日本財団 図書館


第6章
地域別の人口傾向
開発途上国と先進国の比較
 人口増加率は地域により大きく異なり、同一地域内の国であっても大きな格差が存在する。事実、人口増加はすべて開発途上国で起こっている。一方、ヨーロッパ、北アメリカ、日本の人口増加は低下しているか、あるいは止まっている。
 
開発途上地域:
●現在の人口は49億人である。
●2050年までに推定82億人になると予想されている(中位推計)。
●1995〜2000年までの出生率(TFR)17は、女性1人当たり3.1である。
●今後50年間に、最貧国の人口は3倍に増加すると予測される。
 
先進地域(オーストラリア、ニュージーランド、日本、ヨーロッパ、北アメリカ):
●現在の人口は12億人である。
●1995〜2000年までのTFRは、女性1人当たり1.57であり、置換水準2.1を大きく下回っている。
●今後50年間に、出生率が置換水準を下回り続けると予想されることから、先進国の人口はあまり変化しないと思われる。東ヨーロッパなどの出生率の低い39カ国では、人口は現在よりも減少すると思われる。
 
 オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、米国は先進国の中では人口増加率が最も高く、1%前後のレベルを保っている。この増加のほとんどは移民によるものである。人口増加率がゼロに近いか、あるいは下降している国々は、ハンガリー、イタリア、ラトビア、ポルトガル、ロシア連邦、スペインである。
 
アフリ力諸国
 今日、ほとんどのアフリカ諸国の女性たちは、その母の世代よりも小規模の家庭を望んでいる。家族計画の利用が増加し、家族計画サービスの利用率も増加している。しかし、10年以上にわたり1人当たりの食料生産が低下していること、また1人当たりの所得が伸び悩んでいることが負担となり、アフリカの多くの国の政府にとって、医療・保健サービスの一層の普及が困難となっている。さらにはHIV/AIDSや他の性行為感染症(STD)への感染率が高いことがさらなる重荷になっている。リプロダクティブ・ヘルス及び家族計画を含む医療・保健の向上、教育及び女性のエンパワーメントなどに対する国際社会の援助が非常に重要となる。
 
アジア諸国
 アジアでは、出産の際に女性の意見がより一層反映できるように、リプロダクティブ・ヘルス・ケアや教育制度をより利用しやすくするなど、女性の地位向上のための努力が最も重要である。パキスタンでは出生率が依然として高いが、バングラデシュでは家族規模が徐々に縮小し始めている。インドは地方によってその傾向は様々であり、北部では出生率が高く、南部では低くなっている。
 南部インドとスリランカでは女性が家族計画サービスを簡単に利用でき、高い水準の教育を受けることができるようになり、出生率が低下した。特に韓国やタイにおいては、質の高い家族計画サービスの自発的な利用と女性の高等教育の増加が家族の規模(人数)を縮小することにつながった。
 
ラテンアメリカとカリブ海諸国
 ラテンアメリカの平均寿命は北の先進諸国のそれに近づいており、乳児死亡率は開発途上国で最低の水準を誇っている。
 アジアにおいては家族計画サービスの利用を拡大させるには政府の財政支援がカギとなっているのに対し、ラテンアメリカ諸国では非政府機関(NGO)を含む民間部門が大きな役割を果たしている。その結果、部分的にではあるが、ラテンアメリカの国々の中ではサービスの利用に関して利用者の経済的地位によって大きな較差が存在している。
 
後発開発途上国
 後発開発途上国(LDC)に分類されている48カ国で、特に人口増加が急速に進んでいる。
 こういった国では、2000年から2050年の間に人口が6億5,800万人から18億人へとおよそ3倍に増大すると予測されている。
 これらの国の出生率は他の開発途上国と比較しても高く、1995〜2000年のTFRは女性1人当たり5.74である。2045〜2050年にかけてのTFRは、女性1人当たり2.51に低下すると予想されているが、依然高いレベルである。
 後発開発途上国の中でも16力国が特に高出生率を示しており、他の開発途上国が高出生率から低出生率への推移を示しているのに対して対照的な傾向を示している。これら16カ国は、アフガニスタン、アンゴラ、ブルンディ、ブルキナ、ファソ、チャド、コンゴ、コンゴ共和国、エチオピア、リベリア、マラウイ、マリ、ニジェール、ソマリア、シエラレオネ、ウガンダ、イエメンである。これらの国のうち数力国はHIV/AIDSにより深刻な影響を受けており、またその多くが内乱や政治的混乱に見舞われている。
 これら高出生率の16カ国の人口は2000年現在、合計2億6,900万人であるが、この高い出生率は今後急速な人口増加を引き起こし、2000年から2050年の間に人口は4倍に膨張し10億人を超えると推計されている。
 
ボツワナの人口増加率
1980−1985年から2010−2015年
出所:United Nations Population Division
 
HIV/AIDSの影響
 今後5年間で、HIV/AIDSの影響を最も強く受けている45カ国における死亡者数は、以前の推計値よりも1,550万人上回る見込みである。にもかかわらず、人口は、高い出生率が続くことを背景にして増加し続けると予想される。HIV/AIDS感染者の割合が36%であるボツワナでさえも、2050年までの人口増加率は37%と予測されている18
 今後(特に2015年以降)、HIV感染の可能性が大幅に低下すると予想されているが、この疾病の長期にわたる影響は計り知れない。最も影響を受けている45カ国では、出生時の平均余命がすでにおよそ3年短くなっており、2015年には60歳になると考えられている。これはHIV/AIDSがないと仮定した場合よりも平均余命が5年短縮したことを意味する。
 世界のHIV/AIDS感染者の95%が開発途上国で生活している。この比率はさらに高まると考えられる。なぜならばこれらの国は、貧困に見舞われ、劣悪な医療制度しかなく、予防や治療のための資金や人員が限られており、ウイルスの蔓延をより一層拡大させてしまうからである。HIV/AIDSは働き盛りの人々や孤児を襲い、医療・保健や社会制度に莫大な負担を負わせるものである(第4章参照)。
 

17 出生率が変わらないと仮定した場合の、1人の女性が生涯に出産する子供の平均数。P.5*参照
18 UN Population Division,World Population Prospects;The 2000 Revision







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION