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4. 調査研究の成果
4.1 まとめ
 超音波による乳化油の油水分離技術において、流れ系における基本技術を開発したことが本研究開発の成果であると言える。以下に成果の概要を記す。
 
1) 流れ系における乳化油の油水分離では、超音波の周波数が25kHz程度の領域が有効であることを把握した。
2) 乳化油は、超音波の加圧部(腹)に集まることを確認した。
3) 超音波振動子を油水の流れ方向に直列に配置することによる油水分離効果を把握した。
4) 油水分離に有効な油水の流速(約3.6mm/sec.)を把握した。
5) 流れ系において、周波数が200kHz以上の領域では油水分離には適さないが、油の分解に有効であることを把握した。
6) 油の分解では、超音波発振子に近い領域が有効であることを把握した。
 
4.2 今後の課題
 流れ系において水中における乳化油の濃度を200ppmから15ppm未満に油水分離を行うことを目標とした。本調査研究では、200ppmから29ppmとなり、目標にもう一歩のところまで達した。さらに油分濃度を減少させ、15ppm未満に処理することが今後の課題となり、下記が検討項目となる。
 
1) 周波数を変化させ、分離と分解の両面から油分の除去をはかる。
2) 図10の超音波反射による定在波を発生させ、分離効率を高める。
 
5 超音波について
 水溶液に疎密波である超音波を照射すると、図1に示す様に、キャビテーションバブルとよばれる気泡が生成する。また、そのキャビテーションバブルが圧縮と膨張をくりかえし崩壊する際、局所的に数千度、数百気圧という、きわめて高温高圧の反応場ができる。その結果、水中では水分子の熱分解反応がおこり、OHラジカルとHラジカルが生成する。
 OHラジカルはきわめて高い反応性をもつラジカルであり、求電子性をもつ強力な酸化剤である。OHラジカルの反応としては、このような電子移動反応のほか、二重結合や芳香核への付加反応など拡散律速に近い速度での反応や、C−H結合からの水素引き抜き反応などがある。ここで、超音波によるキャビテーションの作用は、物理的作用と、化学的作用に分類できる。キャビテーション現象における化学的作用は、図2に示すような三領域で起こる。
 
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図1
 
図2 超音波反応での3領域
 
 第一領域はキャビティーの内部である。ここでは、瞬間的に数千度、数百気圧の状態となるため、内部気相中で熱分解反応がおこる。そのため、揮発性の高い物質はキャビティー内部に入り込み、キャビテーションの崩壊時に起こる燃焼によって分解される。水を溶媒とした時は、OHラジカルや水素原子などの活性ラジカルが生成する。
 第二領域はキャビティーとバルク溶媒の間の界面である。キャビテーションバブル内の高温高圧の状態は、気泡中心から、界面、バルク溶液へと離れるにしたがって低くなっていく。しかし、キャビティー界面では温度勾配があるものの、その平均温度は約1900Kと高く、超臨界状態であるとも考えられており、この領域でも、主に熱分解反応が起こる。また、キャビティー内部から抜け出してきた活性ラジカルとのラジカル反応も進行する。揮発性の低い物質は、疎水性が大きいほど気−液界面領域に集まりやすく、また、溶質分子の結合の切断に要する活性化エネルギーが低いほど、この領域で分解されやすい。
 第三領域は、バルク溶液中である。ここでは常温であるが、キャビテーションバブル中で生成して再結合せず、さらに界面領域で補足されずにキャビティー界面から抜け出してきた活性ラジカルとの反応が進化する。この領域では放射線化学反応と類似の反応が起こる。したがって、揮発性も疎水性も低い物質(親水性の物質)は、バルク溶液中でのラジカル反応によって分解される。
 つぎに、キャビテーション現象における物理的作用を図3に示す。キャビテーションバブルが固体表面で圧壊する際に、衝撃波により微視的な流動が生じ、局所的に高圧な状態が瞬時に発生する。この衝撃波は秒速100mにもおよび、その衝撃波による効果は、超音波の物理的、特に力学的作用として働く。
 このように、超音波を用いた有害物質の分解は、その物質の性質により分解速度と反応場が異なり、さらに分解過程において新しく毒性物質を生成しない、特殊な分解技術として期待されている。
 しかし、このような超音波の作用については多くの研究がなされているにもかかわらず、そのキャビテーション現象による効果は、超音波の周波数、溶存気体の種類、溶質の粘度など、さまざまな要因による差が大きく、定性的、定量的に統一した見解が得られておらず、いまだに不明な点が多い。
 
図3 キャビティーの崩壊によって起こるショックウェーブ







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