歴史的な船舶観測データセットの整備と海洋変動による旱魃・冷害の研究(その2)
報告書
(平成14年度事業)
平成15年3月
財団法人 日本気象協会
はしがき
地球温暖化に代表される気候変動の解明が緊急の課題である現在、歴史的データの価値はますます高まっていると言えます。歴史的データの多くは、紙媒体やマイクロフィルムとして保存されており、これを電算機処理が可能な形に電子媒体化し整備する意義は非常に大きいと言えます。
本事業は、民間船舶の協力の下に観測された「歴史的海上気象観測資料」(通称、神戸コレクション)の電子媒体化を推進し、品質管理を行い、CD−ROMに格納して全世界の関係機関や利用者へ配布してきました。この「歴史的海上気象観測資料」データセットは、観測データの少ない第一次大戦期の北太平洋の貴重な観測資料となっており、気候変動の解明に活用されております。
平成7年度から始まったこの事業は8年間継続されて、本年で全データが電子媒体化されて終了する運びとなります。本年度事業では、未処理の「歴史的海上気象資料」を全て処理し、データセットを完成させるとともに、気候変動に関する調査・研究を行い、その成果がここにまとめられています。これらは地球温暖化に関連した気候変動や海運・海洋土木活動のあり方を検討するための、重要な基礎資料になるものと自負しております。
この事業は日本財団の平成14年度助成事業を受けて実施したものであることを申し添えるとともに、事業を推進するにあたり、8年間の間ご指導を頂きました委員の方々に厚く御礼申し上げます。
平成15年3月
財団法人 日本気象協会
会長 石月昭二
地球温暖化に代表される気候変動の解明は、今や人類共通の重要な課題である。そのためには、全球的な気候変動の正確な把握とこれに立脚した科学的な予測が何よりも大切であり、現在各国において、各種データに基づく過去の気候変動の把握と、主に数値モデルを用いた気候変動の予測に多くの努力が払われている。
気候変動の研究では、海洋が地球表面の約70%を占めているので海洋気象の把握が不可欠であり、長期的変化を捉えるには100年以上にわたる長期間の観測データが必要である。このような認識に基づいて、世界気象機関(WMO)は1963年に「海洋気候統計計画」を発足させて、海上気象観測データの電子媒体化を推進することを決定した。
一方、気象庁(JMA)は1961年に、米国海洋大気庁(NOAA)との協力により、神戸海洋気象台が収集してきた明治22年(1889年)から昭和35年(1960年)までの海上気象観測データ(神戸コレクションと呼ばれる)をマイクロフィルムに収録した。これらのデータは約680万通にのぼるものであり、このうち1933年以降の約270万通は電子媒体化され、海洋大気総合データセット(COADS)に格納された。しかし、1932年以前については未着手のままであった。
このような背景のもとに、日本気象協会は学識経験者からなる委員会の指導の下に、平成7年度から日本財団の助成事業として、この歴史的な海上気象観測データ「神戸コレクション」を電子媒体化し、地球温暖化等による海洋気候の長期変動の把握・解明に資するデータセットを構築してきた。
これまでのデジタル化事業については、WMOの海洋気象委員会(平成9年3月)や「船舶による歴史的海上気象観測データセットの整備・利用に関するウークショップ」(平成12年11月、東京)等においてその概要が報告され、国際的にも非常に高い評価を受けている。さらに、「気候変動の監視・予測及び情報の利用に関する国際ワークショップ」(平成9年12月、神戸)においても、「歴史的観測データのデジタル化やその交換は、気候系の変動の理解及び気候変動の検出のために必要不可欠である」ことが国内外の関係者によって認識されている。
本事業は、こうした国際的な期待・要請を背景として、地球温暖化予測等の重要施策に不可欠な「神戸コレクション」を電子媒体化し、それらを用いた解析の高度化を図り、地球環境保全、海難防止、産業振興等社会の発展に寄与することを目的としている。また、これらの目的を達成するため、この歴史的な海上気象観測データセットの整備を図り、気候変動に関連する調査研究を推進するものである。
日本気象協会は、平成7年度〜平成13年度の事業において、合計約266万通のデータを電子媒体化してきた。このデータは「日本財団により助成を受けて電子媒体化された神戸コレクション海洋気象データセット」であることから、このデータセットをKoMMeDS−NF(The Kobe Collection Maritime Meteorological Data Set funded by the Nippon Foundation)と呼んでいる。
平成14年度事業では、残されたマイクロフィルムデータを全て電子媒体化処理し、さらにこれらの歴史的データを用いて気候変動に関する調査研究を実施するものである。本事業により得られた成果は、地球温暖化予測等の重要施策や地球温暖化に関連する船舶の運航や海洋土木活動のあり方を検討する上で、重要な基礎資料をもたらすものと期待される。
本事業の全体の概要を図1に示す。この事業は平成13年度と平成14年度の2ヶ年計画で実施するものであり、平成14年度は次の事項について研究開発を進めた。
1. 歴史的海上気象観測資料の電子媒体化
約40万通と見込まれる未処理の「神戸コレクション」歴史的海上気象観測データを全て電子媒体化する。
2. 品質管理
平成13年度と今度事業において電子媒体化したデータを品質管理する。
3. CD−ROMの作成
これまで(平成7年度〜平成14年度)に電子媒体化し品質管理した全データを、CD−ROMに格納して利用者へ公開する。
4. 海洋変動による旱魃・冷害に関する調査研究
歴史的海上気象データを用いて、日本における冷害及び旱魃と全球の海面水温分布パターンとの関係を調査研究する。
5. データセットを用いた気候解析
KoMMeDS−NFデータセット等の歴史的データセットを用いて、専門家による詳細な気候変動解析を行う。
6. 報告書の作成
本事業の成果を報告書にとりまとめる。
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図1 平成14年度事業の全体概要
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