5・4 点検整備と保守上の注意
5・4・1 整備
(1)一般
(A)メーカーのマニュアル等に従い機器構成品全ての取り付け状態を点検し、固定が不充分なものや5・2艤装設計、5・3艤装工事要領に合わない取り付けのものは手直しをする。
(B)コネクタ及び接続端子等に緩みや接触不良が有る場合は手直しをする。
不充分な接地のものはマニュアル等で指示された通り正しく接地する。
(C)メガーテスト禁止
強電機器と異なり航海用精密機器であるGPS受信機は電子装置です。電路にGPS受信機を接続したままメガーテストを行なえば故障または機能不良が発生する恐れがある。GPS受信機に関係する電路のメガーテストが必要な時は機器接続を外してから実施すること。
(2)アンテナ
(A)ケーブル接続部等の防水状態に不良が有る場合は手直しをする。
(B)受信信号強度が弱い場合の対処
機器新設の場合は、アンテナユニットの不良、あるいは同軸ケーブルの長さが規定より長いため損失が多い、あるいは接続コネクタの取付けが正しくないため、発生している可能性があるので点検する。
既存設備では、アンテナ受信部のアンテナカバーが煙突の排煙等の影響でカーボン等が付着してGPS電波の透過損失が増えている可能性もある。
レーダーあるいはインマルサット、船舶電話等からの電磁波干渉で不良の場合も考えられる。その時はレーダーあるいはインマルサット、船舶電話等の動作を停止(電源をオフ)してみて症状が改善されるか点検する。
(C)受信衛星数が少ない場合の対処
GPSアンテナの装備位置が良くない場合が考えられる。ある方向からのGPS電波が遮蔽されていないかアンテナ位置での衛星見通しを点検する(シャドウセクター)。
24時間連続して測位できない場合(短時間の欠測が発生する場合)も同様にGPS電波が遮蔽されていることが多い。この時はGPSアンテナ位置の変更が必要である。
(3)指示部(受信演算部)
メーカーのマニュアル等に従い動作確認を行ない、動作不良があるものや5・4・2整備基準に合わないものは手直し・調整・修理等の必要な措置を取る。
(A)外部信号出力不良の場合の対処
GPS受信機側でデジタル出力センテンスを送信可能に設定していなかったり、送信周期が受信側の動作範囲に入っていなかったりする場合に発生することがある。その場合はGPS受信機側あるいはデータ受信側の設定を適正に再設定する必要がある。
(B)測位位置に誤差がある場合の対処
位置情報については、GPSは全て世界測地系座標WGS84で計算している。緯度経度がチャート等と合わない場合は、使用チャートの測地系を確認すること。必要に応じGPS受信機は他の測地系に変換して表示することができる。ただし、デジタル出力は性能基準で要求されたWGS84で出力することになっている。
(C)データバックアップ保持に関する注意
GPS受信機の内部設定データあるいはアルマナックデータは、GPS受信機に電源が供給されていない時には、スーパーキャパシター(大容量コンデンサ)あるいは1次電池を使用してメモリのデータを保持している場合がある。
スーパーキャパシターはある一定時間以上電源がオフであると、放電消耗してメモリ内の情報が消えてなくなる場合がある。また一次電池を使用している場合は電池の寿命がある。機種によっては表示部に電池交換が必要であることを表示するものもある。
スーパーキャパシターの場合は再充電してから初期設定をやり直す必要が有り、一次電池の場合は交換する必要がある。
以下の整備基準はSOLAS及び船舶安全法関係法令で装備を義務付けられた衛星航法装置(GPS受信機)に対するものである。SOLASで主管庁の裁量により適用範囲を定められる簡易型衛星航法装置(GPS受信機)については以下の基準より緩和されることがある。
点検整備項目 |
点検整備及び
試験調整内容 |
点検整備の方法 |
判定基準 |
使用機器 |
1. 一般 |
a. 機器の取り付け状態の確認。 |
5・2 艤装設計、5・3 艤装工事要領及びメーカーのマニュアル等に従い、これに適合した取り付け及び整備状態であることを確認する。 |
1. 当該機器が5・2 艤装設計、5・3 艤装工事要領及びメーカーのマニュアルで指示されたとおり正しく取り付けられ、保守の為の空間も確保されていること。
2. 機器の取り付けねじ類は必要十分なトルクで締付けられていること。もし締付け不足のものが発見された場合は増し締めを行なうこと。 |
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b. 主要部のコネクタの取り付け状況、接地の状態の確認。 |
1. コネクタはすべて正しく接続され、脱落防止装置(機能)があるものはそれが正常に動作していること。
2. 端子の接続ねじ類は必要十分なトルクで締付けられていること。もし締付け不足のものが発見された場合は増し締めを行なうこと。
3. 接地はマニュアルで指示された通り正しく接続されていること。 |
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c. 表示灯の断線、操作つまみの欠落等の確認。 |
メーカーのマニュアル等に従い、これに適合した整備状態であることを確認する。 |
表示灯の点灯状態、操作つまみの取付け状態を目視で検査し正常であること。 |
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d. 表示及び添付資料並びに構成品等の確認 |
メーカーのマニュアル等に従い、必要な表示がなされ、又、適正な書類及び予備品等が備えられていることを確認する。 |
1. 下記の項目がはっきりと外部に表示されていること
−1 名称
−2 型式
−3 型式承認番号
−4 製造番号
−5 製造者名
−6 検定又は証印
−7 操舵室に装備する機器には磁気コンパス安全距離
2. 操作説明書並びに保守の為の資料及び本体、ケーブル、予備品等の構成品が備えられていること。 |
