ディーゼルエンジン運転時の黒煙排気対策の調査研究
株式会社ササクラ
1. 調査研究の目的
ディーゼルエンジンは高負荷域の機関性能では良好な燃焼となるが、低負荷域の性能では未燃カーボンを含む粒子物質を多く排出する。このような大気汚染物質を含んだ可視的な排気ガス(黒煙)を放出することに対し、ディーゼルエンジン自動車の排ガスに関しては排ガス規制が法制化される方向にあり、将来はそれ以外の定置式ディーゼル発電機やディーゼル船(主として内航時)についても排ガス規制が加えられることが予想される。
本調査研究では、主に内航船用ディーゼル機関を対象として、この排気問題を解決するために、粒子物質(PM)を特殊なセラミックフィルターで捕捉し、燃焼により消滅させる粒子物質除去装置(DPF)方式の実用化を目指す。その基礎データ収集のために陸上用ディーゼルエンジン発電機用DPFの試作、試運転を行う。さらに試運転で得られた基礎データを基に舶用エンジン5000Ps用DPFの試設計を行う。
2.実施経過
2.1 実施項目
(1) |
自動車用の小型DPFに採用されている再生用電気ヒーターを内蔵したセラミックス製のフィルターエレメントをベースとし、これに大幅な改造を加えて陸上用ディーゼルエンジン発電機の排気用(通気圧力損失が700mmH2O以下の条件で黒煙の排出を70%程度除去する)に対応できる仕様のフィルターエレメントを新たに開発した。 |
(2) |
フィルターエレメントの形状、寸法、配列、電気ヒーター出力、消費電力予想値を定め、これを組込んだDPF装置(エンジン出力296Ps用:陸上用170kWディーゼルエンジン発電機に対応)の実設計および製作を行った。 |
(3) |
DPF装置の試運転を実施し、実運転の性能データを基に、エンジン出力296Ps用DPFの最適設計仕様を策定する。 |
(4) |
さらに、(3)を基として舶用エンジン5000Ps用DPFの試設計を行う。 |
2.2 実施期間
平成13年4月1日 開始
平成14年2月21日 終了
2.3 実施場所
株式会社ササクラ竹島工場
住友スリーエム株式会社相模原工場
3. 実施内容
3.1 フィルターエレメントの開発
この装置の心臓部であるセラミックフィルターエレメントは住友スリーエム社(東京都世田谷区玉川台2−33−1)が製作しているネクステルTM312セラミックファイバーをべースとして本用途向けに開発した。このネクステルTM312セラミックファイバーの特徴は以下の1)〜3)に記載するとおりである。
1) |
ネクステルTM312セラミックファイバーの組成
アルミナ62質量%、シリカ24質量%、酸化ホウ素14質量%
耐熱温度1200℃ |
2) |
ネクステルTM312セラミックファイバー長繊維をチップ化し、 バインダーを混合してシート状の成形物を作り、円筒状に成形し再焼成することにより多孔質なセラミックフィルターエレメントを作る。
バインダーは無機系接着剤で耐熱温度1000℃レベルを使用している。 |
3) |
ネクステルTM312セラミックファイバーのフィルターエレメントは軽量、熱衝撃に強い等の特長があり、自動車用DPF用途に使用されている。 |
このセラミックフィルターエレメントの厚さ、長さ、内部構造を組合せて、車両用DPFよりも運転時間がはるかに長く、高負荷運転である発電用ディーゼルエンジン排気ガスの連続的、安定処理できるフィルターエレメントの開発を当初目標として掲げた。すなわち、
・ |
連続通ガス状態でフィルターエレメントの再生(捕捉した粒子物質の燃焼を繰返し行いながら圧力損失700mmAq以内を維持し、 |
・ |
かつ高い捕捉効率(黒煙を90%以上除去)が得られ、 |
・ |
かつ少ない電力消費(発電電力の5%以下)であること。 |
しかしフィルターエレメント構造(粒子物質を捕捉・再生するセラミックス製の膜、電気ヒーター)の開発を進める過程で、次のような問題が明らかになり、上記のすべての目標値を達成することは困難であると判明した。
・ |
高い捕捉効率のものは圧力損失が大きい。 |
・ |
低い圧力損失のものは強度が不足。 |
・ |
再生時間を短くするためには大きなヒーター電力が必要。 |
したがって、フィルターエレメント開発の主眼を実用的な「低圧力損失性」におき、この条件をクリアした候補エレメントの中から安定した強度を有し、かつ高い捕捉効率をもったエレメントを選定することとした。最終的に下記仕様のフィルターエレメント(1040BH型)を選定した。図1〜図3にエレメント開発経緯、圧力損失予想曲線およびフィルター外観写真を示す。
形式 |
円筒状多層構造 |
寸法 |
φ103.5mm×φ90mm×400mm |
再生用電気ヒーター |
200V×2.1kW |
|
(ろ過壁の内部にニクロム線を内蔵) |
初期通気抵抗係数 |
3.3×109[l/m] |
1040BH型フィルターエレメントの圧力損失データをもとに、170kW用DPF装置の構成を次のように定めた。
■装置を3室に分割する。
■1室ずつ順に通気を遮断して、その室の燃焼再生を行う。
■1室の燃焼再生中は他の2室で通気処理を行う。
■エレメント装備数量を各室5本×3室(合計15本)とする。
なお、このフィルターエレメント構成において、圧力損失を許容限界の700mmAq以下で維持して運転するためには、各室のエレメント再生(電気ヒーター通電)時間を500sec以内で行う必要があると予想した。(図−2)
