2003/03/31 読売新聞朝刊
イラク戦争と日本 日米同盟深まる陰で・・・ 政府関係者、米新保守派台頭に不安
◆安保理軽視と北朝鮮強硬論
小泉首相がイラク戦争支持を明確に打ち出し、日米同盟の絆(きずな)は、過去に例がないほど強固となった。だが、米国内でイラク戦争開戦を主導した新保守派の発言力が増し、国連安全保障理事会軽視や対北朝鮮強硬論に「振り子」が振れ過ぎるのではないか・・・と不安を抱く政府関係者も少なくない。
■隔世の感
二十一日、首相との電話会談でブッシュ米大統領は、首相に対し「指導者と指導者という関係だけからではなく、真の友人としてジュンイチロウの支持に強く感動している」と語った。
米政府高官は語る。
「日本がすばやく支持してくれて、『私の国も支持します』と言ってきたアジアの国が少なくとも二か国あった。コイズミの決断は、日本の特徴だった日和見的な全方位外交から脱皮するものだ」
だが、表の蜜月(みつげつ)ムードとは裏腹に、米国への懸念を口にする日本政府関係者が増えている。
二十六日、首相官邸の一室で、谷内正太郎内閣官房副長官補はクリステンソン駐日公使と向かい合った。
「復興支援はどういう内容になるのか」「どんな新法を作ろうとしているのか」「国連決議は必要なのか」
矢継ぎ早に尋ねるクリステンソン氏に、谷内氏はこうクギを刺した。
「新法を作るとしても、国連の復興決議がないと難しい。それがないと日本はどうにもならない」
イラク復興支援で自衛隊を派遣するための「イラク復興支援法案」(仮称)は、復興に関する国連安保理決議が必要と言われる。過去の自衛隊派遣が、いずれも国連決議や国際的な要請に基づいているうえに、国内世論の理解が得られやすいという事情もある。
さらに、国連決議の実現を通じ、米国が国連軽視、軍事的解決に傾斜することに歯止めを掛ける狙いが込められている。
■ネオコン
開戦翌日の二十一日、米共和党系調査・研究機関「アメリカン・エンタープライズ研究所」(AEI)で、リチャード・パール氏(米国防政策委員長=当時)、ビル・クリストル氏(保守系誌「ウィークリー・スタンダード」編集長)らが開いた会議で、こんな意見が噴き出したという。
「国連が旧来の領土侵略がない限り動かないことがわかった。国連は二十一世紀の新たな脅威に対応できない」
パール、クリストル両氏は新保守派の中心的人物。ラムズフェルド国防長官らとともに、早くから「フセイン政権打倒」を主張していた。
新保守派の主張は国連限界論だけではない。
北朝鮮の核開発が明るみに出た直後の昨年十月、「ウィークリー・スタンダード」に次のような記事が掲載された。
<政権は『北朝鮮とイラクは違う』と我々に訴える。果たしてそうだろうか? いずれの体制も殺人的な暴君により支配され、テロに加担し、大量破壊兵器の開発中毒に侵されている。事実は明白である。いずれの体制も救いようのない悪であり、問題を恒久的に解決するための解答は、体制を変革することである>
ポール・ジアラ元国防総省日本部長も「米国は単独であっても必要だと思う時は行動する。その点、ブッシュ大統領は明確だ」と指摘する。
北朝鮮が瀬戸際外交をエスカレートさせ、新保守派が「イラクの次は北朝鮮」と軍事的緊張を高めれば、弾道ミサイル「ノドン」の射程に入る日本も大きな脅威にさらされる。事実、北朝鮮は二十六日の「労働新聞」で、「朝鮮半島で戦争の火がついた場合、日本が無事だと思うなら大きな誤算だ」とけん制している。
米国がイラク復興で国際社会と協調体制を取るか否かは、北朝鮮問題の行方、日本の安全にも大きな影響を及ぼしかねない。その試金石となるのが、イラク復興に関する国連決議なのだと言える。
福田官房長官は二十七日、首相官邸に訪ねてきたベーカー駐日大使に対し、「復興、人道支援では可能な限り協力していきたい」と語った後、こう付け加えるのを忘れなかった。
「その際、国際協調を重要視している」
国連決議や国際協調に込めた日本のメッセージが米国に届くかどうか。日米同盟の真価が再び問われる。
<新保守派>
「強いアメリカ」を目指す政治家、知識人からなる共和党系のイデオロギー集団。neoconservativeを略して「ネオコン」と呼ばれる。レーガン政権期の1980年代、ソ連と力で対決するよう唱え、民主主義、市場経済というアメリカの伝統的価値観を「力」で拡大する立場を主張した。福祉国家・社会民主主義路線を「非アメリカ的」と排し、社民主義化した西欧同盟国の防衛に消極姿勢を示すなど、当時から孤立主義的な面を持っていた。軍需産業、保守系ユダヤ人の支持を受け、ブッシュ政権ではチェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官、ウォルフォウィッツ国防副長官らがこの系譜に属するとされる。
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