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2003/03/24  毎日新聞朝刊
[論点]イラク戦争 日本の立場は─対米追従を抜け出せ
菅直人・民主党代表
◇北朝鮮問題を理由の米支持は発想が逆
◇攻撃に抗議し、安保理の取り組みに戻れ
 今回の戦争は、私たちが歴史の大きな曲がり角に来たことを感じさせるものだ。冷戦崩壊後、軍事的に唯一の超大国となった米国が国連を超えて武力行使に踏み切ったことは、従来の国際秩序を大きく変える可能性を持つ。
 ブッシュ大統領は18日の演説で「国連安保理は責任を果たさなかった」と断言し、安保理決議なしの攻撃に踏み切った。米国が自衛以外に、国連抜きでの単独攻撃の是非を判断することは、国連憲章上許されない。国連安保理は常任理事国に拒否権を与え、こうした暴走を相互に防いできたが、今回は意味をなさなかった。国際社会の無力感は計り知れないだろう。
 民主党は「査察継続による大量破壊兵器の廃棄は可能」との考えから、安保理決議なしのイラク攻撃に一貫して反対してきた。米英には攻撃に強く抗議するとともに、イラクの大量破壊兵器問題について、安保理での国際社会の一致協調した取り組みに立ちかえるよう求めていく。
 今回も日本外交の最も悪い面が出た。ブレア英首相やシラク仏大統領は、立場の違いはあれ、言葉を尽くして自らの考えを説明しようとした。しかし、小泉首相は外務省任せで「米国支持」の方針を決めていながら、一切それを説明せず、米国の最後通告後に支持を表明した。
 首相は国民に考える機会を提供しないまま、事後承諾で外交を運営している。
 日本政府は「米国を支持しなければ、北朝鮮が暴発した時に支援が得られない」と言う。これはおかしい。日米安保条約は、日本が米国に基地を提供する代わりに、日米が共同で日本の防衛責任を負うとしている。イラク問題の有無にかかわらず、米国には日本防衛の義務がある。
 そもそも、北朝鮮問題を理由にイラク問題で米国を支持する政府の対応は、発想が逆ではないか。小泉首相は国会で、イラク問題を北朝鮮問題より重視するかのような答弁をしたが、米国が重視する問題を一緒になって重視しているだけであり、戦略が感じられない。
 日本にとっては、北朝鮮の方がより直接的な脅威なのは明らかだ。まず、米国と共同で北朝鮮問題での戦略を立て、その後でイラク問題に臨むのが筋だ。北朝鮮問題への戦略のなさが、結果として、イラク問題での対米追従路線につながっている。
 自民党政権も外務省も「自主外交」に踏み出すことを恐れ、判断をすべて米国に任せてきた。日米安保条約改定を急いだ岸信介内閣時代の発想が、戦後五十数年たった今もなお日本外交を支配している。「米国に見捨てられたら国際社会で孤立する」という恐れから抜け出せず、外交の選択肢を自ら狭めている。
 私は、日本外交の基軸が日米同盟にあることを否定しない。しかし、米国という指導教官の下の学生のような発想からは、もう抜け出すべき時ではないか。米国とも協調しつつ、アジアの一国として自らを位置づけるという、新たな世界戦略が必要だ。
◇菅直人(かん なおと)
1946年生まれ。
東京工業大学卒業。
衆議院議員。民主党代表。
 
 
 
 
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