それなりの機能をもったものを作りあげていくことが十分できるのであります。それを「機能主義」という名前をつけたわけです。
昔はそんなことよりも、とにかく金額の高い公共事業の方が地域に雇用効果が高いという反転した、景気政策の悪い側面が出ていたわけでありますが、これから先はそのようなものの考え方では、地方に公共事業はやってきません。
それで機能主義を徹底するということは、実際的にB/C(Cost Benefit Analysis=費用対効果)を高めるということにも繋がりますので、公共事業の最大の優先頂位を全国的にも高めるということにもなるわけです。
北海道に行ってお話した時に、もう北海道では高速道路ができない所もあるのですが、よくよく考えたら50kmも山も無くてまっすぐな道があって、皆、80km/hで飛ばしている。そこを時速60km制限にしているのはおかしいじゃないか、80km/hにしたら高速道路なんです、事実上。だから規制緩和したら高速道路が出来るのだから、それでいいじゃないかと言われまして、まさしく、これは機能主義的な考え方です。
光ファイバーも全部、全国にひく必要はないわけで、ADSLを使えるのだったら銅線で十分で、空港だって全部が全部4000mだとか3500m、要るわけではない。とにかく、これは離着陸回数が増やせれば、それが一番いいと思います。
(2)社会政策から発展戦略(クラスター戦略)へ
それから、最後に、社会政策から発展戦略(クラスター戦略)です。
クラスター戦略というのは、九州では半導体と環境産業を重点的に指定しています。今まで、半導体産業であれば半導体を製造する工程だけを半導体産業と思ってきたのですけれども、九州も1970年に三菱電機が熊本に半導体工場を作って以来、「シリコンアイランド」と呼ばれることもありますし、「頭脳なきシリコンアイランド」と皮肉られることもありますし、「シリコンコロニー」と蔑まれたこともあります。
けれども、30年もたてばそれなりの集積は進んでくるわけです。半導体製造装置を作れる地場の石井工作研究所みたいなものもありますし、あるいは大手の東京エレクトロンで半導体装置を作る工場が佐賀にあったり、いろんな関連産業が幅広くできているのです。
そうした関連産業を幅広く捉えて、その全体をシステマチックにレベルアップしていくというのが、クラスター戦略であり、これには大学も重要であります。
九州大学もよくよく考えてみれば、造船科があったり新日鉄関係で冶金が強くて、昔は実学志向があったのですが、鉄鋼が相対的に地盤沈下、造船業も相対的に地盤沈下の中で、では九州大学は半導体に強かったかと言われたら、正直、相対的には強くなかったし、重点もおいていなかった。けれどもこれから先は、地域が半導体に重点をおくならば、大学も半導体に重点をおこうということで、LSI研究センターを作っているわけであります。しかも、LSI研究がCOE(Center of Excellence=中核的研究拠点形成プログラム)に選ばれて、世界の先端をいくエクセレンスとしての指定も受けている。まさしく、これはクラスター戦略の一環でありまして、文部科学省も研究においての知的クラスターを指定しているのですが、これも実は九大のLSI研究が指定を受けています。
そういう意味で、地域の持っている理念、関連する産業が一致してベクトルを統一し、新しい技術革新、新しいサプライチェーンに向かってイノベーションを進めていくというのが、クラスター戦略ということです。
これは別に半導体産業だけではなくて、幅広い関連産業と連携をとりながらステップアップしていくということが、観光産業においても農業においても出来るわけです。
マイケル・ポーターなどはワインクラスターと言っていまして、ワイン産業においても、ぶどうを作る農家、そのぶどうを開発する大学の研究所、ビン作りをしているところ、コルクを造っているところ、ラベルを造っているところ、そのワインを世界に売っているマーケティング会社や商社、こういったものを含めて、物流なども入ってきますけれども、一連のクラスターと言っている。
その中のどこに問題があるのかというのを考えながら、問題点を探していく。あるいは次なる新しいぶどうが生まれてきた時に、新しい機械、新しいビンのあり方、新しいマーケティングのあり方、新しい飲み方、新しい加工方法、そういうのを一致団結してレベルアップしていくということになります。
大きなシリコンの板を使うようになると、半導体製造装置も変わらなければいけませんし、連鎖反応で技術革新が進んでいく。それをいち早くその地域の中で生み出すことで、アジアに常に競争力をもちながら、地域の所得を維持していくことが出来るということであります。
《自由討議》
山崎講師の講演後の討議では、参加者から活発な意見交換が行なわれました。ここでは、その一部を紹介します。
〔Q〕
我が国の食糧自給率は4割弱で、食料安保とかエネルギー安保という議論がある。国はそういう施策を考えていると思うが?
〔山崎講師〕
エネルギー安保については、日本に石油もウランもほとんどありませんし、備蓄ということでしか対応できません。
食糧についても、基本的には備蓄とで十分対応することができますし、今のような、農産物の価格が世界相場の数倍から10倍以上の価格差があるということを正当化する議論としてそれを持ち出してしまうと、日本はいつまで経っても高コスト体制で、最終的には日本の輸出産業の競争力を阻害してしまうということになるのではないかと思います。
〔Q〕
儲かるところだけを生かしていくという考え方では、九州のグランドデザインというものが非常にいびつな格好になってしまうのでは?
〔山崎講師〕
大都市圏の人たちからみても、「ここを伸ばしていくことは国の戦略としても重要であり、地域の戦略にとっても重要である」という説得ができるような地域戦略が組めるかどうかにかかっていると思います。ですから、儲かる、儲からないということもありますが、基本的には一定程度のコストベネフィットが得られないと今や通らないと思います。
いびつを直そうとすれば、それを直すということが国家戦略、あるいは国際化時代の日本の経済発展にとっても非常に重要であるという論理でいかない限りはできない、という厳しい時代がきています。
だから、それをどこまでできるのかというのが、機能主義的な発想で、ものすごくコストを抑えつつ、機能だけはとれないのかということが私の考えであります。
今までと同じような道路、港湾の作り方では作れないものが相当出てくるだろうし、それを今までのように政治力でなんとか、ということもできないのも事実です。論理で説得するのが非常に重要だということになってくると思います。
〔Q〕
国境自体がネックになりうるというグローバリゼーションの時代、地域戦略を立てていくときに地方制度や行政の単位のようなものを、どうやって経済や産業の振興のために組み立てていったらいいのか?
〔山崎講師〕
行政の単位をどうしたらいいのかという答えが明快にあるわけじゃないのですが、今の単位は、経済の観点から見ればやや小さすぎ、大きな機能については、どこかで大きな行政の単位で考える仕組みが必要です。
港湾や空港も広域的な観点でポートオーソリティ的な組織を作らないと、博多と北九州の港湾がそれぞれの理屈で需要があると計算しているのですが、両方を足して計算したことはない。
現在地域全体のシナリオがまったくないので、とりあえず公共事業の優先順位をつけてみる。そうすると、誰が見ても何が重要で何の必要性が低いかぐらいはわかります。財界がありとあらゆる公共事業をひとつの冊子に集めるだけで、優先順位を明示しなくても、新しい方向へ動き出すに十分な力を持つと思います。
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