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Kyushu Transport Colloquium
第1回 九州運輸局コロキアム 講演
需給調整規制廃止後の地域交通
〜英国におけるバス事情を中心として〜
東京商船大学 商船学部
助教授 寺田 一薫(かずしげ) 氏
 
日時・・・平成13年11月19日(月) 18時〜
場所・・・JR九州本社(福岡市博多区)6階会議室
主催・・・(財)九州運輸振興センター
後援・・・九州運輸局、JR九州
 
九州運輸コロキアムとは・・・
 
 「コロキアム」とは、討議集会あるいは共同討議という意味です。
 当センターでは、規制緩和により自由競争時代を迎えた今日において、新たな環境へ踏み出すための道しるべを探るべく、運輸に関する事業者、研究者、行政に携わる皆様が知恵を出し合い、対話を行う場として「九州運輸コロキアム」を企画させていただきました。
 セミナーや講演会とは異なり講演を聴いていただくだけでなく、ご参加の皆様方からのご発言により参加者全員で問題意識を深め、問題解決の糸口を探る絶好の機会ですので、多くの方のご参加をお待ちしております。
(39ぺージに平成14年度の実施予定をご案内しております。)
 
英国のバス政策の動向
 70年代、当時の労働党政権が規制緩和を打ち出し、80年に日本の高速バスにあたる急行バスで規制緩和が行われました。しかし、当時はまだ国有の大きなバス会社がありましたので、一年位でほとんど独占状態になってしまいました。その後、84年のバス白書において、一般の域内バスについても規制緩和した方がいいだろうという提案がなされ、85年に普通の域内バスについても規制緩和がなされました。やり方としては、一定の要件だけ満たしておれば自由にどこの路線でも登録ができて走らせられる。それに加え、山の中の路線などでも地域にとって必要な路線は、自治体が補助金をつけて競争入札をかけて、一番安く走らせる者に落札させるという形です。つまり、規制緩和後には、営利的登録と補助金入札という形でネットワークが形成されてきました。
 
英国のバス政策の動向
1970年代 まで 過疎地域のミニバス等運行条件緩和 68年・・・ミニバス許可 77年・・・ミニバス法 78年・・・ボランティアドライバーによるコミュニティバス制度
1980年 交通法・・・急行バス規制緩和 試験区域創設 立証責任移転
1981〜83年 ナショナルエキスプレス都市間市場で独占形成
1984年 バス白書・・・規制緩和の利点と欠点を秤量 域内バス規制緩和提案
1985年 交通法・・・ロンドンを除く域内バス規制緩和 営利的登録+ギャップの純補助金 法 (一部総費用法)によって自治体が補助金入札 国有ナショナルバスカンパニーと地方公有バスの民営化規定
1980年代 終わり 民営化初回株式売却 MBO MEBO 次第に機関投資家買収に変わる
1995年頃 大手がパッチワーク状に安定的独占形成 特に ステージコーチ ファーストグループ アリバ 事業者・自治体間の品質協定自然形成
1998年 労働党政権交通政策白書(ニューディール)発表 規制緩和修正を提案
1999年 同政権バス協議文書(サラブレッド)発表 バス政策の修正を提案
2000年 交通法・・・品質協定+法的品質契約公式化 国が過疎地域への補助拡大
2000年 前後 地方部バス補助交付金 地方部バスチャレンジ
 
 10年位経つと、大手グループが、パッチワーク型に各地域を独占する形になってきます。その中で、社内分社化というような一社内で複数の労働協定が併存するような形が生まれ、運行コストが大きく下がることとなります。そして、大体90年代の半ばぐらいから、大手3〜7グループ位による独占という形になっています。
 ちなみに規制緩和から13年目の98年の総売上げに占めるグループ毎のシェアは、ファーストグループが23%、コーチ16%、アリバが14%であり、上位3社で53%位となっています。
 ごく最近については、97年に再び労働党に政権が交代しまして、98年に交通政策白書という、規制緩和を少し修正する交通政策が打ち出されました。そして、99年にバス関係の政策修正を提案する、サラブレットと呼ばれているバス協議文書が発表されました。翌年、中身はほとんどそのままで2000年交通法となり、品質協定と法的な品質契約が公式化されました。
 
