日本財団 図書館


セッション I
人口の視点なく持続可能な開発は可能か
アコスタ議長
 
 
〔写真・右頁〕会議場の日本議員団。左から谷津、桜井、松岡の各衆院議員
 
 
1、Li Honggui ESCPHメンバー
持続可能開発と人口
 一九八二年にブラジルのリオデジャネイロで開催された地球サミット(UNCED)では私達共通の未来(コモンフューチャー)が議論された。このリオ会議は地球全体の持続可能な開発を考える上で大きなステップであり、そこで採択された「アジェンダ21」は、持続可能な開発のための行動の手順を定めたものである。
 人口は、持続可能な開発に大きな影響を与える。また資源の問題も持続可能な開発に影響を与えている。現在の世界は、人口増加、栄養不良、AIDS、教育の普及の発展阻害、貧困と豊かさの問題を抱えており、これら全てが環境に大きな影響を与える。
 各国ともそのレベルが違うだけで、様々な問題を共有している。人口と貧困、人口増加と都市化も大きな影響を与え、世界人口の大きな変化として人口増加に悩む国もあれば、高出生・高死亡から低出生・低死亡への人口転換の結果少子高齢化に悩む国もある。
 都市人口は増大を続け、六十二億の世界人口のうち都市人口三七%に達し、今後もこの都市化の傾向は拡大するものと考えられている。世界の巨大都市の中でも、千万人以上の人口を持つ都市がアジアに二つあり、今後さらに増大すると考えられる。
 現在、十一億五千万人の人口が一日一ドル以下の所得で生活している。また、途上国で人口が増加した結果、生態系が脆弱なものとなりさらに貧困を加速することになる。
 アジアの人口は、世界の六〇%を占め、人口密度が高く、一人あたり耕地面積や淡水資源は世界平均と比べて低い。一人あたりの耕作可能な土地はわずか〇・一六haであり、人口が今後四八%増加すると考えられるのに対して、耕作地の増加は二一%にとどまると考えられている。中国の一人あたりの淡水資源はは世界平均の四分の一しかなく、その資源の多くを揚子江(長江)に依存している。現在中国政府は、水資源保全にたいする森林の重要性に気付き植林を続けている。
 ここで議論している人口・持続可能な開発の問題は、総合的に捕らえていく必要がある。具体的な取り組みとして女性のエンパワーメントがHIV防止などに対しても重要である。いずれにしても、これらの問題は国境を越える問題であり、相互協力を深めることが最も重要である。
 
2、シュ・ユン・ズ UNFPAアジア太平洋局長
 AFPPD二十周年記念の大会に参加でき喜んでいる。UNFPAとAFPPDは共通のビジョンを抱え活動してきた。AFPPDがアジアの人口・開発の分野で果たしてきた功績には大きなものがある。
 今回のセッションのテーマである「人口の視点なく持続可能な開発は可能か」との問いかけに関しては“ノー”といわざるを得ない。すべての問題が人口を基礎としている。毎年七千七百万人が生まれている。アジア人口は現在三十七億人で、世界で最大の人口を擁している。二〇一五までに十億人が増え、これに対する水や住居が不足する。この人口増加のほとんどはLLDC(最低開発国)で起こる。アジアの主要な穀倉地帯で地下水位が毎年一メートル低下し、二〇五〇年までには二十億人が必要最小限の水も得られなくなる。
 貧富の格差が拡大し、豊かなほうから数えて二〇%の人口が世界の物資の八〇%を消費し、貧しいほうから数えた二〇%の人口は、一・五%しか消費していない。有り余る豊さも、そして極度の貧困も環境問題を悪化させる。
 米国は世界人口の四・六六%しか占めていないにも関わらず、温暖化ガスの二五%を排出している。また、工業用水の七〇%が未処理で排水され、大気汚染も深刻な問題となっている。
 過剰な経済活動の結果として排出される汚水や排気ガスを処理するにはまた多くのエネルギーがかかる。現在、毎年ネパールの国土面積に等しい四千六百万ヘクタールの森林が破壊されており、このままでは世界の森林は五十年以内にすべて破壊されることになる。耕地は表土流出や土壌劣化により、二十億ヘクタールが失われている。
 農業生産においても、これからは生産性の効率を向上させなければ、今後の人口増加、淡水の不足に対応できない。環境への負荷が余りにも大きくかかりすぎるとその再生は不可能となる。この環境破壊が持つ不可逆性を認識する必要性がある。
 世界人口の、二五%が絶対貧困で生活し、増加している人口の九〇%がそうである。その二/三がアジアで暮らしている。農村での貧困の結果、人口の都市への流出や国際移動が生じている。
 ボンベイ、ダッカ、ジャカルタ、上海等の大都市では、農村から流入する人口増の圧力を大きく受け、環境劣化を引き起こしている。
 また、女性のエンパワーメントに高い優先順位を与えることで、人口増加を抑制することができるようになる。健康を改善と環境保護を行なうためにも女性の参加が重要である。
 責任ある性行動によってHIVの蔓延を阻止できる。人口比率ではそれほどでもないが、感染者数で考えるとインド中国が最も多い。カンボジア、ネパールにおける蔓延が深刻な問題となっている。
 UNFPAは今後ジェンダーにより一層焦点を当てる。国レベルでのパートナーシップと協力が必要であり、二〇〇〇年の国連総会で採択されたミレニアム開発目標なかでも、妊産婦死亡、乳児死亡の削減、を達成するよう努力している。
 ICPD行動計画やミレニアム開発目標は貧困撲滅の基礎である。東南アジア諸国はODA削減や対外債務の増大に苦しんでおり、また資金不足による制約が生じてきている。最も被害を受けているのは女性や子供である。最貧国の貧困問題を解決すれば持続可能な開発はおのずからついてくると思う。
 
3、ジョティ・シャンカー・シン 前UNFPA事務次長
 「人口の視点なく持続可能な開発は可能か」というテーマについて、持続可能な開発に人口の視点を取り込む上で、これまで国連が何をすることができたか、について述べる。一九八二年にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(UNCED)地球サミットでは、人口問題を取り上げることに躊躇があった。それは、人口はセンシティブな問題であり、意見がわかれる問題と考えら、抵抗が予測されるために、地球サミットでは扱わず、カイロに任せたらよいではないかとの協議が行われ、事実その通りになった。
 リオの採択文書であるアジェンダ21は人口と環境が相乗的な影響を与えると警告も発している。しかし先進国にしか目を向けていない。アジェンダ21の形成に際し、人口関連のNGOにその内容についての諮問はなかったのである。
 カイロでは人口と持続可能な開発について、その実質的な連関に対する協議が行われた。その席で、途上国をおもな構成メンバーとする“グループ77”から人口と持続可能な経済成長と開発はリンクしているものであり、生産・消費が持続的でなければならない。また途上国を支援しなければ貧困解消することはできないとの主張が行われた。
 一九九九年に開催されたICPDから五年の評価会議とその後に開催された国連総会では、持続可能な開発と安定的な経済成長と人口が重要な関係にあることが再確認された。
 様々な対策にもかかわらず、最貧困層が減らない。ICPD+5における見直しで、HIV/AIDS等の新しい要素を含めた行動計画の改定が行われた。人口と持続可能な開発は双方が結びついた問題であるということを世界中が認めることになった。
 今年の「持続可能な開発世界サミット(WSSD)」ではリオの再討議は行わないことが原則となった。今回のWSSDでも人口関係者の参加・討議がほとんどなかったことが問題である。同時にNGOの参加が準備過程でも本会議でもほとんどなかった。
 関係者の認識の不足のため、人口問題を訴えかけることが十分できなかった。議員会議すべてに谷津議長が参加された。しかし余り討議されなかった。
 WSSD会議が終わりに近づいたとき、健康サービスの普及が討議され、文書に反映されたが、あくまで国内法の範囲で実施することと記されており、人権などの問題との関係が触れられていない。
 これに対し、カナダなどが修正を申し入れた。これらの文言をもって、NYタイムスはカイロのコンセンサスを投影するものであると述べたが、WSSDの文書の中に明示的に書かかれているわけではない。人権と基本的な自由という文言で、暗示しており、推測することができるということである。持続可能な開発、環境問題と人口は深く関わっており、ありとあらゆる問題について人口の視点を取り込むことが必要であることを訴えよう。この相関関係をメディアにもとりあげてもらうことが重要である。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION