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2. 実施した調査研究の内容
 IMOが開始した海洋環境保護委員会決議:MEPC.60(33)「機関室ビルジの汚染防止装置の指針及び仕様」及び総会決議:A.586(14)「油タンカーの油排出監視制御装置の指針及び仕様」の見直し作業は、後者の内容が前者に規定される「15ppm警報装置」に整合することで対処できるとの判断から、作業の重点は、MEPC.60(33)の見直しに置かれた。
 
 今回の見直しの動機となったものは、実船の機関室ビルジに最近特に多く含まれるとみられる界面活性剤による乳化油に対して、現用の油水分離器が十分に対応できないとの問題提起であった。このため、「指針及び仕様」にもとづく型式承認試験に用いる試験流体に適切な乳化油流体の包括が検討され、かつ乳化ビルジを処理できる油水分離器の性能及び試験仕様についても審議された。これに関連して、油水分離器に不可欠のビルジ警報装置についての検討も行われた。
 
 この様なIMOの動向に的確に対応するため、実験及び実態調査を必要とするものについては、これを実施し、その結果を審議した。また、各決議の見直し案に対しては、問題点の解明に努めるとともに、IMOに対する適正な意見表明の原資料として用いた。
 
 DE.44に於いて合意された仕様の「試験流体C」は、実際の型式承認試験の試験流体として調製でき、試験に供せるものか、あるいは何らかの改善を要するのかを明確にする必要がある。このため、先ず研究室規模でのビーカー実験を行った。DE.44で合意した試験流体Cの1kgの組成は以下のとおりである。
 
・水(摂氏20度で比重1.015以下) 949.4g
・燃料油(ISO8217、DMA) 25.0g
・同上(同上、RMF25) 25.0g
・界面活性剤(DBS) 0.5g
・懸濁固形物(四三酸化鉄) 0.1g
 
2.1.1 研究室内実験の模様
 研究室内実験のために調製した試験流体1kgの組成は、以下のとおりである。
 
・水道水 949.4g
・軽油(比重約0.83) 25.0g
・重油(比重約0.9888) 25.0g
・界面活性剤(DBS) 0.5g
・酸化鉄 0.1g
 
 実験は試験流体10リットルを予め摂氏40度に加温して、ポンプの回転数及び循環量を変化させ攪拌と混合を行い、均質で安定した流体を得るために実施した。この実験では循環ポンプの回転数が3600rpmで安定した乳化流体を得た。試験流体を常時継続的に循環すれば、半分程度の回転数でも安定した乳化状態を保持できることも推定し得た。また循環量は時間当り貯留タンク容量の60倍程度を必要とし、試験流体の吸引口の位置はタンク底部に、吐出口はタンク上部とすることが望ましく、タンク表面積を小さくすることで、より少ない循環量でも十分な攪拌と混合が期待できることが判明した。
 
2.1.2 界面活性剤の成分変化による影響
 既存の実船ビルジの成分分析資料を参考に、界面活性剤の混入量を変えて乳化流体の性状変化の模様を観察した。実験方法は以下のとおりである。
・水1kgに界面活性剤0.25gを混入した後、摂氏20度における比重が1.015になるように食塩を加え、これを用いて5種類の希釈液を作り、これを原液とした。
 
・各原液に重油対軽油1:1の燃料油5gを注入し、各容器を同時に100回振盪攪拌して、30分間静置し、乳化の状態を観察した。
 実験結果より各試験液とも格別な変化は見られなかったが界面活性剤濃度0.00125%でも、安定していることが観察された。
 これにより、DE.44において合意した界面活性剤濃度0.05%は適切か否か、また食塩水に界面活性剤を混入する場合に、界面活性剤の混和が極めて困難であることを明らかにできた。
 これらの実験から試験流体Cの調製順序を含めて、更なる検討が必要と判断された。
 
2.1.3 試験流体Cによる油水分離器の性能試験
 決議:MEPC.60(33)見直しにおいて検討中の試験流体Cを用いて、現存の型式承認試験に合格した油水分離器の性能試験を行った。
 
(1)試験流体Cの調製
 見直し案に示された残渣燃料油の入手ができなかったため、MEPC.60(33)に示されている燃料油を使用し、界面活性剤及び懸濁固形物については見直し案の仕様に従って試験流体Cを調製した。
 
(2)油水分離器に対する負荷の方法
 漲水した循環ポンプ付きタンクのポンプを運転しながら、ポンプ吸引側より試験流体Cを注入し、油分濃度が約300ppmとなるよう試験流体を調製した。油水分離器附属のポンプを用いて試験流体を油水分離器に流入させた。負荷の方法及び試料の採取は、決議:MEPC.60(33)の仕様に従った。
 
