イラクへの武力行使に反対したフランス、ドイツ、ロシアの3カ国は「負け組」だろうか。シラク仏大統領は「米仏はイラクの民主化という同じ目標を持つが、手段が違った」と弁解じみた言い方をする。米国が独裁国家をひねりつぶした現実に自らの姿勢を合わせようとしている。
開戦前、シラク大統領は「中東が混乱して欧米へのテロを誘発する」と主張した。実際に中東の社会が荒れ、世界でテロが多発すれば大統領のイラク攻撃反対論は証明されるが、そうでなければ警告で終わってしまう。大統領は「米英の勝利を歓迎する」と強調するが、ばつが悪そうだ。
米英と仏独露はイラク攻撃の是非をめぐって生じた溝を埋める作業に入った。仲介役を引き受ける英国のストロー外相は「過去の対立は済んだ話にして、未来に向けて考えよう」と呼びかける。武力行使の是非をめぐる議論を棚上げにし、戦後復興を通じて関係修復を図ろうというわけだ。
しかし、まだイラク戦争の最終的な評価は下せない。米英が先制攻撃の口実にした大量破壊兵器はどこにあるのか。なぜフセイン政権は大量破壊兵器を使わなかったのか。本質的な問題が解決されないまま、この戦争を是認するわけにはいかないだろう。
しかも、イラク国民が民主国家をつくれるか分からない。国民の大半を占めるイスラム教シーア派内部で反米派が台頭している。周辺国の反米感情の高まりも無視できない。フセイン政権は敗北したが、戦争の是非論争での「勝ち組」と「負け組」を判断するのはまだ早いのではないか。
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