2003/03/19 毎日新聞朝刊
[社説]首相支持表明 その理由をなぜ語らない
小泉純一郎首相は18日、ブッシュ米大統領の対イラク最後通告を支持する方針を明らかにした。米国などが新たな国連決議なしに武力行使に踏み切っても「フセイン政権に武装解除の意思がないと断定された以上、支持が妥当だ」と明言した。
首相の表明は、ブッシュ政権の方針を全面支持したのに等しい。イラクの大量破壊兵器問題は、国際社会が長い戦乱の歴史と多くの犠牲を乗り越えて築いた国際ルールと、国際協調に背を向ける「アメリカ問題」も引き起こした。その最終局面で、首相は政府方針の説明を10分足らずの「立ち話」で済ませた。「やむを得ない決断」という首相の理由では、納得できるものではない。
そうした政府の姿勢は、国際的にも国内的にも説得力に乏しいことを象徴するものと言える。
ブッシュ大統領が昨年、イラク単独攻撃の構えを示した当時、日本政府には国際協調を実現させようとする努力があった。2月と9月の日米首脳会談などを通じて、米国に新たな国連決議取り付けを強く求めた。国連決議1441が生まれた。そこは評価したい。
しかし、米仏を中心に国際社会の対立が深刻化すると、日本の国際協調のアピールが薄っぺらだったことが露呈する。イラクのほか関係国に要人を送り、首相らは電話で話したが、協調と言いつつ、米国の旗の下に一方的に集まれというメッセージでしかなかった。
ブッシュ政権にはイラク問題の前から、単独行動主義の批判があった。武力行使をめぐって、その声が一層高まった中で、首相の全面支持表明は、国際社会の理解は得られない。
ブッシュ大統領は17日の演説で「恐怖の日が来る前に脅威は取り除く」「米国の安全を守るため」と述べた。政府はいつブッシュ・ドクトリンを認めたのだろう。首相は「決議1441や678、687で根拠となり得る」と述べたが、つい最近持ち出した説明である。「新たな決議が望ましい」と主張してきたはずだ。日本自らが武力行使するのではないが、専守防衛と国際協調を基本に置く平和憲法の精神と、どう整合性がとれるのか、説明が必要である。
日本の世論は8割が武力行使反対である。にもかかわらず、首相は「世論に従って政治をすると、間違う場合もある」と述べ、世論に反する決定を下した。今こそ、その理由を明確に聞きたい。
首相は「北朝鮮問題を考えても、日米安保条約が大きな抑止力になっている」と、国際協調より日米同盟を優先させた判断を明らかにした。核とミサイルで脅威を高める北朝鮮に対しては、国連決議など国際協調と、日米同盟に基づく抑止力の双方が必要となる。両立を図る努力は、今後も続けられなければならない。
昨年2月、小泉首相は来日したブッシュ大統領に対し「大義なき力は暴力である」と、国際協調の重要性を説いたという。その言葉は、首相自身も重く受け止める責任がある
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