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日本は、より強力なリーダーシップを
人口懇と"GLOBE JAPAN"が合同部会
C・フレイヴィン・ワールドウォッチ研究所所長が講演
 
 国際人口問題議員懇談会とGlobe Japanは九月二十六日、衆議院第一議員会館会議室で合同部会を開き、クリストファー・フレイヴィン ワールドウォッチ研究所所長の「ヨハネスブルグ・サミットと日本に対する私の期待」と題する講演を開いた。講演要旨は次の通り。
 
 地球環境問題がますます拡大している。この危機意識の高まりの中、「地球白書(二〇〇二年版)」が出版され、八月には南アフリカ共和国のヨハネスブルグで「持続可能な開発に関する世界サミット(WSSD)」が開催された。これは一九九二年にブラジルのリオデジャネイロの「地球サミット」から十年の節目に開かれたものである。
 国連のアナン事務総長は、持続可能な開発に関する世界サミットで“二〇〇二年は環境問題における転機である”と述べた。
 現在、気候変動、生物多様性など環境問題が山積している。新たな環境対策のアプローチが必要となる。その際、社会的環境的に側面に配慮しなければならない。現在、リオデジャネイロの地球サミットで掲げられた目標を世界はまだ達成していない。それどころか解決方法すら得ていない。
 
ヨハネスブルグの議論はまとまりなく雑多
 二酸化炭素の排出量の増大、生物多様性喪失の脅威、人口増加など地球の環境をとりまく状況はますます厳しさを増している。エネルギー面では再生可能なエネルギーの開発が急務である。環境を保全するためには、新技術の導入や有機農業、NGOの活躍などが重要な要素である。
 環境問題は地球規模の問題であり、あまりに大きい問題である。しかし具体的に一つ一つ解決していくには、ミクロのレベルでの小さな成功例を着実に地球レベルに広めていくことが鍵となる。ヨハネスブルグでの問題点は、あまりにもその議題が社会経済全体を網羅するような包括的なものであったことである。確かに経済・社会・環境は互いに繋がっている。しかし一度にそれを総括的に議論するには限界がある。ヨハネスブルグでの議論は、まとまりのない雑多な印象を与えた。地球レベルで持続可能な生活の実現を目指すなら、焦点を定めて取り組まなければならない。
 会議での議論は、貿易と開発援助にも及んだ。そのなかで明らかになった最大の課題は、先進国と途上国の対立である。十年前に約束した先進国からの財政援助がまだ達成されず、両者の溝は埋まらない。もう一つの争点は、多国間協定を結ぶべきか否かである。ヨハネスブルグ会議では複数国が衝突した。EUは多国間協定の哲学を強く主張した。それに対し、ブッシュは各国に対して義務を課すべきではないと主張した。真の対立点は多国主義か一国主義かである。三ヶ月前のバリ準備会合での段階では、先進国と途上国の貿易に関する合意形成は他分野と同じように絶望的だと思われた。
 もともとヨハネスブルグの会議の船出は、険しいものであった。その上、ブッシュ大統領が欠席したことは、世界に衝撃を与えた。しかしなんとかヨハネスブルグ会議では表面上とはいえ、合意にこぎ付けた。
 
ヨハネス会議の合意のポイント
 次にヨハネスブルグ会議での合意文書における重要な点について述べたい。一つ目の重要な合意は、飲料水と衛生である。安全な飲料水や衛生設備を享受できない人口は三十億に上る。これを二〇一五年までに半減するという数値目標を掲げた。二つ目は、有害化学物質の影響を抑えることである。環境ホルモンが人体に与える影響、有機農法の開発と推進など、二〇二〇年までに削減することを盛り込んだ。三番目は漁業資源の復活である。二〇一五年までに資源復活を目指した数値目標を挙げた。既に現在、十五の漁場のうち十一でその資源が枯渇している。四番目は生物多様性の維持である。多くの生物種が急速な速度で減少しているが、なんら効果をあげていないのが現状である。五番目は産業と消費者のあり方である。十年計画で、地球環境の汚染を食い止めるとともに、資源の持続的な消費を目指す事が必要である。
 特にアメリカなど先進国を中心とした消費パターンを最小限の消費にするような過程の推進である。その中でリサイクルは非常に重要な要素となる。最後に再生可能なエネルギーの開発と推進である。推進派のEUと反対派であるOPEC、途上国、アメリカそして日本の対立が顕著である。
 ドイツのシュレーダー首相は、数値目標はエネルギー問題解決に向けるスタートポイントであると主張し、再生産可能なエネルギーの開発を進めるとともに、石油におけるOPECのような再生可能なエネルギーに関する同盟を作ることを提案した。
 なお、ヨハネスブルグ会議では、人口や気侯変動について直接的な議論はなされなかった。持続可能な開発を達成するために人口問題への対応が不可欠であるということは世界的な認識になりつつある。しかし一部の途上国などでは文化的要因などから人口問題への対応を経済開発の政策に取り込むことに消極的である。よって今回の会議でも人口問題は大きく取り上げられなかった。しかし同時進行で行われたサイドイベントでは人口問題の重要性が強調された。
 
