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展示室で待ってます!!
吉野ヶ里遺跡展示室勤務
千々岩 知子
吉野ヶ里遺跡は昭和61年、工業団地造成計画にともなう本格的な発掘調査により一躍有名になりました。そして弥生時代の約600年間を通して社会の変化が1つの遺跡でわかる極めて学術的価値の高い遺跡として、平成2年5月には国の史跡に、平成3年5月には特別史跡に指定されました。それから十数年の月日を経て、平成13年4月21日、『吉野ヶ里歴史公園』として新しく生まれ変わりました。現在開園している部分は47ヘクタール、将来的には総面積117ヘクタールまで広がる予定です。公園には邪馬台国時代の「クニ」を思わせる国内最大級の環壕集落、巨大な物見やぐら、食糧などを保存したと思われる高床倉庫群、死者を埋葬したかめ棺墓列等、弥生時代後期後半の復元整備がされています。展示室には墳丘墓から出土した有柄銅剣やガラス製管玉、九州で初めて出土した銅鐸のレプリカ等を展示しています。また、現在発掘調査が行われている現場も見学することができます。
4月になり、吉野ヶ里はすっかりさわやかな季節になりました。公園の芝も緑色に変わり、野の花が咲き、春の香りに包まれています。私は吉野ヶ里歴史公園内の展示室に勤務しておりますが、ここでは様々な自然と季節の移り変わりを体感することができます。田舎に住みながら車での移動、冷暖房完備の生活・・・そんな生活から一変して自然と肌を合わせる貴重な時間・・・。雨の日は雨の日の良さを、雪の日には雪の日の良さを、そして晴天の日にはそのありがたさを感じるようになりました。吉野ヶ里の弥生人は、この自然と隣り合わせの生活の中で生きていく為のたくさんの知恵と技術を生み出しました。例えば有力者を埋葬した大型のかめ棺を焼く技術は、現在では非常に難しいと言われています。かめ棺を焼く技術だけでなく、なぜ弥生人が『0』の技術を『1』の技術に変えることが可能だったのか?それは弥生人が『自然』というものを自分の身をもって確認していた事と、頭で考えることではなく、まず心で考えることを出発点としていたことから生まれたものだと思います。
人は偉大な自然を前にすると、自分の存在価値や考え方を見直すことがあります。吉野ヶ里の自然は偉大とまではいかなくとも、ごく普通の自然のあるべき姿を毎日私たちに与えてくれます。そんな日常の自然を味わうことにより、人もまた忘れかけていた本来のあるべき姿と心を取り戻すことができるのではないかと思います。
吉野ヶ里を訪れたお客様の表情は、私にとって非常に豊かなものに感じられます。約2000年前の弥生人の暮らしや発想の違い、邪馬台国時代の歴史を目の当たりにして感激された様子です。子供たちの表情は特に印象的で、教科書で見た吉野ヶ里に目を輝かせ、広い自然の中を飛び回って満足気です。展示室内にある「さわってみよう!」のコーナーでは本物の弥生土器や黒曜石等に実際に触れることができます。今まで歴史や遺跡に興味を持っていなかった方々からも「吉野ヶ里を見て、触れて、体験して感動した」と言う声が届いております。
この貴重な遺跡が保存されたことに喜びと誇りを感じながら、これからもお客様のご要望にお答えできるように努力していきたいと思います。皆さまもぜひ弥生時代にタイムスリップして素晴らしい季節を感じてみてはいかがでしょうか。
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