(3)試験結果
 採取した試験流体試料の油分濃度測定は、四塩化炭素抽出赤外分光法を用いた。濃度測定の結果は、油水分離器処理後の流体中の油分濃度が15ppmを超える値を示した。
 この実験により、現在の油粒凝集浮上分離方式のみの「コアレッサー型油水分離器」では、乳化流体の処理が困難であることを認識した。
 
2.1.4 試験流体Cによる15ppm警報装置の性能試験
 見直し案に示される試験流体Cを用いて、15ppm警報装置の性能試験を行った。
 
(1)試験流体Cの調製
 決議:MEPC.60(33)の見直し案の仕様に従って、試験流体Cを調製した。ただし、残渣燃料油は現行決議の仕様に従った。
 
(2)15ppm警報装置に対する負荷の方法
 試験装置に試験流体Cを流入させるため、定量注入ポンプを用いて目盛り付きビュレットに試験流体を満たし、目盛りを読むことにより「単位時間当たりの試験流体の流量」を決定した。
 注入した試験流体は攪拌槽内で攪拌したのち、試験装置に導入した。負荷した試験流体の油分濃度は、試験流体Cの油分濃度と水の流量比から算出した。試験に用いた15ppm警報装置(油分濃度計)は現行の型式承認試験に合格したもの2種類である。
 
(3)試験結果
 「四塩化炭素抽出赤外分光法」による油分濃度測定値と供試装置の指示値に差異が認められた。原因として想定されるものに、試料採取方法の不具合、赤外分光分析の誤差及び試験流体の均質保持の困難性が挙げられる。
 
 実際の型式承認試験設備に即した規模の試験設備において、安定かつ均質な試験流体Cを調製する方法を確立することを目的として、実験研究を行った。
 
2.2.1 試験流体Cの調製
 試験流体Cを調製する条件を変えて、調整中及び調整後の流体の状態を観察した。試験流体Cの組成は、決議:MEPC.60(33)の見直し案の仕様に従った。ただし、懸濁固形物は乳化の性状変化に影響がないと判断したので除外した。調整の可変条件は以下のとおりとし、試料採取は15分毎に1時間まで行い、必要最低攪拌時間を検討した。
 
・攪拌流量
・攪拌時における循環流体のタンク内吐出方向
・組成成分の混入順序
・食塩の有無
・燃料油の混入方法
・循環ポンプの回転数
 
2.2.2 実験結果より得られた知見
 8種類の組み合わせで、試験流体Cの調整を行い、その結果より安定かつ均質な試験流体を調整する方法を得た。その方法は以下のとおりである。
 
・循環ポンプの容量は、毎分当たりタンク内液量以上とする。
・循環用配管の吐出口は、タンク底から上向きとする。
・循環ポンプの回転数は、3000rpm以上とする。
・攪拌時間は、30分以上とする。
・試験水は、浄水とする。(塩化ナトリュウムは界面活性剤の乳化作用を阻害する。)
・燃料油の混入方法は、循環ポンプの吸入側または循環タンク上方からの注入のいずれでもよい。
 
 各種船舶40隻の機関室ビルジから試料を採取して、ビルジ中に含まれる油分及び乳化油を分析して、これらの油分濃度を求めた。また懸濁固形物の含有量及び粒径分布についても分析した。
 
 エマルジョン含有量は、サンプル中のエマルジョン化していない浮遊油を取り除いた後、MEPC.60(33)に基づきCCl4抽出分析によって測定された。エマルジョンの平均的含有量は50ppm、最大含有量は300ppm、最小含有量は1ppmであった。
 殆どの場合、エマルジョン化していない油(浮遊油)で、SS(懸濁物)が見つかった。SSの量は、採取されたサンプルの場所に依存して様々であり、ビルジセパレータ入口から採取したものより、ビルジ溜りのサンプルから、より多く観測された。これに関連して、ビルジ溜りからのサンプルの値は、ビルジセパレータに水を供給することを考慮すると切り捨てられる。平均SS含有量はビルジセパレータの注入口から摂ったサンプルにおいては58mg/lで、試験流液Cに対してのSSの指定量は提案された100mg/l以内であって満足している。
 
 第44回船舶の設計、設備(DE)小委員会において、我が国は「機関室ビルジの汚染防止装置の指針及び仕様」に関する決議:MEPC.60(33)の見直し作業に資するものとして「統合ビルジ処理システム(IBTS)」を提案した。
 このシステムは、我が国の大分の船舶が機関室ビルジを効果的に処理する設備として採用し実効を挙げているものである。DE小委員会では、この提案をMEPCからの付託事項の範疇外と見做した。
 しかし、MEPCでは海洋環境保護委員会回章:235号(平成2年12月13日)「船舶の機関室の油性廃物処理システムに関する指針」(MEPC.Circ235)を考慮に入れて「IBTS」の検討を見直し作業に含めるよう指示した。これに伴い、DE小委員会に提出する「IBTS」の代表例の作成を関係者間で行った。







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