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2003/04/19 読売新聞朝刊
[イラク後の世界](7)国連の役割に試練(連載)
◇最終回
 「冷戦終結後、これほどまで世界を分断した問題などなかった」
 アナン国連事務総長は十七日、アテネで開かれた欧州連合(EU)首脳会議で、こう演説し、苦悩をにじませた。
 国連安全保障理事会の分裂をものともせずに目的を敢行する、米国のすさまじい国家意思を世界が思い知らされたためだ。世界は今、米国への反抗がもたらす途方もない対価を思い知ったはずだとする「政治面での『衝撃と恐怖』戦略」(ジェームズ・シュレジンジャー米元国防長官)との表現も、米紙の紙面に躍る。
 戦後復興でも、米国主導か国連中心かをめぐって米国と仏、独、露などの綱引きが続く。だが、イラク国内ではすでに米国の復興人道支援庁(ORHA)が活動を開始、現実は米国主導で進んでいる。
 米国は近く、フセイン政権崩壊を受けて、対イラク経済制裁解除を求める新決議案を国連安保理に提出する。安保理を迂回(うかい)した戦争を追認する決議案に、“反戦派”だった理事国は釈然としない思いを抱くが、結局「好むと好まざるにかかわらず、新たな現実を受け入れなくてはならない」(チリ国連大使)という。
 自らの比類ない力を背景に、自らが主導する新たな世界秩序を描こうとする米国の前に、国連は今、国際安全保障機関として存続できるのかどうか、大きな岐路に立たされている。
 国連は、最近のアフガニスタンの例を挙げるまでもなく、戦後復興、国家再建について豊富な経験を持つ。巨大な人道支援機関としての国連に対しては、その存在意義に疑問を挟む声は少ない。
 だが、米国がほとんど単独で、しかも短期間にフセイン政権打倒に成功した今、米国内で今後、「意味のない国連の果てしない議論」(ラムズフェルド国防長官)を迂回する主張が強まるのは必至だ。米国が背を向けた国際組織が、力を一気に失ってしまうのは、かつての国際連盟の歴史が示している。
 「イラク後」の世界で、国連はどんな位置づけになるのか、その問いかけは始まったばかりだ。
◆安保理迂回、重ねる米
 国連による国際平和と安全維持は「各国間の武力行使を原則的に禁じ、一国家による侵略に対しては加盟国が一致して対抗する」という集団安全保障の理念に基づく。だが、米国は、自ら提唱したこの理念に自国の安全保障を委ねてきたわけではない。米国が国家安全保障の中核としたのは、北大西洋条約機構(NATO)や、日米安保などの同盟のネットワークであって、国連安保理ではなかった。
 米国の安全保障政策を物語るのは、一九四八年、NATO創設に道を開いた米上院バンデンバーグ決議だ。この決議は、冷戦下で安保理が機能不全に陥る状況を見越し、米政府が「個別的、及び、集団的自衛のための地域的、または、その他の集団による取り決めを漸進的に発展させる」措置を取るよう定めたものだ。ソ連が拒否権を乱発し始めたことに対抗し、国連憲章第五一条を根拠としながら、当時は集団安全保障の理念からは例外的とされてきた同盟組織の形成をうたった考えだった。自ら創設した国連、特に安保理が機能しないと判断して、これに肩代わりする機構としてNATOを設立したと言える。
 そのNATOに埋め込まれた「安保理迂回」のメカニズムが実際に生かされたのは、皮肉にも冷戦が終結した後の九九年、米軍を主体とするNATO軍が、コソボ紛争に起因してユーゴスラビアを空爆した時だった。米国は、ロシアなどによる猛反発を受け、安保理を迂回して爆撃を強行した。これを安保理は事後承認し、平和維持軍も派遣したことから、安保理の体面だけはかろうじて救われた。
 だが、イラク戦争では、NATO加盟国の仏、独などまでが猛反対した。このため、米国の「迂回」戦略は一層鮮明になり、安保理、NATOのどちらも利用することなく、ほとんど単独で攻撃、それでも圧勝する決定的な軍事力と政治力を見せつけた。
 安保理のお墨付きを得た湾岸戦争(九一年)は、イラクによるクウェート国境侵犯が明白だったため、イラク戦争とは比較できない。しかし、冷戦後、安保理が機能を回復するのではないかと期待された時代は、あまりにも短く終わった。それどころか、ブッシュ大統領が昨年九月に発表した新国家安全保障戦略(ブッシュ・ドクトリン)の描く世界では、安保理の役割は一層、矮小(わいしょう)化されて映る。
 だが、シンクタンク(調査研究機関)、米国連外交協会のウィリアム・ルアーズ会長は、米国の軍事力をもってしても「(核保有国でもある)インド、パキスタンの国境紛争への介入は難しい」と述べ、安保理の役割は終わっていないと強調する。いかにして同時テロ後の米国を安保理にとどめるのか。安保理はどうあるべきなのか。国連は難題を突き付けられている。
(ニューヨーク 勝田誠)
(おわり)
 
 
 
 
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