活発な市民団体の参加
 今回の会議の大きな特徴は五万人が参加したが、政府間会議にも関らず、ほとんどの参加者が企業や市民団体で占められた。政府間会合以外にも大規模な市民社会の会合があり、これに象徴されるような市民の直接参加が持続可能な開発を切り開く鍵であると考える。また、自国の経済発展のみに関心があり、環境問題への配慮に消極的な国も多いが、本会議ではEUとラテン・アメリカ諸国が建設的指導力を見せた。日本にはOPECやアメリカなど環境政策に消極的な国々からの圧力に負けず、明確な指導力を発揮してもらいたい。我々がこれから前進するためには新しい積極的なリーダーシップが必要である。
 
質疑応答
清水嘉与子・参議院議員
 ヨハネスブルグでは日本がエネルギー政策に対する世界的数値目標を掲げることに消極的だったとの指摘があったが、日本が同分野に積極的に取り組んでいることは事実である。京都議定書の批准に関しても与野党一丸となって取り組んだ。日本はヨハネスブルグ会議ではそれなりの役割を果たしたのではないか。
 
フレイヴィン所長
 京都議定書に関して、米国の圧力に負けず取り組んでいる日本にお祝いを申し上げたい。そのような力強い指導力をこれからも発揮して欲しい。
 
清水議員
 ヨハネスブルグで掲げられた様々な目標に関して、現在各省が予算編成を通じてその合意を国内の政策に反映するよう努力している。私も環境に関する委員会に所属しており、各省庁の連携を強めつつ政治主導で取り組んでいきたいと考えている。京都議定書に関しては、米国が参加しやすい環境を作っていきたい。
 
フレイヴィン所長
 最悪のシナリオは京都議定書が発効しないことであり、米国の反対にも拘わらず発効させたことはすばらしい。
 
広瀬次雄・APDA常務理事
 ヨハネスブルグ・サミットのような会議には地球学的観点が必要と考える。地球のキャパシティーというものは決まっているのだから地球を壊さないようにしなければならない。このような時代に自国のエゴを出して環境破壊を続けていてよいのだろうか。
 
フレイヴィン所長
 例えば石油や食料を輸入している現在の日本の体制は持続可能とはいえない。経済的論理と倫理的責任の両側面から、日本にはぜひ再生可能エネルギーへの投資を奨励してほしい。日本は太陽エネルギー機器の分野では世界一であるが、その力を風力や地熱など様々な分野にも拡大してほしい。
 
広瀬常務理事
 お説の通りである。エネルギーの他にも日本を初め欧米諸国では飽食がひどい。例えば日本の東京では一晩に50万人分の食料を残飯などで無駄にしている。国民の教育が必要だ。
 
清水議員
 今回のヨハネスブルグでの会議では初めて日本政府団にNGOの代表者が参加した。政府としてもNGOの積極的参加を奨励していきたい。
 
弦念丸呈・参議院議員
 再生可能エネルギーに関して日本は技術面では最先端であるが、実際の利用率となるとヨーロッパなどと比べて遅れている。
 
フレイヴィン所長
 来年ドイツで行われる会議ではヨーロッパで比較的成功しているエネルギー政策について意見交換が行なわれると期待する。新エネルギーを普及させるために市場を開放し斬新的な開発を奨励すべきである。







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