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第5章
人口−その規模(数)と傾向
世界の人口は増大を続けている
 人類の歴史のほとんどの期間において、人口増加は微々たるものであったが、過去半世紀の間に世界の人口は2倍以上に膨れ上がり、1999年後半には60億人に到達した。かつて経験したことのない巨大な人口が毎年新たに付け加えられている。若者の数が記録的に増大しているということは、さらに今後数十年人口が増大し続けるということを意味している。これらの人口増加はすべて今日の開発途上国で起こると予想され、開発途上国の人口は2050年までに全世界の人口の85%を超えると予測されている13
 
●世界の人口は2050年までに現在の61億人から93億人へと50%増大する。後発開発途上国(LDC)48カ国では、人口が6億5,800万人から18億人へと約3倍に増加すると予想されている。
●世界人口は毎年1.3%、7,700万人増加している。この約半分が6力国の人口増加によるものである。その国はインド(総増加数の21%)、中国、パキスタン、ナイジェリア、バングラデシュ、インドネシアである。
 
 人々はより長寿に、より長く健康な人生を送るようになり、死亡率は1950年以来半減した。この低い死亡率と平均寿命の伸びが、ここ数十年の人口増加の背後にある要因となっている。
 かつてない規模の人口増加数より驚くべきことは、人口の様相や構造の変化である。世界人口はかつてないほどの規模と速度で変化しており、特に若年・高齢者層の人口増加及び人口の都市への流入は顕著である。
 
世界の人口増加の実数及び推計1950−2050年
出所:United Nations Population Division
 
人口増加率の低下
 人口は依然として増大しているが、実際の人口増加率は低下しており、家族も小人数化する傾向にある。引き続き人口増加のぺ一スが緩やかなものであり続けるかどうかは、貧困を減らし人権を守っていこうとする取り組みや、政府の人口・開発政策などをみて、今後10年間に一人一人がそれぞれ選択をし、行動を起こすかどうかにかかっている。人口増加率の低下が、努力することなく当然のごとく得られるものだと考えてはいけない。
 
●国連の人口学者は2050年の人口を3種類推計している。−「低位推計」では79億人、「中位推計」によれば93億人、「高位推計」では109億人である。この差異は、この3種類の予測を立てる際に適用した将来における出生率のわずかな差異によるものである14
 
 世界人口の年間増加率のピークは、1960年代初頭の年率約2%であった。それ以降、人口増加率は徐々に減少し、現在では1.3%となっている。しかしながらその増加率の母数となる世界人口は増大し続けており、人口増加率が減少しても毎年の増加数が上昇し続けていることを意味しているv
 
小家族への傾向
 人々は、より少人数の家族を望み、持ち始めている。この傾向は特に女性に対して、安全で品質が高く手ごろな家族計画サービスが広く提供されることにより促進されてきた。しかし、現状では望んだ数以上の子供を持つ家庭が多い。
 
●世界中で3億5,000万組以上のカップルが、現代的な家族計画を利用できていない。妊娠を防ぎたい、あるいは遅らせたいと思っている1億5,000万人以上の女性が、いかなる家族計画も利用できていない。
●サハラ以南のアフリカでは、世界中のどの地域よりも出生率が高い。しかしそこで行われた調査によると、女性たちは子供の数を現状よりも少ないほうが良いと思っている。
 
年間平均人口増加率
(拡大画面:13KB)
出所:United Nations Population Division
 
人口統計に現れる多様な傾向
 健康管理が向上し、避妊具が入手しやすくなったことで、高出生・高死亡から低出生・低死亡へ「人口転換」が生じている。出生率は61カ国で置換水準viと同じであるか、あるいはそれ以下となっている。しかし、近年の傾向をより詳しく分析すると、人口増加に影響を与えている要因には、大いに多様性があることがわかる。
 
●LDCの人口は2050年までに3倍に増大する。人口は、最も貧しい国々で最も速い速度で増加している。こういった国々では基本的ニーズも満たされておらず、機会も与えられていない。
●HIV/AIDSの影響を最も受けている国々では、死亡率が上昇し平均寿命が低下している。
●迫害・武力紛争・暴力などから逃れるために、約1,170万人が難民となり自国を追われている。国内にとどまる国内避難民の数は2,000万〜2,500万人で、彼らの多くが都市に流入して都市貧困層の増大を生んでいる15
 
