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海洋科学技術研修テキスト

 事業名 マリンサイエンス・スクール事業
 団体名 海洋研究開発機構 注目度注目度5


深海の生物
 「火星にも生命は存在するのか?」生命の歴史に新たな1ページを加えるかもしれない発見が宇宙から聞こえてくるようになりました。人類の興味は地球を飛び出し、未知なる宇宙へと果てしなく広がり続けています。しかし、地球上には宇宙と同様、もしくは宇宙以上に未知の世界が存在します。それが深海です。19世紀ごろまで、深海は生物のいない「静」の世界だと考えられていました。しかし、深海を調査するための様々な機器が開発されるにつれ、深海にも独特の生態系が存在することが明らかになりつつあります。
 なかでも1977年にガラパゴス沖水深2千5百メートルの海底温泉(熱水噴出域)で発見された生物群集はこれまでの生物学の常識とは大きくかけ離れたものでした。それはまるで砂漠のオアシスで、一般の深海底とは異なり、おびただしい数の生物が観察されました。また、そこは新種の宝庫で、これまで全く知られていなかった生物が数多く発見され、大きな話題となりました。
 中・深層域にもこれまで良く知られていなかった生態系が存在することがわかってきました。ここに暮らす生物の多くは体がゼラチン質でできているため非常に壊れやすく、古くからある網などを使った方法では採集ができませんでした。そのため、有人潜水船などが開発され、実際に人が深海域を見ることができるようになって初めて、その存在が明らかになりました。
 
 ここでは有人潜水船や無人探査機などを用いてこれまでに明らかになった深海生物の謎に迫ります。
 
1)深海の特徴
 生物学の分野では、水深200メートル以深を「深海」と呼んでいます。深海は一般的に高圧、低温、暗黒(弱光)で餌の乏しい環境です。
 
2)深海生物の特徴
 深海環境中で餌を発見したり、敵から逃れたり、繁殖行動のために、深海生物の多くは以下のような特徴を備えています。
 
●発光器官の発達 ●眼の発達 ●触覚の発達
●口の発達 ●雌雄の特殊化  
 
3)一般的な深海生態系の特徴
 一般的な深海生態系には植物のような生産者がいません。従って、食物連鎖の源は海洋表層や陸上で行われた光合成由来の有機物で、そのごく一部が深海へ運ばれ、深海生物の餌となります。種の多様性が非常に高く、熱帯雨林に匹敵すると考えられています。
 
 
トピック
●カイコウオオソコエビ
 海溝域に生息する、大きさ4〜5センチメートル程度のヨコエビという甲殻類の1種です。無人探査機「かいこう」により、世界でもっとも深いマリアナ海溝チャレンジャー海淵(水深1万9百メートル)からも採集されました。通常の観察中にはなかなか目に入りませんが、海底に餌付き採集器を設置したところ、餌の臭いを嗅ぎつけてたくさんのカイコウオオソコエビが集まりました。
 
深海生態系と化学合成生態系
  一般的な深海生態系 化学合成生態系
深海底 中・深層  
生物種の多様性 非常に大 
(熱帯雨林に匹敵)
非常に大
(推定)
生物量 小 
(1m2当たり数グラム)
不明 非常に大
(1m2当たり数十キログラム)
エネルギー源 表層の光合成由来の有機物
(遺骸、糞粒、脱皮殻、動物の鉛直移動など)
 
海底より湧き出す熱水・冷水中に含まれる硫化水素、メタン
成長速度 不明 非常に大きいものもあり
(例:ハオリムシ類)
 
(拡大画面:50KB)
 
4)化学合成生態系の特徴
 深海底には熱水や冷水が海底から沸き出す場所があり、その周囲には一般の深海底とは大きく異なる生態系が存在します。通常の生態系のエネルギー源は太陽光で、植物が光合成をして有機物を合成します。しかし、化学合成生態系では一次生産のエネルギー源が熱水や冷湧水中の化学物質(硫化水素、メタン)で、生産者は化学合成細菌です。またここに住む動物には体内に化学合成細菌を共生させているものも存在します。硫化水素やメタンは通常の生物にとっては有毒ですが、これらの動物は有毒物質の中でも生きられるような体のしくみを備えています。
 
化学合成生態系の代表種
●ハオリムシ類
 通称「チューブワーム」と呼ばれるこの動物は化学合成生態系で見られる最も奇妙な生物です。ハオリムシは口や消化管を持たず、自らは餌を摂りません。その代わりに硫黄細菌が体内の栄養体と呼ばれる組織の中に大量に共生しており、ハオリムシは細菌が生産した有機物をもらって生きています。硫化水素は一般の生物には有毒ですが、ハオリムシは細菌の一次生産のエネルギー源として硫化水素を体内に取り込まなければならないので、硫化水素を運搬する特殊なタンパク質を持っています。自分で分泌して作り出す管の中で生活し、他へ移動することはありません。ゴカイの仲間に近縁であると言われています。
 
●シロウリガイ類
 世界各地の熱水噴出域や冷水湧出域に住む殻の白い二枚貝で、鰓の中には硫黄細菌が共生しています。ハオリムシ類と異なり、シロウリガイ類には口や肛門や消化管がありますが、栄養のほとんどを共生細菌から得ており、消化管はかなり退化しています。相模湾に生息するシロウリガイは海水温度が上昇したときにいっせいに放卵放精して、子孫を残すことが知られています。なお、貝を開くと、写真のように赤く見えますが、これは、体内に多量のヘモグロビンが存在するからです。
 
●ナラクハナシガイ
 日本海溝の水深約7千4百メートルで発見された二枚貝で、シロウリガイ類と同様に鰓の中に硫黄細菌が共生しており、消化管はかなり退化しています。この二枚貝は化学合成細菌を共生させているものの中で最も深い場所に生息しています。
 
●ユノハナガニ
 目の退化したカニで、体は真っ白ですべすべしています。深海の海底温泉周辺に生息することから、温泉に舞う「湯ノ花」にちなんで命名されました。日本では、沖縄や小笠原諸島海域の水深4百〜千4百メートルで確認されています。このカニは、船上に引き揚げても活発に動き回るほど丈夫で、長期飼育が可能です。目は非常に退化していますが、光を感じる能力があることが明らかになっています。
 
5)深海の最深度(10,911m)で発見された生物
●カイコウオオソコエビ(ヨコエビの一種)
 世界で一番深いマリアナ海溝のチャレンジャー海淵(水深約10,911m)から採集された端脚類で、ヨコエビの仲間です。カイコウオオソコエビは比較的大型(約4.5cm)ですが、小型のヨコエビは、海岸に打ち上げられた海草やゴミの中に多数棲息し、その周辺で、ピョンピョン飛び跳ねている様子がよくみられます。







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