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■2. 知識経済化・グローバリゼーション
(1)モジュール化、ネットワーク化、イノベーション
 二番目に「知識経済化・グローバリゼーション」とありますが、先程の「モビリティの変化」、「産業構造の変化」、「人口・人口構造の変化」、基本的にはこの3つが未来を読み解く視点だろうと思います。
 モビリティの変化といえば、ヒトとモノについては、しばらくは大きな変化はないと思います。ジェット機のスピードを時速2000kmに出来るのかといわれると、確かにコンコルドは飛んでおりますが、コスト的な問題や防衛のことも絡めて、スピードの速いジェット機の開発は行われないのではないか、また、少し小型のほうにシフトしていますので、大型化でもないし、高速化でもないというのが、今後20年くらいの予測でしょう。
 それと貨物については基本的には船で、コンテナリゼーションが更に進むというレベル以外には、ドラスティックに変わるということは多分ないと思います。
 乗用車については多分、次代の10〜20年かけて太陽電池になるかどうかはわかりませんが、今のガソリンエンジンではないエンジンの仕組みへの変化があるだろう、それに伴って、産業の関わりというのが大きく変わってくる可能性はある。要するにエンジンがモーターになってしまうので、極端に言えば松下や東芝が自動車産業の核心部分を担うことも全くないことではないと思います。ただ、モノについては所詮その程度のことではないかなと思っています。
 ところが情報につきましては、携帯電話とインターネットでありとあらゆるものがデジタル化され、デジタル化されたものが、しかも超高速で、とてつもない安い料金で世界中を動き回る。
 光ファイバーケーブルというのは一旦引くと、半永久的に使えるということを聞いております。これはモビリティからするととてつもなく料金が下がっていくということで、今や電話料金はタダになる可能性が高くなってきているわけです。もちろん今も、インターネットと同じプロバイダーに入っているとタダでかけられる電話も出てきているわけで、通信料はニアリーゼロの世界で、しかも超高速になる。
 ですから、情報だけ超高速なのですが、ヒトとモノを動かす仕組みは、せいぜいコンテナ化が進んだり、飛行機の便数がもう少し増えたりとか、環境にやさしいトラックができたりとか、その程度ですので、その辺のギャップがますます広がるというところが、これからの地域の問題となって出てくる。
 ますますサービス経済化、知識経済化が進んでいきますと、人々はある狭い所に向かって、都市集中になっていくというパラドックスが起こる。それから大企業体制が情報化の引き金になった点もあり、技術工程も大きく変わってきています。
 これは、製造業の世界ではモジュール化と呼ばれていまして、日本が非常に強いと言われていた家電や、IBMが開発したコンピューター部品だとか、ソフトウェアをモジュール化することによって、アウトソーシングしたものをカチッと組立ると、そのまま機能する。その設計だけしっかりしていく。
 そうなると、各々CPU(Central Processing Unit=中央処理装置)はCPUだけでどんどんモジュール化していますから、独立した企業の中で激しい競争が起こる。OS(Operating System=オペレーティングシステム=コンピューターメーカーがコンピューターの効率的運用のために機械にそえて提供するソフトウェア)ならOSで、OSの中で動くソフトウェアならソフトウェアで、プリンターはプリンターでモジュール化して動いている。そのこと自体が非常に複雑な取弓関係を生み出す。
 ひとつの企業の中で系列取引をするということが日本の優位性であり、日本の企業というのは松下にみられるように、家電を作っていれば、電池も作っていて、冷蔵庫も洗濯機も、ゴマすり器も何でも作っている。何でも作っていて総合化しているから、いろんなアイデアがそこで複合化して、そこで日本企業は強いんだというふうに言われてきたのですが、今やモジュール化されてしまうと、むしろ各々独立して勝手に作った最高の部品を、ガチャと組み合わせて作り出す方が早くて良いものが出来てしまう。しかも、組立自体は大した技術がなくても出来てしまう。
 これは最近あまり調子がよくないのでいい例ではないかもしれませんが、ソーテックのようなベンチャー企業、ソーテックはパソコンが作れないのですが、パソコンは売れるのです。自分たちの求めるレベルの機能の製品、部品をかき集めてきて、しかもその最終組立すら韓国の企業にお任せして、ガチャとすれば簡単にパソコンが出来てしまう。
 これを大手企業でやっているのは、ソニーでして、ソニーのバイオを、ソニーが何%作ってるかといわれると、10%ないのではないか。ソニーのバイオはソニーのバイオなんだけれど、ソニーのバイオではないと。なぜならば、OSも違うしCPUも違うし、キーボードも違うし。それらは全部、アメリカの部品だとか、中国の部品だとかのをかき集めてきて、カチャッと作って、デザインとマークだけをソニーのバイオだとつけておけば、ソニーのバイオになるのです。
 ですから、もともとソニーは一番最初にコンピューター市場に入ったのですが失敗して撤退し、再び2〜3年前に参入したら、いきなりマーケットシェアをぐいぐい上げている、ということは、作れないにもかかわらず完全に作れてしまうということが、モジュール化によって可能になったことが関係しているわけです。
 そのモジュール化するということで、大変な、ひとつひとつの部品そのものに激しい競争が起こってくる。ベンチャー企業が生み出されて、イノベーションが促進されるという構造が生み出されるわけです。
 日本の家電メーカーというのは、こういったモジュール化、ネットワーク化、イノベーションの促進に対応できなかったゆえに、この3〜4年、大変な赤字を抱えこんで苦しんでいたわけですが、今、ようやく、各々の家電製品ごとにバラバラに機能していこうと、あるいはもう、自分たちで作れないものはどんどん調達するということでモジュール化に対応しようという動きで、ようやく黒字のメドがついてきているということであります。
 
(2)世界都市化、国際物流
 こういった動きというのは当然世界中から調達するという動きを強めますので、国際物流、あるいは都市にあっては世界都市化ということを進めています。
 1980年頃に、UCLAのフリードマンという大変有名な都市経済学者が「世界都市仮説」という論文を書きまして、これは世界中で注目されました。昔は「グローバルシティ」という名前だったのですが、「ワールドシティ」という名前になってきまして、今まで、都市のシステムというのは、一国内の首都だとか第二都市だとか、日本だと政令指定都市だとか、そういった形で都市のランキングというのは決まっていたのですが、これから先の都市の仕組みというのは、世界都市のシステムに変わってしまう。これは多国籍企業のネットワーク化に伴う階層的な構造が、空間的な構造を規定するんだという、大変おもしろい議論でありまして、1980年代に議論されたものです。
 私は、福岡市の国際化推進懇談会の会長ということで、桑原前福岡市長のキャッチフレーズであった「アジアの拠点都市」、これをもうひとつランクアップして「アジアの世界都市、福岡」はどうだと言ったら、委員の方はほとんど反対されました。「アジアの拠点都市」ですら、実現困難じゃないかということで反対されたんですが、何とか踏みとどまって「アジアの拠点都市」というキャッチフレーズだけは残しています。
 国際物流につきましては、約15年ほど前にはコンテナハウスがほとんどなかった博多港が昨年50万個になるというのは、私の想像以上に早いスピードで増えてきている。すでに門司港を抜いてしまった。2年ほど前に抜いてしまって、神戸港から西の最大のコンテナ港湾になったわけです。
 これはグローバリゼーションによって国際物流が非常に増えているということの流れだけではなくて、日本の経済構造が大きく変わってきているということと関連しています。それは輸入時代の国際物流に反転しているということです。
 今までの日本のコンテナ貨物、あるいはもっと昔の国際貿易をみると、横浜、神戸、門司というのは京浜工業地帯、阪神工業地帯、北九州工業地帯でもあり工業港湾であった。要するに輸出する港湾に帰り荷として輸入貨物が入ってくる。それを東京に運び、大阪に運ぶという流れであったわけです。
 今では輸出する貨物が減ってきています。軽薄短小、小さくなっているということもありますし、絶対量が減っているということもあります。一部は今、飛行機で運ばれるということも影響しているかもしれない。
 となると、これは輸入重視になってくるわけで、6〜7年ぐらい前に輸出貨物と輸入貨物のコンテナ貨物の重量が反転しました。
 輸入時代の国際ロジスティクスというのは、都市型港湾への貨物の集中です。これは、関西ではハッキリとはしていないのですが、それでも、大阪ヘシフトしているとみえなくもない。名古屋は輸出が伸びている関係もあって、コンテナも伸びている。横浜港はやや伸び悩んでいるのですが、東京港は非常に伸びている。門司港は伸び悩んでおりますが、博多港は急速に伸びている。
 ですから基本的には、都市型港湾への集中というのが世界都市化と、国際ロジスティクスと連動しているわけです。
 
(3)企業の多国籍企業化
 80年代は日本の企業が巨大化して、生命保険会社だって、「ザ・生保」なんて呼ばれていた時代があったのに、今や生命保険会社も都市銀行も証券会社も「世界の」という冠はすべてはずさなければならないぐらい、ローカルな会社になっております。一時期は、「丸ごと世界を乗っ取るのか」といわれた日本のサービス系企業は、とてもじゃないけれど、世界的なサイズでは生きられなくなっています。
 そういった(80年代型の)多国籍企業化は、ほとんど進まない。一部の製造業では確かに、トヨタ、ソニー、もう少し小さい所ではキヤノンだとか、ないわけではないですが、基本的な「多国籍企業化」というのは、外資との提携、外資に乗っ取られた企業、と言ってもいいのかもしれません。日産、あるいはマツダという会社が、今や日本の企業と言っていいのかわからないわけです。要するに、自動車メーカーというのは、日本にいくつあるのかといわれた時に、トヨタとホンダ以外にないというのが正解ではないのかという気もするのです。それほど、強いという自動車メーカーでも、子会社のダイハツを別にすれば、2社しか日本にはない。そういう「多国籍企業化」が進んでいるわけです。
 実は鉄鋼業などにおきましても、新日鉄とホコウ製鉄所、宝山製鉄所の株式の相互持ち合いがすでに進んでいるわけです。サンヨーとハイアールの提携などをみましても、これから10年、20年先には恐らく台湾、中国、韓国のメーカーと組んだ全く新しい、想像もしなかったような多国籍企業に転換していく。
 そうなった時に、まさにもう国境というのは意味がない。その時にまさしく問題となるのが、日本だけが世界の中で乗り遅れている自由貿易協定。日韓ですら締結できておらず、農業のないシンガポールとしか組めない自由貿易協定です。
 これでは日本は置いてけぼりを食う。ですから、農業の開放をやる。ビジネス界としてみれば食料品価格が大幅に下がるということは、賃金を相対的に上げて、貧しい人たちの生活水準を高めることになっていくので、当然国際競争力に繋がります。
 とにかく我々の予想しない多国籍企業化が進んできた時に、その時に、国内とか国際というのは意味をもたなくなり、「準国内輸送」というのが動き出すのではないかかと思います。要するに、福岡〜釜山というのが200km、福岡〜上海が約1100km。東京よりも近い所にあって、そういう所で国内とか国際とかが意味をもたなくなってくる。
 今、韓国がOECDに加盟し、韓国ですらトヨタのレクサスが売られていますが、そのレクサスは、博多港とか下関港からフェリーを使って運んでおり、博多港のフェリーの容量が小さいので、タマが足りなくて困っている時があるという話を聞きます。福岡市や県の人たちにはあまりそういう意識はないようですが、向こうから見ると、やはり調達地として大変おもしろい拠点であるということもあろうかと思います。
 また、韓国の三星自動車というのが釜山にありますが、この三星自動車はルノー系ですから、もともと日産の車種を作っていたわけで、韓国から輸入してもいいわけですね。あるいは苅田から輸出してもいいわけですが、それができない。
 これでは本来の意味の「近い」ということが全く生きて来ないわけで、この地域が生きていく道というのは、自由貿易協定をどんどん結んでいく、そのことが九州の農業にとっては大変な痛手となるでしょうが、痛手だけではないプラスの面もあると思うんですね。大規模、あるいは非常に高度な、あるいはおもしろい製品を作ることによってマーケットを拡大していくものもあるでしょう。
 ですから、これから先はやはり、知識経済化と、グローバリゼーションに対応した地域戦略。駄目じゃないかと思うと、そこからもう出来ないわけで、近いということをうまく、モビリティ条件を変えることにより生み出していく。港については作りすぎるくらい作っているので合格点といっていいのでしょうけれども、空港の問題は非常に大きな問題としてあります。







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