一方、ディーゼルエンジン排気に含まれる粒子物質(未燃カーボン、灰分)の大部分は質量分布で0.1〜0.3μmの範囲といわれているが、温度が下がると凝集し、やや大きい粒子となり、かなりの黒煙濃度と目視される。この排煙濃度の測定方法としてJIS−D1101に「自動車用ディーゼルエンジン排気煙濃度測定方法」がある。この研究ではより簡易な方法としてBacharach Inc(Pittsburgh, Pa USA−(株)アメロイド日本サービス社取扱)製スモークスケールを採用した。
このスケールは0〜9段階の濃度等級があり、9等級が最も濃く、0等級は無色に区分されている。ディーゼルエンジン排気は380℃付近では8等級であり、粒子物質濃度がこの等級と比例していると仮定すれば、90%の除去率は1等級レベルとなりかなり低い粒子濃度レベルとなる。
新フィルターエレメントのラボ試験では2.5等級レベルが確認できたので、黒煙の捕捉効率は70%程度が達成できると予想している。この捕捉レベルは当初目標(90%以上除去)を下回ることとなるが、一般的には3等級以下であれば目視できないレベルと言われており、実用上有効であると考えられる(国土交通省による「軽油を燃料とする自動車の排気管から大気中に排出される排出物に含まれる黒煙の濃度」は25%以下であることと規定されている)ので、本調査研究においては捕捉効率の開発目標を(当初の90%以上除去→70%程度除去)に変更して調査研究を進めることとした。
3.2 DPF装置の設計・製作
エンジン出力296Ps用(陸上用170kWディーゼルエンジン発電機に対応)DPF装置を設計して製作した。その外観写真と構造図を図4〜図6に示す。
「主要仕様」
処理ガス量 |
1100Nm3/h |
処理ガス温度 |
400℃ |
形式 |
住友スリーエム製1040BH |
|
フィルターエレメントを15本使用 |
寸法 |
幅1060mm×長1700mm×高800mm |
再生室分割数 |
3室(1室にフィルターエレメントを各5本収容) |
再生室の切替え |
モータ回転式仕切板構造 |
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0.1kWギヤードモータ、停止位置検出スイッチ |
再生電力 |
8.4kW以下(目標) |
ハウジング材質 |
SS400 |
内面処理 |
耐熱絶縁塗装処理 |
ケーブル貫通部 |
断熱処理付絶縁 |
消音特性 |
22dB(A) |
3.3 DPF装置の運転
本調査研究で製作したDPF装置を陸上用170kWディーゼルエンジン発電機の排気口に直接取付け、10分程度のアイドリング運転を行い、接合部からの排ガス漏れがないことと水分の凝縮が無いことを確認した後、100%負荷に上昇させる。発生した電力は電気ヒーターを加熱することで消費させ、電気消費量で負荷状態を確認する。
1室ごとに通気を遮断し、当該室のフィルターエレメントに内蔵するヒーターへ通電を行って、フィルターエレメントで捕捉したDPを燃焼させてエレメントの再生を行いながら差圧700mmAq以下の運転を維持できることを確認する。
運転が安定した時、下記の項目を測定する。
・圧力損失の計測
・排ガス量の計測
・排ガス温度の計測
・通電時間と再生後の圧力損失の関係
・捕捉効率(濃度)の計測
・電気絶縁(抵抗値)の計測
・消費電力の計測
・消音効果(騒音値)の計測
3.4 舶用DPF装置の試設計
内航船には貨物船、小型タンカー、フェリー等があるが、乗客を乗せるフェリーに搭載することを想定し、エンジン出力を5000Psに設定した。舶用DPFは主機エンジン排気筒と発電機用補機エンジン排気筒が集合している化粧煙突の中に設置するものとして計画を進めた。
1) |
5000Ps以下の舶用エンジン出力と排気ガス量、排ガス温度、許容圧力損失は数種類の主機エンジン例から、下記のように設定した。 |
排ガス量 |
4.15Nm3/h/Ps、20728Nm3/h |
排ガス温度 |
350℃ |
許容圧力損失 |
300mmH2O |
この設定値を舶用DPF設計諸元として、170kWディーゼル発電機用DPF装置の実運転結果を基に、舶用エンジン5000Ps用DPFの試設計を行う。
2) |
170kWディーゼル発電機用DPFで採用した1040BH型セラミックフィルターエレメントをエンジン出力5000Psに適用すれば、排ガス量比例のみでも300本近くになるので、大規模DPF装置においては装置をコンパクト化することが課題である。即ち、大型エンジンの排気ガス量に対応できるフィルターエレメントの開発が必要となる。ここでは、1040BH型セラミックフィルターエレメントの構造を拡張した新フィルターエレメント構想を採用し、装置のコンパクト化を見込んだ試設計を進める。 |
3) |
新フィルターエレメントの二重筒式フィルターエレメント構造は下記の仕様にて計画する。 |
内筒フィルター |
: |
φ103.5mmxφ90mmx400mm |
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ろ過面積0.130m2 電気ヒーター2.1kW |
外筒フィルター |
: |
φ160mmφ140mm 400mm |
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ろ過面積0.176m2 電気ヒーター3.3kW |
二重筒(1本)あたり |
ろ過面積0.306m2 5.4kW |
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