2003/04/14 読売新聞朝刊
大戦後初の“自己主張”も・・・行き場失う独外交 イラク戦後復興、米と溝埋まらず
◆軍事統合構想 EUに亀裂
【ベルリン=宮明敬】イラク攻撃反対を主唱し、第二次大戦後初めて自己主張し始めたかに見えたドイツ外交が、イラクのフセイン独裁政権の早期崩壊によって、行き場を失っている。フランス、ロシアと共に、今度は「国連主導の戦後秩序づくり」を訴えているが、米国には“部外者”扱いされ、欧州連合(EU)内の反戦組と構想を練り始めた「欧州軍の核づくり」は、米欧間の、そしてEU内の親米諸国との亀裂をさらに深める様相を見せているからだ。
ドイツ、フランス、ベルギー、ルクセンブルクの四か国は今月二十九日、ブリュッセルで、防衛問題サミットを開催する。南ドイツ新聞などによると、四か国合同の核・生物・化学兵器対策部隊、空輸部隊の創設、軍備調達の共通化などがテーマ。四か国の軍事統合をまず進め、それを域内に広げる狙いがあるという。イラク戦争を傍観するしかなく、「国際的危機に対処できない欧州の無力感が、共通防衛政策に向けて決定的な歩みをさせた」(ベルギー紙)のは間違いない。
EUはすでに、域内外の危機管理のために欧州緊急対応部隊(兵力六万)の創設を目指しているが、今回の四か国構想は軍事同盟の結成まで視野に入れており、英国、スペイン、オランダなどの親米諸国からは「北大西洋条約機構(NATO)の機能を損なう動き」との批判が出ている。
イラクの戦後復興をめぐっても、ドイツが発言力を取り戻すのは難しい。イラク戦争が長期化すれば、中東地域の不安定化や国際的反戦世論の高まりによって、強硬姿勢を続けるブッシュ米政権が、EUや国連に頼る場面も出てくるとの見方もあったが、米軍のバグダッド制圧でフセイン政権はあっけなく崩壊した。
イラクの復興は今や、米主導で進んでおり「復興には国連が中心的役割を果たすべきだ」と主張しているシュレーダー独首相には、対米関係修復の糸口は見いだせない。しかも、独国民の61%が国連主導のイラク復興を求めており、七割以上が今も、イラク戦争の正当性に疑問を抱いているという現実がある。
第二次大戦後のドイツ外交は、欧州の一員としての節度と米国との協調を基本にしてきた。それが今回、イラク攻撃反対姿勢を貫き、米国一極体制からの離脱を目指して欧州の軍事力向上を模索している。方向転換のかじをきっているのは外務官僚ではなく、シュレーダー首相とその側近だが、目的地は見えない。
<欧州緊急対応部隊>
年内に発足予定の欧州連合(EU)独自の軍事組織。平和維持活動(PKO)を主要任務とする。1999年12月のEUヘルシンキ首脳会議で創設が決まった。
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