 
英国のバス産業の現状
 英国のバス規制緩和前後、85年と97年の比較では、年間車両走行距離(台キロ)が29%増え、営利的サービス対入札サービスの台キロ比は15年来全く変わらず84対16となっています。一方、輸送人員は32%減少しています。台キロが増加し、輸送人員が減少したのは偶然と思われますが、台キロ増加が浪費ではないかとの利用者の直感が助長されています。ただ、輸送人員は規制緩和前から減少傾向にありましたが、その率は不変ないし若千鈍り気味であります。
 運賃については、公式にいわれている運賃指数で名目94%、実質で20%位上昇しております。また、公共輸送補助は名目上で37%、実質63%減少しております。ただ、入札の事務コスト、情報提供サービスのコスト等を考慮するとほぼ半減といわれています。一方、特別割引運賃補償については増加しております。
 ところで、よく規制緩和をすると、低運賃のバス会社参入による収入悪化を懸念する方が多いですが、低運賃で参入するということは、実はとても難しいことです。マンチェスターという人口100万人位の町が、大学周辺で運行しているマジックバスというのが、唯一の成功例かもしれません。
 現在の英国バス政策の要点は品質協定です。品質協定では、ネットワークのサービス水準の引き上げ等をバス会社に約束させる代りに、自治体の方でバスターミナル、バス停等の施設整備を実施します。また、協定に拘束力を持たせるために、品質契約という形で公式な契約を導入するケースもあります。品質契約が結ばれると、自由にバスが運行できるという英国の規制緩和が後退することになりますが、派手な規制緩和か、少し変えたシステムかを自治体側が選ぶという形になっています。
 ところで、英国方式では、自治体がバスの路線やダイヤをひいて、それを入札にかけるというやり方が基本です。ただ、場合によっては、競争入札というやり方をとらずに、紳士協定で、例えば迂回を申し出てくれた会社に、低床バスの補助金を出すというようなこともしています。こういう話をいろいろ積み重ね、地元のバス会社の協力を得て、各々地域交通計画を作っていくという格好になっています。
 
 
フィンランドのバス政策
 フィンランドでは、91年に日本の改正労働法にあたるような規制緩和の法律を作りまして、段階措置をとりながら、92年に運賃規制だけを緩和、その後94年に参入規制緩和という本来の規制緩和を行いました。ただ、実際には5分ルールという、先発車の前後5分は参入できないというルールが残っています。
 
 規制緩和というと、大体やり方が二つありまして、ひとつは本当に自由に何でもやれるという完全な規制緩和のタイプで、もうひとつは団体入札制という、入札額を巡って競争はあるんですが、道路上は競争しないというやり方です。
 各々良い所があり、完全な規制緩和では、かなり強い効率改善に向けた力が働きます。一方、団体入札制では効率改善に向けた力は弱くなりますが、例えば交通調整的なことができます。この二つをうまく組み合わせた例というのはあまりありません。強いて言えば、フィンランドがそう言えるという感じです。
 英国の新しい制度を極端にしたやり方で、実際は好きな方を選ぶのですが、唯一違うのは、自治体の境界部がつながらないという問題を解決する広域自治体的な対応があるというところです。
 
 
 フィンランドの制度ではある程度カルテルを容認していまして、事業者間の調整で、交通調整的な問題を解決しようとしておりました。具体的にはバスターミナルの運営を、日本で言えばバス協会のような所に委託する、あと長距離バスも共同運行の組織を作って、実際の運行は地元の会社に委託するという形をとっています。
 ただ、乗り入れ料金については、バスカルテルに参加している会社と参加してない会社で差をつけてはいけないようです。
 さて、事業者数ですが、規制緩和の立法、規制緩和をやると決まってから、実際の規制緩和までに3年ありましたから、とりあえず規制時代に、前もって規制緩和後の荒波を乗り越えようと、100社位が規制緩和の前に参入してきまして、規制緩和後には、大体倍位増えたという感じです。この新規参入者の多くはバス数台持ちで、タクシーに近い貸切にしているという感じです。またフランス、ノルウェー系が参入し、多くの委託運行を落札していきました。事業者数が倍増したことは規制緩和後では当たり前とのことですが、国外の会社が参入することは誰も予期していなかったようです。ところで、新規参入者と外資は、バス協会を通じたカルテルには不参加で、むしろタクシーの事業者団体に入る場合もありましたので、奇妙な形でバスとタクシーの境界線が払われてしまった感じになってます。







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