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2. アンテナ及び
アンテナケーブル |
アンテナの取り付け状況及びアンテナケーブルの接続状態の確認。 |
目視によりアンテナ及びアンテナケーブルを確認する。 |
1. 空中線が5・2 艤装設計、5・3 艤装工事要領及びメーカーのマニュアル等で指示された通り正しく取り付けられていること。
2. ケーブル接続部当の防水状態が確保されていること。 |
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3. 電源装置
(船内電源) |
a. 主電源及び代替電源(有る場合)からの受電の確保
b. 代替電源(有る場合)への切り替えの確認。 |
主電源及び代替電源(有る場合)に対し、配電盤等において、給電側のスイッチを切り替え、機器の電源端子における電圧をテスターで確認する。 |
1. 主電源及び代替電源(有る場合)から受電が行なわれ、かつ、その電圧が規定値内であること。
2. 代替電源(有る場合)への切り替えが速やかに行われること。 |
回路試験器(テスター) |
4. 受信部
(演算表示部) |
GPS衛星の受信状態の確認 |
メーカーのマニュアル等に従い操作し、GPS衛星の受信状態に関する表示を確認する。 |
メーカーのマニュアル等に従い操作し、GPS衛星の受信状態に関する表示が説明書に記載された正常な状態であること。
図5・9 参照 |
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図5・9 受信状態表示の一例(GP−80)
(拡大画面:55KB) |
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点検整備項目 |
点検整備及び
試験調整内容 |
点検整備の方法 |
判定基準 |
使用機器 |
5. 信号処理部
(演算表示部) |
a. 表示内容の確認 |
メーカーのマニュアル等に従い操作し、目視により以下の表示を確認する。 1. 機器の作動状況 2. 測地系の表示 3.
緯度経度の表示単位 4. 座標変更の有無 |
1. 機器が作動状態に有ることを示す可視表示がされること。
2. 世界測地系(WGS‐84)の緯度経度により最低1000分の1単位で位置を測定することができ、協定世界時とともに表示できること。
3. 測地系を変換している場合は座標変換が行なわれていること及び使用している測地系を表示していること。 |
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b. 出力データの確認 |
メーカーのマニュアル等に従い操作し、出力データの周期及び内容を確認する。(受信側機器にて確認する。) |
1. 1秒以内に新しく計算した位置を出力できること。
2. 対地速力(SOG)及び対地進路(COG)を出力できること。 |
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c. 警報の確認 |
GPS受信アンテナを電気的に遮蔽、又はアンテナケーブルを外し、警報の発生状況を確認する。 |
衛星からの電波を受信できなくなった時は、警報を発生するとともに通常動作状態に回復するまでの間、直前の位置の測定時刻及びその位置を表示すること。 |
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d. 機器の操作パネル上のつまみ等を操作し、異常ないことの確認 |
1. メーカーのマニュアル等に従い操作し、機器の作動、表示灯の状態について確認する。
2. 表示灯の断線、操作つまみの欠落等を確認する。 |
1. その他取扱説明書に記載されているように正常に作動すること。
2. 表示等の点灯状態、操作つまみの取り付け状態を目視で検査し正常であること。 |
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e. 装備後の初期設定の確認 |
メーカーのマニュアル等に従いその他機器の初期設定を確認する。 |
メーカーのマニュアル等に従い機器の初期設定を表示させ、正しく設定されていること。 |
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6. 保護装置 |
人体及び構成機器に対する保護装置の確認 |
目視により確認する。 |
AC/DC50V以上の導電部(有る場合)には保護カバーが付けられていること。 |
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7. 自己診断機能 |
機器の自己診断機能の確認 |
機器に内蔵された自己診断機能を用いて確認する。 |
自己診断結果は説明書に記載されたとおり正常であること。 |
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8. 総合判定 |
測位位置精度の確認(定点測位誤差試験) |
固定点において連続して1000点の測位位置を海図等による実測と比較する。 |
HDOP>4、PDOP>6の測定値を除き、実測の精度を考慮した上で妥当な誤差範囲(95%確率で、GPSの場合は100m以内、DGPSの場合は10m以内)に入っていること。 |
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整備終了後の総合動作の確認 |
整備終了後、機器の総合動作を確認する。 |
機器の総合動作に異常がないこと。 |
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(注) |
太字イタリック体で記されたものは総務省無線設備規則第47条の3衛星無線航法装置よりの要約抜粋である。 |
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