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2003/03/19 読売新聞朝刊
対イラクで米新保守派主導権 中東再編、米に危うさ テロ、孤立招く恐れも
 
 【ワシントン=柴田岳】ブッシュ米大統領は十七日、イラクのフセイン政権に最後通告を突きつけ、先制攻撃の引き金に手をかけた。ブッシュ政権内で影響力を拡大する「新保守主義派」は、フセイン政権打倒を突破口に中東地域の民主化やアラブ・イスラエル紛争の解決を狙っているが、国連外交を見限った米国の先制攻撃路線の行く手には、危うさも漂っている。<本文記事1面>
 「独裁者は去る。解放の日は近い」。ブッシュ大統領は十七日のテレビ演説で、イラク国民に向けて、こう呼びかけた。
 ブッシュ政権中枢は先月上旬から、フセイン政権打倒の目的はイラク国民に「自由」をもたらすことにあり、それは同時に「中東地域の根本的再編と、中東和平の前進など米国の国益にもつながる」(パウエル国務長官の議会証言)という論法を一斉にとっている。
 「イラクに親米的な民主政権を樹立し、サウジアラビアなど王家が支配する中東諸国の民主化を促進する。イスラム原理主義と反米テロを抑え、イスラエルの安全を確保する」という戦略は、ウォルフォウィッツ国防副長官など新保守主義派の従来の主張ではある。だが大統領周辺は最近まで、親米的な中東産油国や米国の一極支配を懸念する欧州の反発を警戒し、対イラク武力行使を中東の民主化や中東和平に関連づける発言は避けてきた。
 しかし、同時テロ直後は74%あった「フセイン打倒のための米軍投入」に対する米国民の支持率(ギャラップ社調査)が、今年一月には最低の52%にまで落ち込んだ。危機感を持った大統領周辺は、武力行使の正当性を補強するために「戦後構想」の提示を迫られた。新保守主義派の中東改革論が大統領のお墨付きを得て浮上したのはその結果だ。穏健派のパウエル国務長官でさえ、足並みをそろえた。武力行使への支持率は今月、64%まで持ち直した。
 しかし、事が狙い通りに運ぶ保証はない。
 国際世論が割れたままだと、イラク復興の国際的枠組みづくりのための外交交渉は難航が予想される。戦後処理の青写真が速やかに示せなければ、中東地域の秩序再構築も進まない。反米、反イスラエルの感情が広がり、ブッシュ大統領が最も恐れるテロ再発の危険性も高まる。イラク周辺に地政学的関心を持つ仏独露との関係修復に手間取れば、新保守主義派が最重視する「米国の覇権」に陰りが生じる可能性もある。
 新保守主義系誌ウィークリー・スタンダードのビル・クリストル編集長は今週号の巻頭言で、「大量破壊兵器について誰の言っていたことが正しかったか、イラク戦争の結果が証明するだろう」と国連やフランスを批判した。だが、仮にフセイン政権を放逐したとしても、イラクの大量破壊兵器開発の確証を示せなかった場合、米国は国際社会の中で孤立しかねない。ブッシュ政権は綱渡りの賭けに出たともいえる。
 
<新保守主義派>
 「強い米国」を信奉する米国の政治勢力。起源はレーガン政権時代(一九八一―八八年)の外交・安保政策にさかのぼる。強大な軍事力の積極的行使を背景にして、自由、民主主義、人権、市場経済という米国伝統の価値観の拡大を目指す。米防衛産業やキリスト教右派層の支持を集める。
 
 
 
 
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