アジア人口・開発協会(APDA)の設立20周年記念公開フォーラム
「人口問題を考える」−人類生存の条件と人類社会の未来−
本書「人口問題を考える−人類生存の条件と人類社会の未来−」は、財団法人アジア人口・開発協会が設立20周年を記念して2002年の3月26日に東京・日比谷の日本プレスセンター大会議場で開催した、公開フォーラムの議事録である。
人類の未来、地球の環境保護、人類と地球の平和的な共存を図る上で、人口問題が最も重要な問題であることは言うまでもないが、現在日本では人口問題に対する関心が希薄になっているのが現状である。
日本は第2次世界大戦後、多産多死から少産少死への移行(人口転換)を極めて短い時間で成功させ、この経験は世界的にも「奇跡」といわれた。その結果、現在の日本では人口が増えすぎる問題に対処するという意味での人口問題は存在しなくなった。現在日本ではこの人口転換の結果、不可避的に生じてくる少子高齢化問題が社会構造そのものの大きな変革を迫り、その対策が急務となっている。
一方、世界では特に、最低開発国(LLDC)を中心に貧困の中で人口が激増を続け、21世紀の半ばには90億人を超えると考えられている。地球の扶養限界を考えるとき、この数字は驚異的なものであり、地球がこの人口を扶養できる保証はない。例えば、人類は人類が使用可能な淡水資源の30%以上を既に使用しており、自然のなかで人間と共生している他の生物の生活環境、水の環境維持機能を考えると、これ以上、人間生活に淡水を利用することはできないといわれている。
しかし、淡水資源は食料生産にとっても、飲料水としても、工業用水としても不可欠なものである。人口がこれからさらに30億人増えることがどのような影響を人類社会に与えることになるのか想像もつかない。
財団法人アジア人口・開発協会(APDA)は人口と持続可能な開発との相関領域を扱う日本で唯一のNGOである。人口と持続可能な開発に関する調査研究と同時に、人口と持続可能な開発問題に対する啓発活動、および人口と開発問題に対する国会議員活動の支援を主たる目的として1982年に設立された。APDAは、その活動を通じ人口と持続可能な開発問題に対し、これまでさまざまな提言や、資料提供を行ってきた。
人口問題を解決するために活動するNGOとして、多くの日本国民が人口問題に関心を失っているということは、たいへん重大な問題である。この理由は、国民にとって人口問題が自分にとって関係のないことと受け取られていることが最も大きな原因であろう。
しかし、グローバリゼーションの中で、一国の問題は世界に大きな影響を与える。特に、日本のように食料の多くを輸入しているような国は直接的にその影響を受けることになる。また、現在日本にとって最も緊急な課題である、少子高齢化は人口転換の結果として生じたものである。日本はその高度成長期に高齢者人口も年少者人口も少なく、労働力人口が多いという人口ボーナスを享受し、その人口ボーナスが日本の経済成長に大きな貢献を果たした。現在の少子高齢化は、その経済成長期に活躍した人口が高齢化することと、少子化が予想以上に進展することで発生したものであり、まさしく人口問題なのである。
また、現代日本において人口問題をわかりにくくしている大きな理由の1つとして、その用語が特殊で聞き慣れないものであるということが挙げられる。その結果、人口の用語が一般の国民にとって縁遠いものとなってしまっている。また用語だけでなく、その活動も、さまざまなグループがそれぞれの関心で活動している結果、何が人口問題なのか非常にわかりにくくなっている。
現在、人口問題を彩るキーワードは、リプロダクティブ・ヘルス、リプロダクティブ・ライツ、HIV/AIDS、女性のエンパワーメント、難民、避難民、ジェンダー、女性に対する暴力等々である。さまざまな用語が独自の意味を持ち、それに対する活動もそれぞれの機関がそれぞれの関心に基づいて行っている結果、非常に多様なものとなり、その全体像がいかなるものなのか、それが私達の生活や将来にどのような影響を与えるものなのかを認識することは容易ではない。
この多様な活動、用語は人口問題の広がりを示すものであるが、同時に、人口問題に対する関心の希薄化に拍車をかけているものでもあろう。
APDAは人口問題に対する関心を取り戻すためには、多くの人々に「人口問題とは何か」を理解してもらうことが最も重要であると考えた。そのためには余りにも多様になっている人口のさまざまな問題を鳥瞰し、その姿を把握することが重要である。そうすることで、日本国民の人口問題に対する関心を取り戻す契機を作りたいというのが20周年記念公開フォーラムの目的であった。
この日本国民の関心を取り戻し、日本国政府が積極的に行っている国際的な取り組みを世論の面から支援することで、世界の人口問題解決への努力を後押ししたいというのが私達の願いである。
そこで、公開フォーラムには、各分野で日本が世界に誇る卓越した講師を招いた。基調講演を松井孝典・東京大学教授(地球物理学)にお願いし、第1部人口問題とは何か−環境、生物学、食料の視点から−<人類生存の条件>ではモデレーターに川野重任 APDA理事(東京大学名誉教授、文化功労者)、「生命圏の視点から」星元紀・東工大名誉教授・慶応大学教授、「環境の立場から」原剛・早稲田大学教授、「食料の視点から」内嶋善兵衛・宮崎公立大学学長にそれぞれご講演いただいた。
第2部では人口問題とは何か−医学、社会構造、生命倫理の視点から−<人類社会の未来>と題し、黒田俊夫 APDA理事(JOICFP理事長、国連人口賞受賞者)にモデレーターをお務めいただき「医学・公衆衛生の立場から」村上正孝・茨城産業保健推進センター所長、「少子・高齢化が社会に与える影響」小川直宏・日本大学人口研究所次長、「生命倫理の立場から」坂本百大・青山学院大学名誉教授にご講演をいただいた。
各界を代表する著名な先生方には非常に多忙な日程の中、たいへん貴重なご講演をいただいたことに改めて深く感謝申し上げる次第である。
また、このセミナー開催に際し、日本政府厚生労働省、外務省、農林水産省および国連人口基金(UNFPA)、国際家族計画連盟(IPPF)、人口と開発に関するアジア議員フォーラム(AFPPD)等の国際機関、毎日新聞社、朝日新聞社、読売新聞社、日本経済新聞社、産経新聞社等のメディア各社、また(財)ジョイセフ、(社)日本看護協会、NPO2050など多くの関係機関から賜ったご後援ご協力に対し、深く感謝申し上げる。
この出版物が人口問題に対する理解につながり、さらに人口問題解決への貢献に寄与することができれば発行者としてこれに過ぎる喜びはない。
財団法人アジア人口・開発協会
理事長 中山太郎
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