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7・11 自動操舵装置(ヘッディング・コントロールシステム)
 自動操舵装置は、通称オートパイロットと呼ばれているもので、ヘッディング・コントロールシステム(HCS:Heading Control System)の自動型であるが、操舵装置にジャイロコンパスや磁気コンパスなどの船首方位センサーと接続して、舵の動作を最小にとどめながら設定された針路方向に船首を自動保持する装置である。正確には自動船首方位保持装置である。
 舵の制御方法には、ラダーサーボアンプに命令舵角を与えることにより舵を自動的に追従させるフォロアップ制御(FU)と操船者が舵角の動きを直接制御するノンフォロアップ制御(NFU)の2つがある。
 自動操舵装置は、針路設定器で設定した方位に船首方位が一致するように指令舵角信号を計算し、針路を保持する。指令舵角信号の計算は一般的にPID制御方式が採用されている。この方式は指令舵角信号を、設定方位との誤差、誤差の微分値、誤差の積分値の和で出力する。
 指令舵角=Kp×比例舵+Td×微分値+Ki×積分値
 比例舵は誤差に比例した舵角で、例えば船首が左に10度ずれていれば右に10度である。微分舵は誤差の微分値に比例した舵角で、結果的に船の動きを抑制するブレーキとして働く。積分舵は誤差を積分した値に比例した舵の角度で、風などによる偏流成分を解消するように働く。
 なお、前式で、Kp、Td、Kiは係数で、本船の特性に応じて設置する必要がある。
 通常は、公式運転時にメーカーが設定し、運行中は乗組員が船の動きを見ながら補正する。
 自動操舵装置は、その船首方向やドリフト(風、潮流差)を補正して自動航路保持装置(TCS:Tracking Control System)の制御部として組み合わされる。
 VDRへの情報源としては、HCSあるいはTCSが装備されている場合は、それらの設定状態も出力する必要がある。
 手動の場合は操舵輪を回転することによって直接指令舵角信号がラダーサーボ制御部に加えられ、パワーユニットを駆動するので舵角は指令舵角に追従する。
 NFUモードは、制御系の故障など不測の事態で使用されるモードで、直接駆動信号をNFUレバーからパワーユニットヘ送る。この場合、NFUレバーを、舵をとる方向に倒している間のみ舵は働くが、フォロアップしないので、元に戻すには逆の方向にNFUレバーを倒す必要がある。従って常に舵角指示器を見ながら操舵する必要がある。
 自動操舵で航行中に緊急の衝突回避操作を行う場合に、オーバライド操作に切り替えて自動モードのまま手動操作を行うことがあるが、特別のレバーを設けているもの、操舵輪を使用するもの、NFUレバーを利用するものなどがある。
 指令舵角信号及び実舵角信号は下記のとおりである。これらの信号をRS422に変換してVDR等受信側が要求する信号を出力する。
モード選択信号 例:コード信号
設定方位 例:アナログ信号
舵輪及びNFUによる指令舵角信号 例:アナログ/接点信号
自動操舵装置からの指令舵角信号 例:アナログ信号
パワーユニット(追従装置)からの実舵角信号 例:リニアシンクロ信号
 
 自動操舵装置の構成概念図の一例を図7・17に示す。
 
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図7・17 自動操舵装置の構成概念図の一例
 
7・12 VHF無線電話
 無線電話は、AISにおいては船―船間または陸―船間の通信周波数の設定や船舶の固有情報等の情報通信手段として使用され、また、VDRでは操船に関わる送受両音声による交信内容を記録するための通信音声入力信号としてVHF無線電話(以下「国際VHF」という。)が使用される。
 国際VHFは、1950年代の中頃から欧州において、従来の2MHz帯無線電話の混信を防ぐためにその使用が検討されていたが、1959年の世界無線通信主管庁会議(WARC:World Administrative Radio Conference)でその内容が無線通信規則に規定され、150MHz帯の28個のチャンネルが50kHz間隔で割当てられ、船舶相互間の直接通信、港務通信、船舶の通航に関する通信のほか、公衆通信又は国際公衆通信と接続しても使用されるようになった。
 その後このVHF無線電話を利用する船舶が増えてきたため50kHzごとの割当チャンネルが25kHzごとに狭められ、57チャンネルと倍増する方針が1967年のWARCで決められ、1973年までには狭帯域化が完了した。
 1987年にGMDSSに関連して使用チャンネルが改正され、ch70(156.525MHz)がDSC用に、ch16(156.8MHz)がガードバンド付きの遭難呼出しチャンネルに指定されている。さらに1998年にはch87(161.975MHz)及びch88(162.025MHz)の海岸局の周波数が公海で世界的に運用されるAIS用チャンネルに指定された。日本ではこの周波数をマリンVHF陸船間通信用として使用しているため、干渉調査を行ったうえで使用周波数が決められた。チャンネルの使用区分、通信方式、使用上の注意事項は、次表7・1のとおりである。
 
*:巻末(191ページ)に「参考資料2」「AIS地域周波数設定エリアイメージ」を掲載する。この図のエリアの中では周波数はch2079(161.575MHz)とch2081(161.675MHz)の2波が使用される。
 
