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 高齢化は死ななくなった、生まれなくなったことで起こると言いましたが、死亡率と出生率の分析をすると、次のようになります。初めは圧倒的に赤ちゃんが生まれなくなったから、高齢化がどんどん進んだと言えます。今後はどうなるかというと、全く様変わりした状態になり、出生の減少ではなく死亡率が非常に大きな影響を持ちます。マスコミ全体を通じて、今、少子・高齢化という言葉しか使っていませんが、これには大きな落とし穴があります。現状を分析すると少子化は従来ほど大きな問題ではなくなっています。長寿化が高齢化に影響を与えている程度が大きくなっていて無視できません。人間の寿命の限界がどうなるかが、高齢化を最終的に決定します。ここにいらっしゃる皆様の中で、誰も早く死にたいと思っている人はいないと思いますけれども、皆さんが生きたいと思えば思うほど、高齢化は進むというジレンマに陥るのです。
 
 日本大学人口研究所で人間の寿命を分析するために、毎年死んだ人の中で最高齢からトップ50人の平均年齢を計算してみました。1950年から2000年まで計算が済んでいます。1950年から1975年ぐらいまでは、ゆっくりペースでした。ところが75年ぐらいからもう、最高死亡年齢が、ぐんぐんと上昇カーブを描いているのです。今、女性のトップ50をとると平均が108歳です。毎年すごい勢いでトップ50の平均年齢が上昇していっています。2、3日前に男性の世界最長寿に日本人が112歳でなりました。今、我々の研究所では、スーパー・センテネリアンと言いまして、110歳以上の研究をしています。これが、ものすごい数になってきて見落とすことができないのです。そういったようなことを考えると、寿命はどんどん伸びる可能性があるということです。
 
 今後このように寿命が延びていった場合には、日本の女性は、ますます長生きします。私の自宅の近くにスイミングスクールがあります。この前、80歳ぐらいのおばあちゃんが、スイミングスクールに来ていました。孫を迎えにきたのかと思ったら、そうではなくて、自分が泳ぐのだと言います。そこで、びっくりしまして、“おばあちゃん、なんで泳ぐの”って聞いたら、“私は三途の川をクロールで渡るんだよ”と張り切っていました。そういう方がいる限り、ますます日本の女性の寿命は延びると思います。
 
 ほんとうにこんなに高齢者が多くなってきますといろいろな問題が起こってきます。東京でパトカーが登場したのは、1950年です。車社会の本格化は非常に新しい現象です。高齢者の運転には、非常に難しい問題があります。この中で皆さん免許持ってらっしゃる方いらっしゃると思うのですが、何歳まで免許を持つことができるかというのが非常に大きな問題となります。
 今は、高齢者が行くと、若い人がよけてくれるという。しかし、やがて今世紀もうすぐ到来する社会ですが、老人同士になったらどうなるのか、ちょっと心配です。
 次に、高齢者の女性化の問題です。65歳以上で、男女の数の違いですが、要するに、65歳以上で、男性人口を上回っている女性の数がすごい数で増えています(図(6))。
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図(6)
 
 65歳以上の中でどこが増えるかというと、85歳以上のおばあちゃんが圧倒的に増えていくということを示しています。この年齢グループの介護を誰がするのかという問題が出てきます。85歳以上は、痴呆性老人が非常に出やすいグループです。だから痴呆が大問題になってきて、これに対する対策をなんとか立てないと、大きな問題になります。
 その痴呆性老人を誰が介護するのかという問題です。この部屋にも私の話が始まると同時に、ほぼ寝たきりの状態の人が、いらっしゃいますが、どんどん、寝たきり・ボケ老人の数が増えていった場合に、誰が看るかといった問題です。
 夫婦にアンケートをとると、だいたい男性は、妻と答えるのですが、奥さんは、娘と答えます。女の人は利口で、夫が死ぬのが先だとわかっていますので、そうなるわけです。その子供に果たして頼れるかというとそれが問題です。
 それを示したのがこの5つの図です。これは、40から59歳の女性を、65から84歳の老人で割った値です。これは女の人が介護すべきということを言っているわけじゃなくて、たまたま、現状として、約90%の確率で女の人が中心になって介護しているということからこの図をつくりました。この状況を私が肯定しているわけではなく、現状が続いたら“どうなるか”というだけの意味です。私の価値観が入っていないことは改めて述べておきたいと思います(図(7)−(11))。
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図(7)
 
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図(8)
 
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図(9)
 
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図(10)
 
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図(11)
 
