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1.2 基本設計と詳細設計
(1)船舶設計は、大別すると、基本設計と詳細設計に分けられる。基本設計は、船の基本となる性能及び構造を決定するものである。詳細設計は、基本設計で決定された設計・計画に基づき、船の建造工事ができるように、その内容を具体的に図面や一覧表に表現するものである。
(2)詳細設計は機能設計と生産設計に分けられる。機能設計は、安全面を十分に考慮しつつ、装備機器が能率的、効果的に動作するように、機能面に重きをおいて図面を作成することである。もちろん、経済面も十分念頭において設計することはいうまでもない。
(3)生産設計は、現場作業に必要な詳細な工作図面を作成することである。しかし、生産設計部門を持ち工作図面を作成して現場に出図し、これによって艤装工事を実施しているのは大型造船所に多く、中小型造船所においては生産設計はあまり行われていない。なお、生産設計図はその工場の建造システムに合致したものでないと効果がないので、内容、範囲及び表現方法など各社それぞれ独特のものである。
(4)生産設計の行われていない場合は、作業者自身が現場で機能設計図を基に、担当部分のみを作図するか、又は現場調査の上、位置出しをして工事を進めるのが一般的である。
(5)設計の良否は、船の性能を左右し、また現場の工事にも大きく影響するので、設計者は過去の実績を重視するとともに、能力を十分に発揮して新しいアイディアを取り入れるなど緻密な設計をしなければならない。
(6)電気部門の基本設計では、契約に先立ち、基本性能にかかわる電気機器の概要を記述した基本要目表を作成する。これを基に船主と打合せを行い、船主の希望を入れて諸事項の確認を行う。
 電気機器には電気部門で独自に決定されるものと、船体部、機関部の関連で決定されるものとがあり、電装設計者は、他部門の仕様についても絶えず注意を払い連絡を密にして仕事をしなければならない。
(7)電気部主要目の設定手順は図1.3に示すとおりである。
 
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図1.3 電気部主要目の作成手順(一例)
 
1.2.1 主要目表
 主要目表は、以下の各項目について、簡単に記述したものである。
 なお、主要目の設定に対して同型船である場合とか、船主から提示されたものが同じであれば問題はない。しかしながら、自社又は他社の類型船を参照する場合あるいは未経験の船の場合は、何が問題であるかを十分に見極め、特有の問題を十分に検討しなければならない。
(1)一般
 本船の国籍及び行先により適用される法規、船主の決定により適用される船級規則などは、全体の主要項目として別途まとめて記述されるので、ここでは特に電気機器のみに適用される規格類(例えばJIS、JEM、JEC、IEEE、NEMA、UL、BS、DINなど)について記述する。
(2)電源装置
 主・補助・非常発電機、動力・照明用変圧器、非常・通信用蓄電池、主・非常配電盤などの要目、数量について箇条書き程度に記述する。
(3)動力装置(加熱器を含む)
 甲板及び機関室補機用電動機、加熱器について、その形式を簡単に記述する。
(4)照明装置
 一般、非常又は予備照明の形式(蛍光灯又は白熱灯の別)を記述する。また船灯及び信号灯も記述する。
(5)船内通信・警報・計測装置
 船内電話装置、放送装置、テレグラフ、非常警報、諸計測装置などの品目を記述する。
(6)航海計測装置
 ジャイロコンパス、レーダーなどの航海機器及びプロペラ軸回転計、舵角指示器、音響測深機などの航海に必要な計測機器について品目、数量を記述する。
(7)無線装置
 無線通信・衛星通信装置として装備する送受信機の種類、出力、形式、その他救命設備用無線装置について品目、数量などを記述する。
(8)機関部自動化装置
 機関部の自動化の項目と概要について記述する。自動制御・遠隔制御を行う装置名を記述するとともに主要制御盤及び監視盤についても記述しておく。また機関の無人化証明取得の有無、主機遠隔操縦場所、機関制御室(又は監視室)の設置場所、についても記述する。
 
1.2.2 要目一覧表
 主要目表は、前述のように基本計画における方針決定のためにその概要を記載したものであるが、これから出発して主電路系統の概略を作成するとともに、経験実績データを基に次の各項の作業を行い、見積資料ともなる要目一覧表を作成する。
(1)所要電線量を算出する。
(2)照明装置の仕様により、灯具の種類及び数量を算出する。
(3)船内通信・警報・計測装置、航海計測装置、無線装置、機関部自動化装置などについて、設計着手前に判明する範囲をできる限り詳細かつ具体的にリストアップする。
 
