3・4・5 電気推進装置
プロペラの推進軸を駆動する原動機として電動機を使用するための一連の装置をいう。
この歴史は古く、1886年ドイツにおいて、120Ahの電池を電源とし、5PSの直流電動機を原動機として、小舟を毎時11kmの速度を得て運航したことに始まる。
その後は誘導(同期)電動機を最終段の駆動機として用いる交流方式、直流電動機を最終段の駆動機として用いる直流方式および交直併用方式に分かれて発展してきたが、パワーエレクトロニクス技術の進歩に伴い、1980年頃を境にサイリスタモータ方式やサイクロコンバータ方式の採用が主流となってきている。
(1)電気推進の分類
電気推進方式は、電気機器の種類や主回路の電力の性質によって以下の3種類に分類することが出来る。
(a) |
交流方式 |
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発電器および電動機ともに交流機(器)で構成されるものをいう。発電機には一般に同期発電機が用いられ、電動機には同期電動機または誘導電動機が用いられる。 |
(b) |
直流方式 |
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発電機および電動機ともに直流機(器)で構成されるものをいう。 |
(c) |
交直併用方式 |
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発電機は交流機、電動機は直流機で構成される。 |
以下の各方式の基本構成、特徴および採用例を示す。
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(2)交流方式による電気推進
電気システムは、適用される船の使用によってこれまで様々な方式が考案され実用化されてきた。特に近年、サイリスタなどの静止型電力変換素子を用いた産業用電動機の可変速度制御技術の発達・普及がめざましく、高い制御性能、保守性等の利点を有するため船舶の電気推進システム用としても広く採用されるようになってきた。
回転機についても、これまで制御の容易さやトルク特性の良さから用いられてきた直流電動機が保守に手間がかかるため徐々に用いられなくなってきたが、代わって交流電動機が、保守性の良さとパワーエレクトロニクス技術の普及により可変速制御が容易に実現可能となったことから、推進電動機の最近の主流となってきている。
従って、ここでは交流方式の中でも圧倒的に採用例の多いサイリスタモータ方式とサイクロコンバータ方式について、その概要を述べる。
(a) |
サイリスタモータ方式 |
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サイリスタモータとは、矩形波電流形直流式無整流子電動機のことをいい、その主回路構成を図3・13に示す。 |
ここで直流式の主回路変換器は、直流電源を作る電源側変換器(コンバータ)および電動機に交流を供給する電動機側変換器(インバータ)から構成され、その中間に直流回路を持つ。電動機の速度調整は、コンバータのサイリスタ制御角を調整し、直流中間回路の電圧を変えることにより行われる。一方、インバータは、磁極位置検出装置からの信号をもとに分配器でゲートパルスを形成し、サイリスタにゲート信号を与えれば転流動作を行い、電動機の回転速度に比例した矩形波交流電流を供給する。
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図3・13 矩形波電流形直流式無整流子電動機の主回路構成
(b) |
サイクロコンバータ |
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正弦波電流形無整流子電動機のことをいうが、広義には矩形波電流交流式無整流子電動機も含まれる。いずれも、固定周波数の交流電源から直流中間回路を介さずに直接異なった周波数の交流に変換する方式であるが、特に正弦波電流形の場合は、変換効率が高くまた出力周波数を0から連続的に調整することが出来るため、矩形波電流形と比較し低速機に適している。 |
正弦波電流形と矩形波電流形の主回路構成をそれぞれ図3・14、図3・15に示すが、図3・14における転流は次のように行われる。
図3・14でB側整流器の点弧パルスをオフとし、A側整流器の各サイリスタ素子に決められた順序に点弧パルスを与えると、負荷の両端には整流波形が現れ、次にA側整流器の点弧パルスをオフとし、B側整流器に同様に点弧パルスを与えると、負荷の両端に逆極性の電圧が現れる。このように各整流器に交互に点弧パルスを与え、繰り返し周期を調整することにより、正弦波の可変電圧を得ることができる。
図3・14 正弦波電流形無整流子電動機の主回路構成(単相分)
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図3・15 矩形波電流形交流式無整流子電動機の主回路構成
(3)利害得失
電気推進方式は在来方式(ディーゼル直結を想定)に比べ高率で劣るものの、優れた操縦性、定速域での高トルク、低振動・低騒音等の長所を生かして砕氷船、客船、各種調査船・観測船、ケーブル敷設船、シャトルタンカー等で、これまでに主に採用されてきた。
在来方式との主な相違点は以下の通りであるが、電気推進方式は在来方式にない、多くの優れた特徴を有している。
(a)利点
(i) |
主機と発電機を共用する場合が多く、原動機の型式、重量の均一化、設備台数および、シリンダ数減を図ることができる。 |
(ii) |
操縦が容易で、また、遠隔操作が容易である。 |
(iii) |
発電機の原動機の位置が推進用電動機の位置を拘束しないから、電動機を任意の位置に選べる。したがって、中間軸を排し、電動機を船尾に設けられるから、それだけ貨物倉を増すことができる。 |
(iv) |
発電機の原動機を必要に応じ、分割して設置すれば負荷に応じ、台数の増減によって運転できるから、経済運航が可能である。 |
(v) |
速度制御が一般に容易で、逆転が速かで最大出力まで利用できる。 |
(vi) |
低速域で大きなトルクが得られて、砕氷船等の推進システムとして有利である。 |
(vii) |
原動機が定速であり、運転台数(シリンダ数)も負荷に応じて自由に減らし得るのでメンテナンス性に優れる。また、電気設備としても交流化、デジタル化により、機器自体の保守整備の簡易化を実現している。 |
(viii) |
発電機用であるため原動機の弾性支持が行い易く、またトルク脈動の少ない電動機で推進するので振動・騒音が少ない。 |
(ix) |
原動機が定速であり、環境対策としてNox対策がし易い。 |
(b)欠点
(i) |
設備費が割高である。 |
(ii) |
燃料消費量がやや大きい。 |
(iii) |
静止型変換装置を使用する場合、高調波に対するノイズ対策が必要となる。 |
(iv) |
逆電力に対する検討が必要となる。(場合によっては、逆電力吸収装置の装備が必要) |
(1)主機関の出力の種類のうち常用出力、連続最大出力及び過負荷出力について述べよ。
(2)主機関の伝達出力とはどのようなものかを述べ、かつ、タービンの伝達出力2000kWのとき軸出力はいくらになるか。
(3)船の速力を30%あげるためには、伝達出力を何%上げればよいか。
(4)主機関の出力5000PSは何kWになるか。
(5)1000馬力のディーゼル機関において、1時間の燃料消費量が200kgとすれば、この機関の熱効率はいくらになるか。
ただし使用燃料の発熱量は10000kcal/kgとする。
(6)過給機は如何なる役目をするか述べよ。
(7)調速機の働きの原理を述べよ。また、その必要性につき述べよ。
(8)復水器について述べよ。
(9)電気推進装置中最近主流となっている方式は何か。かつ、これを説明せよ。
(10)電気推進装置の利害得失を述べよ。
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