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11. アルミ船の電気艤装工事
 
11.1 一般事項
11.1.1 アルミ合金の概要
 耐食アルミニウム合金製船舶(以下「アルミ船」という。)は、軽量化による燃料消費量の改善、高速化などの利点があり、また資源のリサイクル化が容易であるので、その需要も漁船、旅客船、巡視艇など多岐にわたって拡大している。
 
11.1.2 アルミニウムの電気的特性
 アルミニウムは、次のような電気的特性を持っている。
(1)銅は60%の導電率を有し、銅の半分程度の重さのアルミニウムを使用して銅と同量の電流を通すことができる。
(2)磁場の影響を受けず、磁気を帯びることがない。非磁性を必要とする各種電気機器に用いられる。
 
11.1.3 アルミ船の腐食
 アルミ船に使用されているアルミ合金は、耐食性に優れている材料であるが、アルミニウム自体はイオン化傾向が大きく腐食しやすい金属でもある。
 アルミ合金は、大気中と海水中では次のような違いがある。
 
(1)大気中: アルミ合金表面は空気中の酸素によって作られる酸化皮膜(保護皮膜)に覆われるため耐食性は維持される。
(2)海水中: 電解質溶液に接すると酸化皮膜が塩素イオンCl−などによって破壊されるため腐食が発生する。
 
 アルミ合金の主な腐食の発生形態を挙げると
(1)孔食(局部腐食)
 アルミ合金によくみられる腐食は、孔食でピッチングとも呼ばれている。この孔食は、塩素イオンClが存在すると、高湿度の大気中又は水中でも発生する。しかし、ある期間が過ぎると自己抑制作用が働き、1〜2年後はほとんど進行しない。
(2)隙間腐食
 アルミ合金相互又はアルミ合金と非金属の接触面にわずかでも隙間があると、雨や海水あるいは気温の変化による結露による水が毛細管作用によって奥の方に浸入し、隙間の内外で溶存酸素量の濃度に差ができる。この結果一種の電池作用により、酸素量の少ない隙間の奥でアルミ合金が陽極となり、アルミイオンAl3+を放出するため、その周辺に白い模様の腐食が発生する。
(3)電食
 異なった二つの金属を電気的に結合して電解質の溶液の中におくと、両者の間には電位差があるので、アルミ合金は陽極となってアルミイオンAl3+を放出しながら腐食していく。
 この腐食を一般に電食(電気化学的腐食)と呼んでいる。
 
 
 以上のようにアルミ船には、アルミ船特有の色々な形態の腐食が発生する。したがって電装工事を施工するに当たっては、これら腐食の発生原因をなくする有効な対策を講じなければならない。
 これらの考察に基づく基本的な防食の考え方は次のとおりである。
(1)アルミ合金材に耐食処理を施す。
(2)アルミ合金材と異種金属を直接接触させない。
(3)アルミ合金材の接触面には水が浸入するような隙間を作らない。
 
11.2 電気艤装工事
11.2.1 一般
 本章においては、現在実施されているアルミ船の電気艦装工事における電路の防食工事要領を取りまとめ、工事のガイダンスとして示す。
 電路布設及び取付けなど詳細については、「3. 電路金物の取付け」を参照のこと。
 
11.2.2 電路など接触部の防食工事
 電路金物、部品を接合する場合の防食は、次による。
(1)アルミ製品と異種金属をボルトで接合する場合
(a)暴露部、水使用区画(便所、浴室、賄室など)、機関室床下など水の影響を受けやすい場所、その他湿気の多い場所(以下、この章において「暴露部など」という。)においては、接合面及びアルミ部品と異種金属(座金)の接触面に絶縁材を挿入し、SUS製ボルトで取付けた後、接合面及び接触面に水が浸入しないように、シール剤でこれらの周囲を充填する。この場合、ボルトにはシールテープを巻くかボルトを腐食防止剤でコーティングする。
 
図11.1 アルミ材と異種金属の接合部の防食例
 
(b)暴露部など以外の場所においては、接合面及びアルミ部品と異種金属(座金)の接触面を十分塗装し、SUS製又は亜鉛めっき鋼製のボルトで取付ける。
(2)アルミ製品相互を重ねてボルトで接合する場合
(a)暴露部などにおいては、接合面を十分塗装した後、上記(1)(a)と同様の処置をする。
 
図11.2 アルミ材相互間の接合部の防食例
 
(b)暴露部など以外の場所においても、(1)(b)と同様の処置をする。
(3)アルミ材とゴム、木材、プラスチックなどの非金属を重ねて接合する場合
(a)暴露部などにおいては、隙間腐食を防止するためアルミ材の接触面を十分塗装し、ねじなどで取付けた後、接合面の周囲をシール剤で充填する。
 
図11.3 アルミ材と非金属の接合部の防食例
 
(b)暴露部など以外の場所においては、アルミ材の接合面を十分塗装し、ねじなどで取付ける。







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