1.2.3 メーカーリスト
 主要電気機器のメーカーリストを作成する。メーカーの選定に際しては、事前に船主及び資材担当者の了解を得ておくことが必要である。
 
1.2.4 電気部仕様書
 一般に電気部仕様書には、次のような内容を記述する。
(1)一般
 設計方針として船に適用される法規又は船級規則、航行区域、検査機関、電装品の構造・性能(原則としてJIS規格品の採用)並びに機関部及び船体部との関連事項を記述する。
(2)電圧及び配電方式
 動力装置、照明電灯装置及び小形電気機器、船内通信及び航海計測装置、無線装置、自動制御及び遠隔制御装置、非常装置又は予備装置(主に予備灯)の電圧及び配電方式。
(3)ケーブル及び絶縁電線
 回路別、布設場所別のケーブル又は絶縁電線の種類。
(4)電路(配線工事)
 配線工事方式及び配線諸材料。
(5)発電機
 主・補助・非常発電機の駆動方式、要目、数量、並行運転又は単独運転の別、装備場所など。
(6)蓄電池
 用途、形式、電圧、容量、数量及び装備場所。
(7)変圧器
 用途、形式、要目、数量、接続方法及び装備場所。
(8)配電盤
 主・補助・非常配電盤などの形式、装備場所、計器、保護装置、各盤の相互接続方法の概要。
(9)充放電盤
 形式、充放電方式、装備場所、計器、保護装置の概要。
(10)船外給電箱
 形式、容量、装備場所。
(11)区分電盤
 形式など。
(12)操舵室集合管制盤
 形式、集合機器の概要。
(13)電動機及び制御装置(加熱器を含む)
 形式及び要目、数量、始動器の形式、集合の程度、優先遮断及び非常停止の要否、自動制御及び遠隔制御の要否。
(14)小形電気機器
 種類、要目、数量、電源、装備場所。
(15)航海灯及び信号灯
 航海灯、停泊灯、モールス信号灯、標識灯、紅色又は緑色閃光灯などの形式、数量、電源、装備位置及び航海灯制御盤の形式など。
(16)照明電灯及びソケットアウトレット(レセプタクル)
 機関室、居住区域、暴露甲板などに装備する電灯の形式(保護形式、白熱灯又は蛍光灯の別)、電圧、消費電力などに関する一般的事項。
 投光器、カーゴランプ、探照灯、海図台灯、舷門灯、ボートデッキライト、作業灯などの形式、電圧、消費電力、数量、装備位置。防爆灯の形式、系統、電圧、消費電力、数量、装備位置。ソケットアウトレットの形式、数量、装備位置。
(17)集魚灯
 形式、電圧、消費電力、数量、装備要領。
(18)船内通信・警報・計測装置及び航海計測装置
 応答ベル、船内電話、エンジンテレグラフ、舵角指示器、プロペラ軸回転計、操舵機用電動機警報装置、一般警報装置、船内指令装置、CO2警報装置、自動火災探知装置、引火性ガス検知装置、温度計測装置、冷蔵倉又は冷凍倉警報装置、旋回窓、レーダー(ARPA)、GPS等船位測定装置、ログ、電子海図、音響測深機、風向風速計、モータサイレン、自動霧中信号装置、ジャィロコンパス、自動操舵装置(オートパイロット)、船内トランシーバなどの形式、数量、系統、電源、装備位置。
(19)無線装置
 GMDSS関連の送・受信機、衛星通信装置、遭難信号発信器(EPIRB、SART等)、船舶電話(NTT)、方向探知機、空中線などの形式、容量、電源、装備位置。
(20)主機関遠隔操縦装置、自動化及び機関部警報装置
 制御室又は監視室の位置を示し、自動化の項目及び警報点については「機関部自動化の章による」などと明記。
(21)備品及び予備品
 品目及び数量。
(22)塗装
 一般にマンセル記号(7.5BG7/2など)を明記。
(23)製造検査及び船内試験検査
 試験検査項目、検査の要否。
(24)図書
 承認図書、完成図書の詳細。
 次に内航タンカー(総トン数:4,286トン、主機:ディーゼル機関10,840PS×1基)の電気部仕様書の一例を参考として示す。
 
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