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3 機関部概要
 
3・1 主機関の出力の種類
 主機関には各種の出力が使用されているので、次にこれらを示す。
 
3・1・1 常用出力(normal output)
 航海速力を得るために常用する出力で、機関の効率と保守の上から経済的な出力をいう。
 
3・1・2 連続最大出力(max continuous output)
 機関が安全に連続使用できる最大の出力をいう。これを機関の強度計算の基礎とし、主機の呼び出力とする。
 
3・1・3 過負荷出力(over load output)
 連続最大出力を超えて、短時間使用できる出力をいう。
 
3・1・4 後進出力(astern output)
 船の後進時における最大出力をいう。
 
3・1・5 軸出力(shaft output)
 蒸気タービン等の軸継手に伝えられる出力をいう。
 
3・1・6 ブレーキ出力(break output)
 内燃機関の軸継手に伝えられる出力で水動力計等により計測する。
 以上が通常船舶に使用されている出力の種類であるが、これらの外に次の出力もある。
 
3・1・7 図示出力(indicated output)
 内燃機関や蒸気往復動機関などのシリンダ内で発生する出力をいう。この値は指圧線図の面積を測って求める。
 
3・1・8 有効出力(effective output)
 船をある速度で、船体・抵抗に打ち勝って動かすに必要な出力をいう。
 
3・1・9 伝達出力(delivered output)
 主機関が発生した軸出力からプロペラに伝わるまでの、いろいろの摩擦損失等を、差し引いた残りの出力を、伝達出力という。
タービン軸出力≒1.02伝達出力
ディーゼルブレーキ出力≒1.05伝達出力(主機が中央部の場合)
≒1.03伝達出力(主機が船尾部の場合)
 
3・2 船の速力と主機関の出力との関係
 船の速力と主機関の出力には、おおよそ伝達出力、∝V3の関係がある。
V:速度(ノット)
〔例題〕、船の速力を2割増しとすれば、伝達出力は何割増せばよいか。
〔解〕伝達出力=(1.2)3
≒1.7 7割増し
 
3・3 出力(kW)とPS
 ワット(watt)又は馬力(ps)は単位時間にする仕事、即ち、仕事率の単位である。以前はPS(馬力)単位で出力を称していたが、メートル法実施によって、kWで表すこともある。
 これらの関係は次のとおりである。
1PS=75〔kg・m/s〕=735.5〔W〕≒0.736〔kW〕
故に 1kW=1.359PS
注:PSはドイツ語 Pferdestarkeの略 1PS=736〔W〕
〔例題〕主機関の出力4000PSをkWに換算せよ。
〔解〕4000×0.736=2944〔kW〕
 
3・4 主機関
 
3・4・1 主機関の種類と熱効率
 主機関とは推進軸を介してプロペラを回転して、船を前方に推進するか、又は後方に推進する役目をする機関であるので、船の心臓部である。その出力の大きさ及び種類等は、船種、船型、速力などによって定められる。(3・2参照)
 
 また、熱効率の良い機関が燃料消費量の節約ができ、また、船の運航上経済性が良いとされる。この見地からいえばディーゼル機関が最良であるが、その他種々の理由から蒸気タービンも採用されている。また、ガスタービンも特殊な要求から使用されることもある。
 小型船舶では出力が数kWから100kW前後のものまで取扱い及び装備上の関係から、小型ディーゼル機関、ガソリン機関等が採用されている。
 主機関の種類及びそれらの熱効率については、次のように分類される。
 
機関種類   熱効率
(1)内燃機関    
  (a)ガソリン機関 20〜30%
  (b)4サイクル ディーゼル機関 35〜45%
  (以下説明)  
  (c)2サイクル ディーゼル機関 40〜50%
  (以下説明)  
(2)蒸気タービン   25〜35%
(3)ガスタービン   30%前後
   注:熱効率とは次の式で表される。  
 
 
 
ここで、4500とは1馬力は75kgm/sで1分間では75×60=4500
 また、427とは1kcal=427kg・m熱の仕事当量のこと。
〔例題〕1,200馬力のディーゼル機関において、1時間の燃料消費量が210kgとすればこの機関の熱効率はどのくらいか。ただし、使用燃料の発熱量は10000kcal/kgとする。
〔解〕
 
 
 以下ディーゼル機関、蒸気タービン及び電気推進装置について説明する。
 
3・4・2 ディーゼル機関(diesel engine)
 この機関は、ドイツのルドルフ・ディーゼル博士が、1858年以来石油機関について研究を重ねていたが、遂に1898年にいたって、熱効率の良いディーゼル機関を完成したものである。それ以来種々改良され今日に至った。
このディーゼル機関の動作原理の特長は次のようなものである。
シリンダ内において、ピストンが上下運動する際、ピストンが上昇して、そこの気圧が30kg/cm2以上の高圧に圧縮すればシリンダー内の圧縮空気は発火点以上の温度になる。そこへ燃料油を噴射すれば、着火燃焼し、爆発圧力により、ピストンは上下運動を繰返し、クランク軸により回転運動に変換される。なお、この場合燃料として廉価な重油が使用できる特長がある。重油は粘度の低い順にA・B・C重油に分けられ最近では大型ディーゼル機関にC重油が使用され運航費の低減に役立っている。
 ディーゼル機関を分類すれば次のようになる。
 
(1)シリンダ(気筒)配置による分類
 
図3・1 立形4シリンダ / 図3・2 V形シリンダ
 
 
 図3・1、3・2は通常使用されている機関の形を示したもので、このほかに横形のものもあるが、裾付面積を広く要するので殆んど使用されない。そしてこれらは単動機関であるがこのほかに複動機関等もある。
(2)サイクルによる分類
(a)4サイクル機関
(b)2サイクル機関
(3)4サイクルディーゼル機関の動作
 図3・3のとおり、2回転すなわちピストンの動きが4ストローク(行程)したとき、1回の爆発がシリンダ内に起り、順次これが繰り返されて、回転運動に変る仕掛けである。
 これを図3・3によって説明すれば、(A)のときピストンが第1ストロークで下降し、新鮮な空気を吸入する。次に(B)において1回転の後半のとき、ピストンが第2ストロークで上昇し、前に吸入した空気を圧縮して高熱になりながら圧縮が行われる。(C)のように第2回転の前半即ち第3ストロークに入る瞬間、燃料が噴射されて高圧ガスの燃焼膨張によって動力が発生し、ピストンは下降する。次に(D)のように、第2回転の後半即ち第4ストロークにおいて燃焼した排ガスを排出して、次の第1ストロークを待つことになる。これで2回転中4行程が行われて完了するが、この行程が順次繰返されてエネルギーをクランクシャフトに伝えることになる。これを4サイクル機関という。出力は1シリンダあたり、2,000PS位が最大である。
 
(A)Suction 吸気行程
(B)Compression 圧縮行程
(C)Working 燃焼行程
(D)Exhaust 排気行程
図3・3 4サイクルディーゼル機関
 
 







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