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2003/02/13 毎日新聞朝刊
対イラク攻撃 反戦御三家、五里霧中−−ドイツ、フランス、ロシア
 
 イラク攻撃をめぐり、武力行使に傾く米国と英国に対し、フランス、ドイツは慎重論を展開し、双方の対立は北大西洋条約機構(NATO)の内部分裂騒ぎへと発展している。一方、プーチン・ロシア大統領は今週独仏を緊急訪問し、独仏首脳と対イラク査察強化で合意した。イラク攻撃反対の独仏露3国連合が成立した形だが、その思惑や今後の見通しを探ってみた。
 イラク攻撃に難色を示す独仏に対し英、スペイン、イタリアなど西欧の親米政権やポーランド、チェコなど東欧諸国は米国支持の立場を打ち出した。独仏はNATO内部で孤立した状態となり、この孤立がロシアとの連携へ動く理由となった。
 独仏の孤立は欧州連合(EU)における両国の指導力低下が背景にある。EUは来年に参加国が15カ国から25カ国に膨れるが、新加盟国の東欧諸国はEUからの農業補助金が十分にもらえないなどの不満を独仏に向けている。英国は独仏主導の統合を阻止するため、スペイン、イタリアとの関係強化を図ってきた。
 米国も欧州での独仏の孤立化を望んだようだ。ラムズフェルド国防長官が両国を「古い欧州」とけなし、米国に忠実な東欧諸国を「新しい欧州」とたたえた。米国は独仏がEUに独自の軍事力を装備させようとしていることが心配なのだ。
 シラク仏大統領は故ドゴール大統領が実践した米国に追従しない自主外交を継承する。イラク問題では米国に歩調を合わせるとの見方が強かったが、平和解決で踏ん張っているのは米英による仏への封じ込め策への反発ともいわれる。
 また、独仏にとっては、欧州各国で大勢を占めるイラク攻撃反対の世論が支えになっている。しかも安保理常任理事国のロシアや中国をはじめ、多くの非常任理事国もイラク攻撃に慎重だ。
 しかし、独仏露の結束がいつまで続くかは予断を許さない。3カ国の立場に違いがある。ドイツはイラク攻撃に絶対参加しないとするが、仏露は「最後の手段」として攻撃の選択肢を残す。フランスは米国とともに参戦もありうる。フランスは巧妙な実利主義的外交が得意だ。
 むしろ、独仏露の連携が実現したことはイラク危機の問題とは別に今後の世界政治への影響が大きい。冷戦後の世界が米国の一極支配を強める傾向にある中で他の大国が組み合わせを変えながら連携し、米国をけん制する場面が始まることも予想される。独仏露の思惑は必ずしも一致せず、結束が強固というわけではない。しかし、英米に対する独仏露の連携は世界秩序の新たな在り方を示したのかもしれない。
(ロンドン岸本卓也)
◇フランス、ロシアに打算見え隠れ
 ロシアのプーチン大統領は、イラク問題をめぐって米英に反旗を翻した独仏と組むことにより、外交的発言力を増した。対イラク戦争の反対勢力の一角として、ロシアは米国の一極支配に対抗する陣営の中で存在感を強めるつもりだ。ただ、プーチン外交の基軸は良好な対米関係の維持にあり、独仏との連携には限界があるとの見方が多い。
 プーチン大統領は11日、独仏露共同宣言を「多極世界創設の第一歩」と評価した。ロシア外交で「多極」の重要性が強調されたのは、96年以後にプリマコフ外相(当時)がこの用語を使って以来で、米国の一極支配を批判する意味が込められている。大統領は対米非難のうねりを感じとり、独仏に同調する道を選んだ。
 しかし、ロシア国内では対イラク攻撃について不可避論が醸成されている。最近の民間世論調査機関の調査結果によると、回答者の60%がイラク開戦を予想。米国の対イラク攻撃があった場合、「どの国も支持しない」が61%で最も多く、イラク支持が19%、米国支持7%だ。
 政治学者のシェフツォーワ・カーネギー財団上級研究員は「プーチン政権は、イラク問題に対するロシアの国内世論が中立になるよう言論を誘導している」とみる。その目的は「最後にしぶしぶながら開戦を黙認せざるを得ないことを見越したものだ」という。外交的には「ロシアは非常に居心地のいい位置にある」。同氏は、ロシアが国際社会で反戦の立場を堅持しつつ、独仏と米英の間を橋渡しする仲介者の役割も担える利点を指摘する。
 欧州はいま、米国に抵抗する独仏などと親米派諸国の2陣営に分裂しつつある。ロシアは当面、独仏に肩を寄せながらも、次第に「米国と親米派ニュー・ヨーロッパ」の側に軸足を動かす可能性がある。実利主義者のプーチン大統領にとって、「最大の関心事は、開戦後にイラクでのロシアの経済権益をどれだけ確保できるかにある」(米外交筋)。そのため、米国の対応も独仏とロシアとでは違ったものになるだろう。
(モスクワ町田幸彦)
 ■写真説明
 10日、プーチン露大統領(手前)を迎えるシラク仏大統領=ロイター
 ■写真説明
 9日、会見するプーチン大統領(左)とシュレーダー独首相=ロイター
 
 
 
 
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