 最近の人口問題における動きの中での変化としては、移住と都市人口の増大が挙げられる(第7章参照)。例えば先進国への移民が受入国の人口を増加させており、これはいわゆる「置き換え移住」と言われている。
 また、世界中の家族レベルで様々な変化が起こっている。家族が支え合うような形態が減少し、片親家庭の割合が増えている。貧しい家庭は、社会的なセーフティネットの欠陥の被害を最も受けやすい。アメリカ合衆国ではシングルマザーの家族が増えているが、それが貧困層に占める女性の割合を増加させる要因の1つとなっている。
 
高齢者と若者
 現在、15〜24歳までの人口が10億を超えており、若者の数が人類の歴史上最大となっている。概して開発途上国では人口の3分の1以上が15歳未満であり、一方、先進国では5分の1以下となっている(第8章参照)。
 若年層の人口が多い現在の状態でさえ、高齢人口はすでに年少(0〜14歳まで)人口を超えてしまった。また2050年までには、年少人口1人につき高齢者2人の人口構成となる見通しである。
 
●世界の出生率が減少を続け、平均寿命が長くなることにより、今後50年間の人口は、過去50年の入口よりも速く高齢化する見込みである16
 
言い換えれば、かつて歴史上なかったほど多くの人々が長生きをし、ほとんどの国で人口構造に占める高齢者の割合が最も大きなものになるということである。基本的な衛生管理・清潔な飲料水・最新の医療技術により、人々はより健康で長い人生を送るようになっている。地球規模でみると、60歳以上の高齢者の人口は、2050年までに現在の6億600万人から約3倍の20億人に増大すると予測されている。
 
変化と人口高齢化
 高齢人口のためのより良い医療・保健サービス、社会福祉事業、経済的援助を提供し、さらに世代間の公正を支援する政策を選択すれば、高齢者が長い間にわたって健康で自立して、さらに生産的であり続けることが可能になる。医療・保健は性行動に関する健康(セクシャルヘルス)及びリプロダクティブ・ヘルスのサービスが不可欠であるばかりではなく、治療薬の負担を減らすための予防ケアも重視するべきである
 
●家族構造の変化によって、より多くの高齢者が所得を得るために働かなければならず、かつてのように家族の相互支援ネットワークから恩恵を受けることができにくくなってきている。
●都市化により、かつて伝統的な教育や社会教育の役割を担っていた彼らの祖父母から、若い人々は引き離されている。
●中東では伝統的な大家族が徐々に消滅しつつあり、例えばエジプトでは総家族数の84%が今や核家族である。
●HIV/AIDSで両親を失った子供は、その祖父母に面倒をみてもらうことになるかもしれない。
 
国連人口開発会議(ICPD)活動計画、パラグラフ7.45(青少年)と6.17(高齢者)
 

v 世界の人口増加数(規模)は、世界人口(人口規模)に人口増加率を掛けたものから死亡数を除いたものである。したがって、人口増加率を掛ける母数となる世界人口の規模がかつてないほど拡大している現在、人口増加率が減少したとしても、その絶対数は容易には減少しないということになる。人口減少の過程は、人口増加率、人口増加数、人口規模の順で生じ、その間にかなりの時間差がある。このため人口増加率が減っても、毎年の人口増加数はなかなか減らない。さらに全体の人口規模が停止や減少に向かうためにはかなりの時間がかかり、対策が遅れた場合、長期的に甚大な影響を及ぼすことになる。
vi 出生数が人口を維持する水準のこと。死亡率の水準で変化するが、一般的に言って、女性1人当たりの合計特殊出生率が2.1〜2.05の水準となる。
 
13 このセクションにおける数値は、World Population Prospects The 2000 Revision, UN Population Division/DESIPA 2001による。
14 2050年の中位推計あるいは最も可能性の高い人口推計値は93億人で、2年前の推計値よりも4億1,300万人増えている。これは、現在出生率が高い貧しい国々や、現在の人口が多い数力国において、将来も予想より出生率が高い値で推移すると考えられることによる。
15 UNHCR 2000
16 UN Population Division,World Population Prospects;The 2000 Revision







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