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シンポジウム
―テロのない世界を目指して―
アフガン復興の現状と課題
於・朝日ホール
 
 「アフガン復興の現状と課題―テロのない世界を目指して―」のシンポジウムが九月三日、東京・有楽町朝日ホールで朝日新聞の主催で開催された。去年の同時多発テロから皮肉にもアフガニスタン問題が世界の注目を集め始めた。アフガニスタン復興の最前線で活躍する五氏が真剣に現状と将来を語った。アフガニスタンヘの問題意識の高さから会場は満員となった。
 
報告
緒方 貞子氏(アフガニスタン支援日本政府代表)
 難民が帰還し始め、都市のインフラが追いついておらず彼らの吸収力がないのが現状。カブールは復興が進んだとはいえ、治安維持の必要がまだ高い。
 去年九月同時多発テロヘの報復として、アメリカは対アフガニスタン報復を実施している。一方で、我々は、彼らが平和で、明日の生活をできるように支援をしている。今年一月のアフガン復興会議は、六十カ国の国々と多くのNGOや国際機関が参加し、アフガニスタンの間題に世界全体が対応するという強い決意が感じられた。
 首都カブールは比較的復興が進んだが、地方は遅れているところがまだ多いのが現状。カブールでも復興が進んだとはいえ、まだ治安維持の必要は高い。短期的に北部に軍隊を置くことと同時に、難民を始めとする問題の根本を見定め、中長期的な視点で対応することが重要であると思う。
 六月に千六百五十人のアフガニスタンの国内外から代議士が選出され、うち二百人が女性。カルザイ氏も大統領に選出された。問題はその行政力だ。中央政府が地方政府の上に立ち、権力を持っているとはいえ、実質的な基盤は脆弱で、徴税制度も機能しておらず公務員の給料支払いが滞っている。
 近隣諸国への難民が帰還し始めた。パキスタンから百三十八万人、イランから十四万人が続々と帰還し、都市が肥大化している。インフラが追いついておらず吸収力がないのが現状で、当座の食糧や生活の将来は全く見えていない。
 日本は三つの要素を中心に支援している。(1)治安維持、(2)政権樹立、(3)復興で、これらは互いに連関している。カルザイ大統領は、アフガニスタンの復興の支援に(1)政府樹立(2)道路建設、を日本を始め各国に訴え続けている。道路建設により公共事業に労働力を必要とし、人とモノが流れ始めるからだ。日本は長い歴史の中で支援の面で重要な役割を担っている。これからも地域的に総合的な社会の安定に対し支援したいと思っている。現在、日本経済の不景気からODAを削減する動きがある。しかし、援助は平和の手段として必要だ。アフガニスタンの安定は地域全体の安定、さらに世界全体の安定に繋がる。援助は結果が出るまで継続した支援でなければ意味がない。
 難民はテロの犠牲者だ。テロに対して時には軍事力の行使も必要となる。しかし軍事力は最終的な解決にはならない。
 
討論
緒方 貞子氏(アフガニスタン支援日本政府代表)
中村  哲氏(NGOペシャワール会現地代表)
山本 芳幸氏(前国連難民高等弁務官事務所カブール事務所長)
木山 啓子氏(NPO法人ジェン事務局長)
餐場 和彦氏(徳島大学総合科学部助教授)
 
●地域毎の自給自足を切実に望んでいる
中村氏:
 長年アフガニスタンを実際に見てきた。そして「何か違う」と感じてきた。アフガニスタンの庶民レベルと、我々との認識のズレだ。百五十万人以上の帰還難民が押し寄せているが、これは圧制から逃れてきているのではなく旱魃から逃れてきているのだ。「破局への時限装置が動き出した」という人もいる。アフガニスタン復興のニーズの殆どは地域毎の自給自足であり、ペシャワール会は「自給自足の社会復活」を目指している。近代国家は却って矛盾を引き起こす。
 
木山氏:
 JENは「心のケアと自立の支援」を理念としており、一人一人尊厳をもった自立ができるよう、支援をしている。紛争などで緊急支援が必要な時は水や食糧を支援し、時間が経てば教育などの支援をしていくという、臨機応変な対応が必要となる。今アフガニスタンには六百万人の食料援助を必要とする人がいる。
 何より治安の回復がまず重要だ。地雷撤去、ライフルの没収なども急務で、日本政府はNGOのできない大きな支援をどんどんしていくことを期待する。
 
●イスラム社会は理解が難しい社会
餐場氏:
 アフガニスタンについて楽観的、悲観的な見方をすることができる。今日はあえて問題を多面的に見るためにも、後者で見ようと思う。アフガニスタンの将来について、緒方さん、木山さんや中村さんは肯定的にみている。この当国の面積や人口、政治的背景を見ても難しい状況にあると思う。中央政府としてのカルザイ政権は、地方に民兵を保有する軍閥が複数割拠している中での政権であるし、徴税や警察もそれらの戦闘と金しか知らない軍閥が管理している。
 イスラム社会は我々日本人が理解するには相当難しい社会だ。緒方さんはアフガニスタンは支援と開発のテストケースだとおっしゃったが、相当難しい例だと思う。
 
