第9章 故障対策
故障の原因は、その故障状態によりいろいろ考えられるが、いかなる故障でも、まず初めに供給電圧、コネクタ及び接続ケーブル類の接続状態等を確認することが大切である。また、部品の不良以外に調整不良、装備不良が故障原因になっていることも少なくないので、これらの点検あるいは再調整することも有効である。故障状態は、単独回路の単独故障もあるが、大体は回路的に前後関係のつながりがあるから、途中の回路が故障すると、それ以後の回路は働かないことになる。したがって、修理の場合は故障回路を適確に判断し、修理することが大切である。
故障の探求を行う場合に、あらゆる機種について共通していえることは、まず、その機種の特徴をブロックダイヤグラムでしっかり把握することである。これは、同じ現象であっても機種が異ると故障箇所が異なることがあるからである。
また、ヒューズの溶断という故障については、その機種の電源系統をしっかり把握することと、そのヒューズにどのような負荷が接続されているか、更にヒューズの溶断の状態等にも注意を払う必要がある。さらに、部品の変色、におい、音、熱等にも神経を使って、常に冷静に表面に表れている現象から、故障箇所を推理探求することが肝要である。
なお、半導体部品は、過電圧、過電流に非常に弱いため、部品交換の際は、部品の接触による事故、回路のアンバランスなどの悪影響を避け、また、保安のためにも必ず電源を切ってから行うようにすること。
注意
1. 変調器、送受信部及びCRT等は生命に係る高電圧を使用しているので十分注意すること。
部品を交換する前に必ず〔POWER・電源〕を〔OFF・断〕とし、また、できるだけ船内電源スイッチも断(OFF)の状態にして行うこと。
2. 高電圧の部分を取り扱う場合には、〔POWER・電源〕スイッチは〔OFF・断〕にしても各部に蓄電されているので、必ずこれらを完全に放電させてから取り扱うこと。
3. トランジスタやダイオード等の半導体素子を多数使用しているときには、取扱い上、次の点に注意すること。
(1)回路試験器(テスター)で各部電圧を点検する場合には、測定レンジを確めること。抵抗あるいは、電流レンジで測定すると、半導体を破損するおそれがある。
(2)半導体を交換する必要があるときには、はんだごての漏電に注意すること。
(3)半導体を交換する場合には、半導体のリードをラジオペンチなどで挟み、はんだごての熱が半導体に伝わらないように注意すること。
(4)高出力のレーダー送信波を近距離で浴びるのは人体に有害である。レーダー装置が動作中は空中線に近づかないこと。
一般的な故障状態と考えられる原因について、取扱い順に従って故障箇所が発見できるよう故障早見表を次に示す。
なお、この故障早見表だけでは修理できない項目もあるので、そのときは、メーカー又は代理店に連絡し、修理依頼をする。
更にARPAを有するレーダーにあっては、自ら次のようなチェックを行う機能を有するものもあるので、その表示の内容によって動作状態や故障箇所を推定することもできるので、その機能を活用するとよい。
その一例として、電源を入れると、ARPA内のCPUにより、自動的にONLINEチェックを行い、機器に異常がないかどうかをチェックして、その結果をエラーコード等で表示する。そのコードにより異常箇所を判断する。
更に詳細にチェックするためOFFLINEチェックを行う機能を有するものもある。これは一連のコードを入力すると、そのコードに対応する表示がCRT上に表示され、その表示の状態で、異常かどうかを判断する。異常であれば、その関連の故障箇所がマニュアル等でアドバイスされる。
詳細なチェックをするためコードは、100以上に達するものもあるため、その入力を自動的に行い、異常があればそれに対応するコードの部分でチェックを停止する。そのコードに対応する故障箇所をマニュアルから判断する。
このようなチェック機能を自己診断機能(セルフチェック機能)と呼び、このような試験をダイアグノスティックテストと呼んでいる。
[故障早見表] (注)この表は図9・1以降の写真の機種に準拠している。
1. 〔STAND BY・準備〕で起動しない。
(電源に出力電圧が出ない) |
<起動リレーが動作しないとき>
○電源ヒューズの断線
○起動リレーの不良
○電源スイッチの接触不良
