2・13・1 磁気コンパス
磁気コンパスは、磁石の性質を利用して地磁気から方位の基準を得て船首の方向と物標の方位を測定するものである。ただし、地球の回転軸と磁極とが一致していないため常に偏差が存在する(東京付近では、6度西に偏っている。)。
磁気コンパスは、船体が持っている磁気や周囲の鉄製機器などによって地磁気の方向が曲げられ、自差(方位誤差)を生じるので、自差修正装置により修正する必要がある。磁気コンパスを装備する場合の一般的な注意事項は、次のとおりである。
(1)できるかぎり船の中心線上であって、全方位にわたって見通しが良好な位置に設置すること。
(2)航海機器と磁気コンパスは、磁気を歪ませないように安全距離を考慮して設置すること。安全距離は、メーカ、機種等により数値が異なることがある。
なお、安全距離についての参考値を「電装設計・工事データ図表集第7章」に示している。
ジャイロコンパスは、三軸の自由を持つ高速回転するジャイロスコープに指北装置と制振装置を付加し、地球表面上で常に北を示すようにした装置である。
磁気コンパスが偏差や外部磁界の影響を受けるのに対し、ジャイロコンパスは、それらに影響されず、常に真北を示す点で有利である。ただし、緯度や船速・加速度・動揺によって若干の誤差を生じるので、船速距離計から船速及びGPSから船位の情報等を得て、これらの補正処置を講じている。
ジャイロコンパス本体は、マスター・ジャイロコンパスと呼ばれ、真方位を本体指示部で読み取ることができるほか、マスター・ジャイロコンパスから離れた場所で、針路の測定や物標の方位測定に利用できるように、必要な場所にジャイロ・レピータを設置し、方位信号を指示できる。また、外部機器への真方位信号を伝達するために、ステップ信号、シンクロ信号、デジタル信号等を出力できるようになっている。
GFSコンパスは、複数のGPSアンテナを用いてGPSからの電波の搬送波(キャリア)の位相差を観測し、基準アンテナに対する各アンテナの方向(基準ベクトル)を高精度で求めることにより、真北基準の極めて高精度の船首方位を計測する装置である。
主な特徴として、高精度、停船時でも船首方位(HDT)の測定が可能、起動時間が短い、可動部がないのでメンテナンスフリー、地磁気の影響を受けない、慣性センサーを内蔵しているものは追従性が良い、高緯度地方でも精度の低下はない、速度補正は不用等があげられる。
船首方位伝達装置(THD)は、300総トンから500総トンの船舶及び乗客100名未満の高速旅客船に搭載する真方位センサーである。
船首方位伝達装置(THD)は、船舶自動識別装置(AIS)の方位センサーとして用いられることを目的に新たに導入される機器であり、方位検出原理は、(1)地磁気を利用したもの、(2)外部の影響を受けない独立したジャイロ等の方式のもの、(3)電波を利用したもの等が認められているが、出力信号はデジタル信号に統一されている。
自動操舵装置は、通称オートパイロットと呼ばれているもので、ヘッディング・コントロールシステム(HCS:Heading Control System)の自動型であるが、操舵装置にジャイロコンパスや磁気コンパスなどの船首方位センサーと接続して、舵の動作は最小にとどめながら設定された針路方向に船首を自動保持する装置、即ち、自動船首方位保持装置である。
自動操舵装置は、その船首方向やドリフト(風、波、潮流による差)を補正して自動航路保持装置(TCS:Tracking Control System)の制御部として組み合わされる。
自動操舵で航行中に緊急の衝突回避を行う場合に、オーバーライド操作に切替えて自動モードのまま手動操作を行うこともあるが、特別のレバーを設けているもの、操舵輪を使用するもの、NFU(Non-Follow Up)レバーを利用するものなどがある。
回頭角速度計は、操船の際に、船の回頭運動を把握し易くするために使用される計器であり、主として総トン数50,000トン以上の巨大船で使用される。
ジャイロコンパスからの船首方位同期信号(船の旋回角速度信号)を演算処理して、船首方位の変化速度に比例した信号に変換し、指示計に回頭角速度(旋回角速度)として表示するもので、微少の回頭角速度を表示できるので、狭水路や輻輳した海域での操船に有用な装置である。因みに、指示計の一例としては、1分当り3°の刻みで1分当り60°(1°/秒)の回頭角速度まで目盛表示されているものもある。
ジャイロコンパスからの方位信号により、時々刻々の船の針路を自動的に記録紙に記録する装置である。
船速距離計から船の時々刻々の航程信号と、ジャイロコンパスからの方位信号を受けて、航行する船の航跡を自動的に、かつ、連続的に記録紙に記録する装置である。
船内時計は水晶時計とも言い、安定度の高い水晶発信回路から分周器により60Hzの信号を取り出し、その信号で同期モータを駆動させて秒針を1分間に1回転させ、これを基準に分針及び時針を回転させて時刻を表示するものである。
こ の水晶時計の日差精度は±0.1秒以内であるため、クロノメータ(時辰儀)として使用でき、また、親時計から船内各機器へ時計信号として分配することにより、船内時刻の基準として使用されている。
一般に使用されている風向風速計は、1基のプロペラを持つ飛行機形をしており、内蔵された風向風速発信器内の風向センサー(セルシン発信機等)と風速センサー(小型発電機)からの情報及び船内の他の機器から得られる情報(船速、船位)を同時に取り込み、演算処理した後、相対風向及び風速と真風向及び風速を表示ユニットにアナログあるいはデジタルで表示する装置である。
音響測深機は、船底に装備された送波器から海底に向かって超音波パルスを発射し、その音波の海底での反射波(エコー)を受波器で受信するまでの時間を測定し、水深を求めるものである。(国際規格では、音速は1500m/sで設計されている。)実際には、送波器及び受波器を一体とした送受波器(Transducer)を使用しているものが多い。
また、海底までの途中に魚群がいると、これらの反射もあるので、魚群のような弱い反射体の探知を目的として漁業用に用いられるものを魚群探知機といっているが、これらの違いは使用される周波数程度で、両機ともほとんど同じもので、使用目的が違っているだけである。
使用音波の周波数としては、50kHzと200kHzのものが多いが、水深や海底地質、魚種などにより選択される。
船速距離計は、船の速度あるいは航程を測る装置で総称してログ(log)といわれ、その原理方式から、えい航式、電磁式、音響式に分かれる。速度の表示としては、「対地」計測表示と「対水」計測表示とがあり、音響式は深度により「対水−対地」を切り替えて表示することができるが、その他の方式は「対水」表示のみである。規則的には、「対水」のみを備えておけばよい。
(1)えい航式ログ(Towing log)
えい航式ログは、船尾又は船側から特殊なローテータをえい航し、ローテータの回転数から航程を測定するもので、速力は直接指示しない。
(2)電磁式ログ(Electromagnetic log)
電磁式ログは、ファラデーの電磁誘導の法則を利用したもので、船底から突出した測定桿の先端のコイルを有するセンサーによる磁界が海水を切るとき、センサーの先端に取付けられた1対の電極に相対速度に比例して生ずる起電力により、船速と航程を測定する装置である。低速時の精度も良く、後進時の速力も測定できる。
(3)音響式ログ(ドップラーログ:Doppler log)
音響式ログは、ドップラー効果を利用したものであり、音響測深機と同様に船底に送受波器(Transducer)を装備している。船舶では、前後、左右方向の速度を得る必要があることから、超音波を鋭いビームで四方又は二方に発射し、発射周波数と反射周波数との周波数のズレを演算処理して、船体方位、対水速力、対地速力、潮流のデータを得ることができる。
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