●今、援助しないと―
山本氏:
 なぜ支援をしなければならないのか。アフガニスタンの援助の論理と安全保障が組み合わさった例だ。果たしてこれらの援助に意味があるのか。確かにギャンブルみたいなものだ。今やっておかないと再びテロの温床を作ることになるし、アフガニスタンは弱ってしまう。
 
●戦乱より旱魃が問題
中村氏:
 アフガニスタンを近代国家としてみるなら「破綻国家」かもしれない。しかし各自治はかなり完結している。戦国時代の公家みたいなものだ。アフガニスタンは国家としてではなく、地域としてやっていくような復興支援をすべきだ。また戦乱より、むしろ旱魃が問題ではないか。
 
緒方氏:
 日本のような国へ変わっていくという「直線的な復興」は考えていない。中央政権が全てコントロールするのではなく、自給自足社会が村落共同体として機能するように支援すべきだ。だからといって難民があのように大量に流出した以前の社会が問題なのは明らかである。そのため、以前の状態の自給自足社会にただ「戻る」だけでは不十分です。
 
●地方とカブールは異国のようだ
餐場氏:
 地方とカブールは異国のようだった。地方は自給自足の社会であるのに対し、カブールは国際社会が作り出した整合的な社会だった。このため支援体制も自ずと変わる。
 
山本氏:
 ISAF(国際治安支援部隊)の力を借りて、統治能力は中央政権をべースとして地方へ流すという方法を提案したいと思う。
 
●麻薬が復活している―
中村氏:
 麻薬が復活しつつある。現地の人は、タリバンでもいいから統治して欲しい、平和な社会を作り出してほしいと言っていた。
 
緒方氏:
 一度タリバンと交渉したことがあった。その時「難民は帰りたがっているが、女性は教育を受けられない。将来彼女たちの仕事はどうなるのか。」と聞いたら、タリバンは「徐々に改善していく。」と答えた。実際、家庭内で教育をしていた。アルカイダの存在も考えなければならなく、タリバンとだけ交渉すればよいというものではない。
 
中村氏:
 民衆の気持ちとしては、タリバンが進駐した時にホッとしたそうだ。「カブールが陥ちても俺たちは生きている。」という農民の姿を見て、近代国家やグローバリズムの持つのもつ弱体を見た気がした。
 
山本氏:
 アフガンは国家としての機構は作れなかった。タリバンの派遣した知事よりプロビンスにもともといる長老の方が力を持っているということもある。カルザイ政権が知事を派遣する時はそのことを考えなければならない。
 
●評価できないタリバンの行状
餐場氏:
 タリバンも多面的に見る必要があるが、ほとんど評価できない。女性を誘拐して従軍慰安婦にしたりもした。ただ、女性蔑視が原因で家に女性を閉じ込めているというのではなく、実質的に安全のために家に留まらせたという側面も注目しなくてはならない。
 
木山氏:
 平和構築にも良い面、悪い面がある。タリバンと一緒に仕事をしたことがあったが、正当に話をすれば分かりあえる部分がある。無理ならそれなりの手段が必要となるが。
 
中村氏:
 一般にアフガニスタンのことを「破綻国家」という呼び方をするが、これは失礼だ。どこぞの国も破綻していると思う。社会とは何かを考え直す機会だ。教育なども外国人が作り出していくものではなく、現地の人が作っていくものだ。グルカを脱がせるのに爆弾を落とす価値があるのか。
 
緒方氏:
 テロ後の国内の統治形態について話をしたい。いつも、以前よりもよい状態というものを念頭において支援しなければならない。軍事行動にしても、その後の復興を念頭に置かなければならない。
 
●なぜテロが生まれ、アメリカが嫌われたのか
餐場氏:
 戦乱の予防と安定した平和構築が重要だ。そうした中で、タリバンを抑えるためにも軍事行動をある程度認めなければならない。冷戦中は、破綻国家は表にでなかったが、冷戦後はアフガニスタンは利害の外に捨てられた。アフリカやアジアの一部は自立できる体制でなくても、強制的に「自立させられた」国が多い。大量破壊兵器に対しても、もぐらたたき式に攻撃しても限度がある。どうしてテロが生まれ、アメリカが嫌われたのかという根本を考えなければならない。
 
緒方氏:
 イラクの大量破壊兵器の増産反対には、皆同意するところだ。要は軍事行動でそれを阻止できるのかが問題。多方面にわたる問題の整合性や合理性の吟味が必要だ。軍事推進派と反推進派との対話の上によりよい解決が期待できる。







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