5.4 舵面積とオーバーシュート角の関係
IMO操縦性暫定基準、特にZ試験におけるオーバーシュート角について、Esso Osakaを基準船型として、下記に示すように舵高さと舵幅を系統的に変化させることにより運動性能の異なる船を人工的に作り出し、数値シミュレーションにより検討を行った。
0.8×本来の舵高さ ≤ 変更後の舵高さ ≤ 本来の舵高さ
0.3×本来の舵幅 ≤ 変更後の舵幅 ≤ 本来の舵幅
シミュレーション結果をもとに、IMO暫定基準における10°/10°Z試験の第1、第2オーバーシュート角、20°/20°Z試験の第1オーバーシュート角の関係を調べた結果、10°/10°Z試験の第1オーバーシュート角の基準を満足する船のおよそ半数が第2オーバーシュート角の基準を満足しておらず、また、10°/10°Z試験の第1オーバーシュート角の基準を満足する船の約1/4の船が20°/20°Z試験の第1オーバーシュートの基準を満足していなかった。これらの検討から、IMOの暫定基準は10°/10°Z試験の第1オーバーシュート角、20°/20°Z試験の第1オーバーシュート角、10°/10°Z試験の第2オーバーシュート角の順に厳しくなっていることが分かる。現行の暫定基準を有効なものとするためには、これらの3つの基準が同等の評価となることが望ましい。
操縦性基準における各性能指標は実船試験で安定して数値が得られることが重要である。こうした観点から、暫定基準のCourse-keepingとYaw-Checking性能の指標となっている10°/10°Z試験の第1、第2オーバーシュート角、20°/20°Z試験に影響を及ぼす諸因子を分析し、そのばらつきを把握しておく必要がある。従って、オーバーシュート角に影響を及ぼす諸因子を想定し、その影響度について数値シミュレーションにより検討を行った。
(1)旋回による速力低下の違いがオーバーシュート角に及ぼす影響
船の旋回によって速力低下が発生するが、この状態でプロペラ回転数が保たれるとプロペラ後流を受ける舵の力が船体流体力に比べて相対的に増加し、舵効きが良くなる傾向にあり、オーバーシュート角も多少異なるため、その影響について検討を行った。その結果、旋回による抵抗係数が増え速力低下が大きくなるとオーバーシュート角は減少する傾向にあるが、10°/10°Z試験の第2オーバーシュート角に及ぼす影響は少なくなく、この指標は同程度の操縦性能であっても、船によってばらつく原因になると推測される。
(2)初期速力の違いがオーバーシュート角に及ぼす影響
IMO 操縦性暫定基準において、船の速力は85%出力の試運転速力(一般に常用速力)の90%以上で実施することとなっている。一般に大型船になるほど速力整定時間がかかり、操縦性試験は速力が整定しなくとも主機回転数が整定した段階で開始することが多い。この場合、所定の主機回転数に対応する整定速力より低い場合、前述の(1)と同様、舵の力が相対的に増加して舵効きが良くなるので、オーバーシュート角が小さくなると推測される。そこで、Z試験の初期速力が整定速力より低い状態におけるオーバーシュート角の変化を調査した。その結果、初速が低いほどオーバーシュート角が小さくなる傾向は10°/10°Z、20°/20°Z試験とも同程度であり、初速の影響は少なくないことが分かった。
(3)初期回頭運動がオーバーシュート角に及ぼす影響
海上試験において、Z試験が理想的に直進状態から開始できることはまれで、多かれ少なかれ回頭運動が残留する場合がある。この初期回頭運動がZ試験のオーバーシュート角に及ぼす影響を調査した。シミュレーションでは、この初期回頭運動として、船の回頭角速度を船の長さと船速で無次元し、±0.1の範囲で与えた。ただし、Z試験はいずれも右舷角から開始することとした。
シミュレーションの結果によると、初期角速度が右方向(+)の場合は転舵する時期が早くなるために、第1オーバーシュート角は10°/10°Z、20°/20°Z試験ともに減少し、第2オーバーシュート角はやや増加する傾向にある。初期角速度が左方向(−)の場合は逆に第1オーバーシュートが増加する。また、舵角の小さい10°/10°Z試験の第1オーバーシュート角に及ぼす影響は20°/20°Z試験のオーバーシュート角より大きい。
(4)試験舵角中心のずれがオーバーシュート角に及ぼす影響
海上試験ではまた、Z試験で発令される左右の舵角が僅かにずれる場合もある。この舵角のずれがZ試験のオーバーシュート角に及ぼす影響を調査した。シミュレーションでは、舵角中心のずれとして±0.5の範囲で与えた。ただし、Z試験はいずれも右舷角から開始することとした。
シミュレーション結果によると、舵角中心が右(+) の場合におけるZ試験の第1オーバーシュート角は、回頭力を与える舵角が大きくなるのに対し、回頭を止める舵角が小さくなるために、第1オーバーシュート角は10°/10°Z、20°/20°Z試験ともに増加する。また、第2オーバーシュート角はこれとは逆に、回頭力を与える舵角が小さく、回頭を止める舵角が大きくなるので減少する。このオーバーシュート角の変化は舵角の小さい10°/10°Z試験の第1、第2オーバーシュート角ともに舵角の大きい20°/20°Z試験より大きい。
(5)転舵回頭角のずれがオーバーシュート角に及ぼす影響
Z試験の実施にあたっては手動で舵をきるので、操船者によっては転舵するタイミングが微妙にずれることもあり得る。特に小、中型船では船の回頭運動が速くなるため、転舵の遅れが起こりやすく、転舵時期のずれがZ試験のオーバーシュート角に及ぼす影響も少なくない。シミュレーションでは、転舵する回頭角を±0.5°の範囲で変え、Z試験のオーバーシュート角に及ぼす影響を調査した。ただし、この転舵回頭角のずれはZ試験中、全ての転舵で発生したと仮定してシミュレーションを実施した。
シミュレーション結果によると、転舵のタイミングが遅れ、転舵回頭角が大きくなった場合のZ試験の第1オーバーシュート角は大きくなり、オーバーシュート角の変化は舵角の小さい10°/10°Z試験の第1、第2オーバーシュート角で大きくなっている。第2オーバーシュート角の変化はやや複雑で、ループ幅が5°程度の船では第1オーバーシュート角と同様、転舵時期が遅れると増加するが、ループ幅が10°では、第1オーバーシュート角が大きくなって船の速力低下が大きくなるためか、逆に減少する傾向にある。
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