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3)計算結果
 降水過程変更後の予報精度を検証するため、低気圧の通過した5月10日15時〜20時までの実験1、2の時間降水量の分布図を図3.2.7〜3.2.8に示す。この平面図は、計算の降水量分布をレーダ図の範囲に合わせて描いたものである。水平風の分布は変更前と変更後で大きな違いはないが、実験1の計算結果は、レーダデータや実験2と比較して低気圧の中心付近の降雨強度が小さかった。実験1、実験2ともに低気圧の通過時間が天気図やレーダから推定される通過時間と比較して遅れている。それは、入力データであるGPVが低気圧の通過時刻を遅れて予報しているためと考えられる。
 図3.2.10〜3.2.11は、図3.2.9の切断面A−Bにおける雲水量と東西風速と鉛直風速の鉛直断面図である。umaxは東西風速の最大値でwmaxは鉛直風速の最大値である。切断面Aは、計算値において5月10日17時〜18時頃に低気圧と寒冷前線が通過した箇所を含んだ面である。実験1では気象モデルの上端高度が5000mであるため、雲頂高度は常に5000m以下だった。しかし、実験2では、低気圧の東側に温暖前線に伴う層雲、西側では寒冷前線に伴う背の高い雲などが表現されていた。また、実験2は実験1と比較して低気圧の中心付近に大きな上昇流が計算されていた。
 図3.2.12〜3.2.13は領域の温位の鉛直断面図である。実験1、2共に寒冷前線の後面は温位が低く、等温位線が込み合っていた。同時刻の降水量平面図(図3.2.7〜3.2.8)と合わせて見ると、寒冷前線の前面では南から暖気と上昇流が、後面では北からの寒気と下降流があったことが分かる。上昇流の中心域では、凝結が起こり、温位は高くなっていた。
 図3.2.14は5月10日17時の実験2の切断面A−Bにおける雪と雹、雨の量を示した図である。約5000mより上層では雪や雹の氷晶が形成され5000mより下層では雨滴が形成されている。5000mより上層から落下してきた雪や氷は5000m付近で水滴などを取り込みながら融解して雨となって地表面に落下する。5000m付近では、氷晶と水滴が混在している。
 図3.2.15は領域平均雨量と、アメダス観測値の平均値をプロットしたものである。領域内の平均降雨量は実験2の方が期間を通じて実験1よりも多かった。これは、以下の理由が考えられる。
(1)5000m以上の高さから落下する雨を表現できるようになったため
(2)氷晶と水滴が混在する層が存在することによって、氷が水や過冷却の雲水を取り込んで成長していくことが表現できるようになり、雨粒が生成されやすくなったため
 アメダス観測値の平均値は計算値の領域平均雨量とは同じ意味のものではないが、この事例では過小評価の傾向のあった雨量が少し改善されていると考えられる。
 図3.2.16は予報時間別のスレットスコアである。本事例では1mm以上の降水を予報していた箇所が少なかったため、雨の閾値は0.5mmとした。雨の観測値は1時間値のアメダスを用いた。低気圧が通過した予報時間12時間から24時間は少し実験2の方がよかった。以上から降水過程をcold rainスキームに、基礎方程式を深い対流モデルに変更することによって、降水量が少し改善されることが分かった。
 
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図3.2.7 実験1(浅い対流・warm rainスキーム)
降雨量平面図 2002年5月10日13時〜10日18時
 
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図3.2.8 実験2(深い対流・cold rainスキーム)
降雨量平面図 2002年5月10日13時〜10日18時
 
図3.2.9 切断面A−Bの位置







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