○起動回路系の接触不良
○起動回路の動作不良
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<起動リレーが動作するとき>
○起動リレーの接片の接触不良
○AVR出力回路の不良
○ドライブ回路の不良
○電源回路の不良
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2. 〔STAND BY・準備〕にして3分経過しても〔準備完・R' DY〕ランプが点灯しない。 |
○準備ランプの不良
○準備ランプソケットの不良
○遅延回路(又は遅延リレー)の不良 |
3. 〔POWER・電源〕スイッチを〔ON・動作〕にしてもスコープ上に何も出ない。 |
○CRT及びソケットの不良
○高圧アノードキャップの不良
○高圧トランスや高圧パックの不良
○高圧ユニット入力電源の接触不良 |
4. 空中線が回転しない。 |
○スキャナスイッチがOFF
○空中線ヒューズの断線
○ドライブモーターの不良 |
5. 〔POWER・電源〕スイッチを〔ON・動作〕にしても輝度は上がるが、スイープしない。 |
○レゾルバのブラシの接触不良
○掃引増幅回路の不良
○掃引発生回路の不良
○ゲート回路の不良 |
6. 掃引が異常 |
(1)掃引線の延びが少ない
○掃引発生回路の不良 |
(2)掃引線がだ円になる
○レゾルバの不良
○偏向コイルの不良 |
(3)掃引線にノイズが出る
○レゾルバのブラシの接触不良 |
(4)固定距離マーカーの数が異常
○レンジスイッチ回路の不良
○CRT高圧ユニットの不良 |
(5)掃引線の起点とカーソルの回転の中心とが一致しない。
○センターアジャスト回路の不良 |
7. 掃引しているが何も出ない。 |
○映像増幅回路の不良 |
8. 雑音は出るがマーカー(固定、可変距離、船首輝線)が出ない。 |
○固定距離目盛発生回路の不良
○可変距離目盛発生回路の不良
○船首輝線発生回路の不良 |
9. 固定マーカーが出ない。 |
○固定距離目盛発生回路の不良
○輝度調整抵抗の接触不良
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10. 船首輝線が出ない。 |
○スキャナの船首スイッチが接触不良
○船首輝線のマーカー発生回路の不良 |
11. 可変距離マーカーの異常 |
(1)距離表示は出るがマーカーは出ない。
○輝度調整抵抗の接触不良
○波形調整回路の不良 |
(2)マーカーは出るが距離表示が出ない。
○発光ダイオードが点灯していれば、距離カウンタ回路の不良
○距離表示スイッチの接触不良
○発光ダイオードが点灯していなければゲート回路の不良 |
12. マーカー信号は出るが感度つまみを回しても雑音が出ない。 |
○中間周波増幅の不良 |
13. 感度つまみを回すと雑音の変化はあるがSTCが効かない。 |
○STC回路の不良 |
14. 照明ランプは点灯するが送信しない。 |
○送信トリガが出てこない。
○変調器の不良(SCR、コンデンサ、PFN、パルストランスの不良)
○マグネトロンのヒーターソケットの不良
○マグネトロンの不良 |
15. パルス幅切替えが不良 |
○変調器内のリレー及び切替回路の不良 |
16. クリスタル電流が流れない。 |
○クリスタルダイオードの不良
○ローカル発振器の不良
○ローカル発振器電源の不良 |
17. 感度の異常 |
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(1)映像量が少ない。
○ミキサ・ダイオードの劣化
○送信出力が足りない。(マグネトロン電流の劣化、変調器の電源電圧が低い)
○TR管の不良
○ATR管の不良
○電磁シャッタの動作不良
○空中線部、導波管の漏水
○同調がずれている、クライストロン/ガンダイオード(発振器)の劣化 |
(2)映像が不鮮明(ぼけている、暗い)
○CRTの劣化
○焦点のずれ
○カーソル板、ブロッタ板、CRT表面の汚れ
○映像増幅回路の劣化及びリミッタレベルの設定不良 |
(3)近距離感度の不良
○TR管が劣化して、消イオン時間が長い。 |
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