日本財団 図書館


2003/01/26 産経新聞朝刊
「開戦」へ協議ヤマ場 安保理、駆け引き激化 あす査察報告 米は「最終段階」
 
 【ニューヨーク25日=内畠嗣雅】イラクの大量破壊兵器査察にあたっている国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)のブリクス委員長は二十七日、国連安全保障理事会に対し、安保理決議一四四一に基づく報告を行う。イラクの決議履行・不履行の判断材料となる公式な報告であり、これを受けて、イラク攻撃の可否をめぐり、安保理協議は山場を迎える。報告は公開で行われ、ブリクス委員長が生物、化学兵器とミサイルに関して、国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長が核に関してそれぞれ査察状況について説明する。安保理はメンバー国政府それぞれによる検討を待って、二十九日に再度、報告に関する協議を行うことにしている。
 ブリクス委員長らは報告に先立ち、十九、二十の両日、イラクを訪問、科学者の面談をイラク側が促すなど、査察継続を前提とする十項目について合意した。訪問を終えた委員長は「イラクが積極的に協力しているといえる段階には至っていない」と不満を表明したが、IAEAの広報担当者は二十四日、AP通信に「(エルバラダイ事務局長は)かなり満足できるとの評価を与えるだろう」と語った。
 報告後の協議をにらみ、安保理各国間ではすでに激しい駆け引きが展開されている。特に一月から任期二年の非常任理事国となり、イラク攻撃への反対姿勢を表明しているドイツの動きが際立つ。二十二日のパリでの仏独首脳会談では「対イラク戦争の回避のために全力を尽くすべきだとの見解で一致」(シラク仏大統領)。二十四日には電話によるロシアとの首脳会談で、立場が近いことを確認した。常任理事国のうち、仏露と中国は査察の継続を主張している。
 これに対して米国は政権首脳が頻繁に発言して、イラクの時間稼ぎをこれ以上、許してはならないと強調。「(安保理は)決断を前に萎縮(いしゆく)してはならない」とのパウエル国務長官の発言には、長官が報告を受けての安保理各国との折衝を、イラク攻撃決断に向けての最終段階と位置づけていることがうかがえる。米政府は二十三日、ストロー英外相をワシントンに迎えて米英の結束を示す一方、仏独の反対にもかかわらず、「強力な同盟を構築できる」(パウエル長官)と強調、イラク攻撃決断に向けた内外世論の理解を求めている。
 
<安保理決議1441>
 イラクの大量破壊兵器開発疑惑を解明するため、国連安全保障理事会で昨年11月8日、全会一致で採択された。国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)と国際原子力機関(IAEA)に、イラクの大統領宮殿を含むすべての施設への無条件、無制限の立ち入り、科学者らの面談の国外実施など、強力な権限を与えている。また、イラク政府が過去の一連の決議を履行する「最後の機会」と位置づけ、査察妨害など「重大な違反」があった場合、武力行使の可能性を警告した。UNMOVICとIAEAに対し、査察開始(11月27日)から60日以内の報告を求めており、今回の安保理報告はこれに相当する。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION