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2002/09/26 読売新聞朝刊
[特派員ノート]戦争避けたい・・・でも国益のためなら
パリ・池村俊郎
 
 「第二次イラク戦争を支持すべきか」――米国のイラク攻撃の可能性をめぐり、欧州連合(EU)各国の見解が割れている。一方の極端が米国に全面同調する英国で、もう一方が「軍事攻撃には金も人も出さない」と公約したシュレーダー独政権だ。
 フランスは「国連安保理の決定を尊重する」という。ブレア英首相の対米全面同調も独首相の軍事行動拒絶にも、「形をかえたユニラテラリズム(一国主義)」と批判的だ。
 仏政府の主張が米国支持を意味するのか、軍事力行使に反対なのか、一見、曖昧(あいまい)だが、イラクが査察要求を順守しない場合、軍事力行使を容認する国連安保理決議が採択されるならば、対イラク攻撃支持もやむを得ない――そういうメッセージである。
 最近、パリに一時帰国したブジョン・ドレスタン駐米フランス大使の話を聞く機会があった。ジョージ・シュルツ元米国務長官と懇談した際、「西欧のヒューマニズム(人間主義)、米国のプラグマティズム(実用主義)という二つの考え方で議論になった」という話を大使が紹介した。
 シュルツ氏が言った。「なぜテロが起きるか。貧困があるからだ、と主張するのが西欧のヒューマニズム。逆に原因を議論する前にテロの芽を摘み取らないと、また犠牲者が出る、と行動に移るのが米国流プラグマティズムだ」
 大使は米欧間の行動哲学論議を紹介したかったのではない。米国の対イラク強硬姿勢を、「超軍事大国の独善」「理想主義の仮面をかぶった新帝国主義」と反発するだけでは、同時テロ後の米国民の心理的な傷の深さを理解できないと警告したかったのだと思えた。
 イラクの大量殺りく兵器開発がたとえ目の前の脅威ではないと仮定しても、十年後、テロ組織の武器として供与されないとだれが保証できようか。米国の中枢はその芽を摘み取る決意をしたのではないか――大使はそう理解したのに違いない。
 確かに仏国内で米国の対イラク強硬姿勢には批判が強い。世論調査ではイラク攻撃が対テロ戦争の大義にかなうと判断するのはわずか5%で、軍事作戦の仏軍参加に65%が反対する。
 仏政府の本音は戦争回避だが、国連安保理が軍事力行使を容認するのであれば、米国支持を貫くだろう。安保理常任理事国メンバーとして国連の権威を守る方が、自国の世界的地位を守る国益にかなっている。
 また作戦実施となれば、中東で発言権を維持し、自国権益を守るため、仏軍参加に踏みきるだろう。いずれにも冷徹な国益の論理が働く。
 シラク大統領が先週、訪仏した中曽根元首相と懇談した際、イラクのような独裁体制が相手だと、「軍事力を背景に対応しないと、物事は動くまい」と述べた。戦争という最悪の事態も想定した発言と聞こえた。
 ポスト・フセインの地域安定をどう確保するのか。重大な外交案件で歩調が乱れるEUの現実をどう解決するか。現時点のフランスの不安といら立ちはむしろそこにある。
 
 
 
 
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