表7・1 付録第S18号 VHF海上移動周波数帯における送信周波数の表(第S52条参照)
注:表の理解を助けるため、注a)からo)までを参照すること
チャンネルの番号 送信周波数(MHz) 船舶相互間 港務通信及び船舶通航 公衆通信
船舶局 海岸局 1周波数 2周波数
60   156.025 160.625     X X
01   156.050 160.650     X X
61 m)、o) 156.075 160.675   X X X
02 m)、o) 156.100 160.700   X X X
62 m)、o) 156.125 160.725   X X X
03 m)、o) 156.150 160.750   X X X
63 m)、o) 156.175 160.775   X X X
04 m)、o) 156.200 160.800   X X X
64 m)、o) 156.225 160.825   X X X
05 m)、o) 156.250 160.850   X X X
65 m)、o) 156.275 160.875   X X X
10 h) 156.500 156.500 X X    
70 j) 156.525 156.525   遭難、安全及び呼出しのためのデジタル選択呼出    
11   156.550 156.550   X    
71   156.575 156.575   X    
12   156.600 156.600   X    
72 i) 156.625   X      
13 k) 156.650 160.650 X X    
73 h)、i) 156.675 156.675 X X    
14   156.700 156.700   X    
74   156.725 156.725   X    
15 g) 156.750 156.750 X X    
75 n) 156.775     X    
16   156.800 156.800 遭難、安全及び呼出し      
76 n) 156.825     X    
22 m) 157.100 161.700   X X X
82 m)、o) 157.125 161.725   X X X
23 m)、o) 157.150 161.750   X X X
83 m)、o) 157.175 161.775   X X X
24 m)、o) 157.200 161.800   X X X
84 m)、o) 157.225 161.825   X X X
25 m)、o) 157.250 161.850   X X X
85 m)、o) 157.275 161.875   X    
26 m)、o) 157.300 161.900   X X X
86 m)、o) 157.325 161.925   X X X
27   157.350 161.950     X X
87   157.375     X    
28   157.400 162.000     X X
88   157.425     X    
AIS 1 1) 161.975 161.975        
AIS 2 1) 162.025 162.025        
  一般的な注
  a)〜e)略
  個別的な注
f)
g) 第15及び第17のチャンネルは、実効輻射電力が1Wを超えないこと及びこれらのチャンネルが主管庁の領海内で使用されている時、当該主管庁の国内規則に従うことを条件として、船上通信にも使用することができる。
h) 欧州海上地域及びカナダでは、これらの周波数(第10、第67及び第73のチャンネル)は、必要となる場合、第S51.69号、第S51.73号、第S51.74号、第S51.75号、第S51.76号、第S51.77号及びS51.78号に定める条件に従って、個々の関係主管庁によって、共同の捜索及び救助作業並びに地域の汚染防止作業に従事する船舶局、航空機局及び参加陸上局間の通信のためにも使用することができる。
i) 注a)に定める目的のために優先する最初の3つの周波数は、156.450MHz(第09チャンネル)、156.625MHz(第72チャンネル)及び156.675MHz(第73チャンネル)とする。
j) 第70チャンネルは、遭難、安全及び呼出しのためのデジタル選択呼出しにのみ使用する。
k) 主に船舶相互間航行安全通信のため、第13チャンネルは、航行安全通信用チャンネルとしての世界的基礎での使用のために指定される。このチャンネルは、関係主管庁の国内規則に従うことを条件として、船舶通航業務及び港務通信業務にも使用することができる。
l) これらのチャンネル(AIS 1及びAIS 2)は、地域的基礎で他の周波数がこの目的のために指定される場合を除き、公海で世界的に運用される自動船舶識別及び監視システムに使用する。
m) これらのチャンネルは、関心を有する叉は影響を受ける主管庁間の特別取決めに従うことを条件として、単一周波数チャンネルとして使用することができる。
n) これらのチャンネル(第75及び第76)の使用は、航行に関連する通信のみに制限されるものとし、第16チャンネルへの有害な混信を避けるため、出力の1W以下への制限又は地理的な分離などによりすべての予防策をとるものとする。
o) これらのチャンネルは、関心を有する叉は影響を受ける主管庁間の特別取決めに従うことを条件として、初期試験及び将来に導入可能性のある新技術のための周波数帯の提供に使用してもよい、試験及び将来導入可能性のある新技術のためにこれらのチャンネルを使用する局は、第S5条に従って運用しているその他の局に対して有害な混信を生じさせてはならないし、またそれらの局からの保護を要求してはならない。
 
 また、技術特性については、無線通信規則の付録第19号につぎのように規定されているほか、電波法の無線設備規則の第40条の2と第58条にもその規定がある。
(1)毎オクターブ6dBのプレエンファシスによる周波数変調(位相変調)のみを使用する。
(2)100%の変調に相当する周波数偏移は、できる限り±5kHzに近づける。周波数偏移は、いかなる場合にも、±5kHzを超えてはならない。
(3)海岸局及び船舶局に対する周波数許容偏差は、100万分の10とする。
(4)付録第18号に指定するいずれの周波数で送信するときにも、各局の発射は、その発射点において垂直偏波とする。
(5)可聴周波数は、3,000Hzを限度とする。
(6)船舶局の送信機の平均電力は、容易に1W以下に低減することができるものでなければならない。ただし、156.525MHz(チャンネル70)において運用するデジタル選択呼出装置については、この電力低減設備は、任意とする。
(7)デジタル選択呼出しを使用する局は、次のことができるものでなければならない。
・156.525MHz(チャンネル70)において信号の存在を確認するために感知すること。
・そのチャンネルが呼出しにより占有されている場合に呼出し(遭難呼出し及び安全呼出しを除く。)の送信を自動的に行わないようにすること。
(8)デジタル選択呼出しに使用する送信機及び受信機のその他の特性は国際無線委員会の関係勧告に適合すること。
 なお、送信電力は無線通信規則において、「船舶局の送信機の搬送波電力は25Wを超えてはならない。」と規定されており、国内においても25Wで指定されている。







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