 日本の国土には市区町村が約3300あります。これらの3300の市区町村を点にしますと、1955年には、黄色い点が圧倒的に多かったのです。この黄色は高齢者1人に対して、介護してくれる人が2人ということで、介護できる人口が2倍いたのです。いい時代だったのです。ところが、75年には、だいぶグリーンが入って、95年には赤になりました。赤は、ちょっと厳しい状況です。赤は、1人以下で0.5を意味します。高齢者2人で、介護する人が1人です。2010年では黒です。熊本県のある村では、高齢者100人に対して介護できる人口が5人という数字になります。これはほぼ間違いなく当たる数字です。日本全国でみても、家族による扶養能力は明らかで、これを計算してみると、日本の介護能力は世界中で2005年に最低になります。
 
 こういう中で介護保険がつくられてきているのですが、介護をする人がいなくなるのではないか、行政がいかにこの制度を維持するかは、今後、重要な問題になっていくと思われます。
 
 では財政的には、どこまでがんばれるか。世界における歴史上の財政危機を振り返ると日本政府の現在の財政危機は、借金を税収で賄うとすると、仮に、毎年、税金の全額を借金返済に投入して、一銭も使わないでも15年もかかるということです。すごい額です。一時イタリアがEUの間で、大変な危機だと言われましたが、それより数倍も深刻な状況です。
 
 それを個人のレベルでもう少し分けてみます。皆さんの世帯に換算すると、平均57万4676円収入があって、田舎へ仕送り=地方交付税交付金が17万円で、ローン=国債が18万円、1カ月で使う生活費が51万円。毎月29万円、不足分を借金しなければならないし、その上に住宅ローンを5000万円近く抱えていることになります。
 
 これが現在の日本の現状です。これをなんとか立て直さないといけないわけで、これをどう乗り切るかが、今、大きな問題です。
 あいつはこんなに恐ろしい話ばっかりして、とんでもないやつだと思われるのもいやですので、いくつか解決のための選択肢を言っておきます。まず、高齢者の年齢の定義を変えればいいのです。これは、黒田先生が最初に提言したことです。今、人口の17%しか高齢者はいません。毎年毎年、最高齢者から17%だけを老人と呼ぶ、こういう社会にすればいいんです。そうするためには25年間で高齢者の定義を75歳にまで引き揚げればいいのです。それに合わせて厚生年金、定年制、ありとあらゆるものをそこに変化させるということだと思います。
 
 もう1つは、発想を全く変えて、健康序列でいくしかないという考え方です。これは医学の力が必要なのですが、健康序列で、要するに、健康を決める指標をいくつか選んで、その健康度によって、年金の支給を開始する。元気な人には働いてもらって年金を支給しない。黒田先生などは、ぜんぜん支給の必要のないほど健康です。そういう社会をつくるという選択肢があると思います。
 日本の社会の中では、高齢者というとお荷物に考えている人が多いのです。この状況を私は、個人的には非常に残念なことだと考えています。これをなんとかして、日本の中で、高齢者は、“増大する資産”と考えることができる社会づくりを行うことが、大きなキーポイントになるのではないかと思います。そのための社会工学的アプローチを行うことが重要であると思います。
 
 昨年、アメリカの人口学会で、ケネディ大統領の経済顧問をやっていた、ウォルト・ロストウ教授とたまたま同じセッションで一緒だったのでいろいろ話をすることができました。ロストウ教授は皆さんよくご存じのように、経済的離陸(テイクオフ)という言葉をつくった人です。その時に発表された彼の論文はおもしろかったのです。そのタイトルは「日本の第四の挑戦」というものです。第1のチャレンジは1600年代の徳川3代による鎖国政策。第2のチャレンジは、明治の元勲達による文明開化。第3のチャレンジは、第2次世界大戦後の復興。
 
 そこでロストウ教授は、少子・高齢化は日本の第4の挑戦であると言われたのです。過去3回、日本では、すばらしい政治的なリーダーシップがとられて、これらの挑戦を乗り切ってきました。したがって、この第4の挑戦をいかにして乗り切るかは、政治家がどれだけリーダーシップをとれるかということが非常に重要になっています。
 マクロ経済も大切です。ミクロのレベルで、我々が努力することも大切ですが、日本に長期的な安定した展望を生み出せるような、政治的なリーダーシップが、今、日本に問われているというふうに思います。
 ご清聴ありがとうございました。
 
広瀬:
 これは最後になりますが「生命倫理の立場から」というテーマで、青山学院大学の名誉教授の坂本百大先生にお話をうかがいます。よろしくお願いいたします。







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