はじめに
〜人生に夢を見すぎてはいけない、しかし、人生に夢がなければ、もっといけない〜
昨今、少年非行事件の急増と年少化が叫ばれていますが、非行に至るまでの背景を探ってみると、今の生活に生きがいを感じられず、自分の将来に夢や希望を抱けなくなっていることに、その理由の多くが求められます。
また、過去に非行歴があったり、頻繁に問題行動を起こす少年は、社会から疎外されやすく、特に就労の面では、多くの企業や団体も、雇用ということになると消極的になりがちです。すると最終的には、アルバイトや日雇い労働という不安定な仕事しか彼らを受け入れる先は無くなり、これでは少年たちも、自分の将来に対する確かな展望や夢を抱くことはできません。
こうした現状にかんがみ、更生保護法人日本更生保護協会では社団法人日本中国料理協会の協力のもと、少年達に中国料理調理士なるという具体的な目標を持たせ、少年達が自立することを目標として作られた職業補導プログラム「中国料理調理士養成プログラム(“中国料理の達人”コース)」を平成12年度から実施してまいりました。
本プログラムは平成14年度末をもって実施から3年になりますが、これまでの取り組みの成果について実施結果報告書にまとめ、今後の同プログラムの充実に役立てていただければと思う次第です。
最後に、このプログラムを通じて、1人でも多くの少年が、プロの料理人として活躍する自分の姿を夢見て、日々努力を重ね、そして更生していくことを願ってやみません。
更生保護法人日本更生保護協会
中国料理調理士養成プログラムの内容について
(1) なぜ「中国料理調理士」か?
数ある職業の中での中国料理調理士のメリットとしては、
○自営業として営むことができ、組織に所属することを必要条件としないので、組織や団体で行動することが苦手な者でも大丈夫である。
○中国料理の業界は、これまでも、更生を目指す少年や若者の指導に経験のある経営者、料理人が多い。また、過去に非行歴を持ちながらも立派な調理士になっている者も多く、彼らの気持ちを共感しながら指導に当たることができる。
○「食事」という人間の生活の基本をなすものを提供する職業であり、お客に健康と喜びを与えることから、社会的意義も高く、やりがいも大きい。
○中国料理店は全国に約5万店舗以上が広く分布しており、就業の機会に恵まれ易い。
(2) プログラムの対象は
プログラムの対象となるのは、保護観察所で保護観察を受けている少年及び刑の執行猶予付を受け保護観察に付されているもののうち、25歳くらいまでのものです。
(3) 参加するには
担当の保護観察官又は保護司を通じて、プログラムに参加したい旨を保護観察所に相談することになります。
(4) 参加までの流れ
参加を希望した少年は、まず、保護観察所等で、日本中国料理協会会員でこのプログラムに協力してくれている人(協力者)の面接を受けます。協力者はこの面接で、少年にプログラムの内容について詳しく説明した後、少年の参加の動機と意思を確認します。
少年の参加の意思が確実で、かつ中国料理調理士としての適性があると協力者が認めた場合、少年は協力者が紹介する中国料理店に出向き、その店主等と面接をして、最終的に就職するかどうかを決めます。もし、その店が自分に合わないようであれば、別の店を紹介してもらうことも可能です。
店が決まったら、いよいよ中国料理調理士を目指しての修業が始まります。
(5) プログラムでは・・・
勤務する店によっても異なりますが、最初は厨房の掃除や食器や調理器具洗いなどを通じて、中国料理店の仕事がどのようなものかを覚えます。その後、仕入れてきた食材を下処理して保存したり、調理する前に食材の下ごしらえをする冷蔵庫周りの作業をして、たくさんある食材の特徴や取り扱い方を学習します。
これらの作業を一通り身に付けたら、包丁作業に入ります。中国料理に特有の大きな四角い形の包丁を使って食材を料理します。
そして最後に、中国料理の仕上げの段階となる鍋振り作業をマスターしたら、一人前の中国料理調理士として認められることとなります。
この中国料理の花形とされる「鍋振り」を任されるまでには10年くらいかかると言われていますが、努力を重ね4、5年で身に付ける人も稀ではありません。
(6) 中国料理調理士となってからは・・・
中国料理調理士となった後は、引き続き料理の腕前を磨き様々な料理の調理法を覚えたり、自分と同じような境遇の後輩の指導に当たることが期待されます。また、十分に一人前と認められ、店の主人の了解が得られれば、若くして独立し、自分の店を持つことも考えられます。
(7) どこから通うのか?
在宅で保護観察を受けている人については、基本的に自宅等住んでいる場所から通ってもらいますが、勤務する中国料理店が自宅から遠かったり住み込みで就労した方がいいという場合もあります。人によって事情が異なることと思われますので、就労を決める前に保護観察官、保護司、協力者、雇用主、家族等とよく相談しておくことが必要です。
中国料理調理養成プログラムの中には、中国料理調理士養成コースがあります。中国料理調理士養成コースとは、更生保護施設「東京保護観察協会 敬和園」(東京都中野区)で生活しながら中国料理店で調理士としての訓練を受けるプログラムです(更生保護施設及び中国料理調理士養成コースについて詳しいことを知りたい場合は、担当の保護観察官等に相談してください)。
以上がプログラムの内容ですが、こうして読んでみると少年も「大変そうだなあ」とか「勤まる自信がないなあ」などという印象を持つかもしれません。しかし、たとえ途中で挫折して最終的に中国料理調理士になれなくても、1つの目標に向かって一生懸命努力をしたという経験は、少年にとってかけがえのないものになりますし、将来他の職業に就いた時にも必ず役に立つことでしょう。
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