2003/03/25 毎日新聞朝刊
[社説]先制攻撃戦略 色濃い「米国の秩序」志向
<イラク戦争と世界>
テロや大量破壊兵器の脅威に、伝統的な「抑止」や「封じ込め」はもはや通用しない。「予防」と「先制」の自衛を進め、必要なら単独で先制攻撃も辞さない――昨年9月、ブッシュ米大統領が発表した国家安全保障戦略は「先制攻撃ドクトリン」とも呼ばれ、世界に深刻な波紋を広げた。
新ドクトリンの背後には、冷戦終結後の流動的な世界を「米国の秩序」に塗り替えようとする新保守主義の人脈と思想が強く働いていると指摘される。
政権内の新保守主義派はそれほど多くはない。だが、保守タカ派や、「信教の自由」やキリスト教徒迫害を口実に独裁政権に対する介入を求める宗教右派がこれにとびついた。「三位一体の勢力がブッシュ・ドクトリンを支えている」との見方は少なくない。
世界最強の「ハイパーパワー」となった米国の力で、米国流の価値を世界に拡大する。それがテロや大量破壊兵器の脅威を除き、ならず者国家の抑圧からその国民を解放するとの論理へつながる。
発足当初のブッシュ政権は「慎みある外交」を掲げていた。死活的国益に結びつかない紛争には介入せず、むしろ縮小・撤退志向すらあった。それが「力のウィルソン主義」とも言うべき「極大介入主義」の戦略に変身した最大の契機は米同時多発テロだった。
文明の利器が巨大な高層ビルを破壊炎上させ、千人単位の犠牲者を生んだ。これに細菌や毒ガス、核などの大量破壊兵器が結びつけば、計り知れない被害を生む。その脅威が米政府と国民に与えている恐怖の深さと大きさは、理解できる。
だからといって、それは国際社会全体の共通認識には至っていない。米国の一存で予防的介入や先制攻撃の対象を決められては困る。イラク戦争に世界の懸念が高まり、反米・反戦運動が広がった理由も、米国の単独行動主義に危険なにおいをかぎとったからだ。京都議定書問題や国際刑事裁判所(ICC)不参加などの外交姿勢もそうした見方を裏付けた。
だが、同時テロが従来の国際秩序の枠組みで対処しきれない問題を世界に突きつけている事実も忘れてはならないだろう。
グローバル化の中で大量破壊兵器の取得やテロ組織の連携がますます容易になった。これらを媒介するような無法国家、破たん国家の存在も見過ごせない現実だ。
テロや大量破壊兵器の拡散に対する予防・先制外交は、テロ資金規制や国連・地域機構を通じた予防外交、ミサイル関連技術輸出規制(MTCR)などの形で、国際社会が取り組んでいる。
外交が失敗した場合の対応や、テロ組織とならず者国家などのもたらす脅威を国際協調の下で誰がどう認定し、いかに行動すべきか。そうした点で多くの課題は未解決だ。だからこそ、今米国が国際協調を失わないように、と求める点では世界が一致している。
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