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ICPD評価のための国会議員フォーラム
(IFP)
ハーグ宣言
1999年2月4日
オランダ国、ハーグ
 
序文:
1. 私たち、103ヵ国210名の国会議員は、ハーグ国際フォーラムの前夜1999年2月2日〜4日ハーグに集い、ICPD評価のための国会議員フォーラムでICPD実施状況の検討を行ない、以下の宣言を行なう。
 
2. 私たちは、ICPD行動計画――その「原則」、行動計画と食料安全保障、環境と経済問題の関連性、行動計画とリプロダクティブ・ヘルスおよびリプロダクティブ・ライツの関連性を再確認する。私たちはまた、国際人口開発会議の前夜に採択された国会議員による「人口と開発にかかわるカイロ宣言」を再確認する。私たちは、現在までになされた進展の評価、その進展を阻む障害がいかなるものであるのかについて検討し、行動計画の勧告の実施を効率的かつ促進するための具体的な行動を生み出す、行動計画5年目の評価を行なうハーグ・フォーラムを歓迎する。
 
3. 私たちは、各国政府に対し、市民社会のメンバーとともに協力してICPD行動計画の勧告を実施するよう要請する。
 
4. 私たちは、国家元首による会議の議題として、人口とリプロダクティブヘルス問題を、国際レベル会合においても、また地域レベル会合においても高レベルの問題として扱うよう要請する。
 
5. 私たちは政策の再策定、プログラムデザインの見直し、パートナーシップと共同活動、資源配分の増加等を通して、ICPD行動計画の主要な部分である程度の進展がなされたが、数多くの課題が残されていることを認める。
 
優先的にとるべき行動:
(a)リプロダクティブ・ヘルスとライツ
 
6. ICPDは(人口問題に取り組む上で)、本質的なパラダイムシフト(発想の転換)を行なった。その結果、人口問題に取り組む方法は、数値目標に焦点を当てた(従来の)方法から、個人の一生のライフサイクルを通じたリプロダクティブヘルスケアの質の問題に大きな焦点を当てる、という転換が行なわれたのである。ICPDで国際社会は、遅くとも2015年までに、プライマリー・ヘルスケア・システムによって適切な年齢のすべての個人が、家族計画、性行動に関する健康、情報およびそのサービスを含むリプロダクティブヘルスを利用できるようになるように努力すべき、との合意を達成した。ICPDは思春期における性教育の重要性を認めている。行動計画ではまた、“リプロダクティブ・ライツの意味を理解すること”の重要性を強調している。それは、家族計画や性行動に関する健康をはじめとするリプロダクティブヘルスの分野における、政府およびコミュニティが支援するあらゆる政策やプログラムにおいて、これらの権利が責任を持った実行が促進されることを含むものである。
 
7. リプロダクティブ・ライツとリプロダクティブ・ヘルスとの分野で顕著な進展がなされたが、数多くの障害が残されていることを認める。それら障害とは、回避可能であるにもかかわらず数多く発生している妊産婦死亡および疾病であり、HIV/AIDS―特に若い人々の間での―の蔓延の兆候であり、避妊方法の選択および家族計画と性行動に関する健康を含むリプロダクティブ・ヘルスの情報とサービスを利用する上で、需要があるにもかかわらず、供給が大幅に不足していることである。特に難民、避難民、移民、若者、単身女性、原住民、障害を抱えた人々など不十分なサービス提供しか受けられないグループにおいて、この不足は著しい。
 
行動:
8. 私たちは、家族計画および性行動に関する健康を含む既存のリプロダクティブ・ヘルス関連法を検討し、もし新たな立法が必要であれば立法するようすべての国に呼びかける。
 
9. 私たちここハーグに集まった国会議員は、家族計画および性行動に関する健康を含むリプロダクティブ・ヘルスとリプロダクティブ・ライツを推進させるために、自ら倍旧の努力をする。これに関連し、私たちは、市民社会、宗教指導者、地域リーダー、政治的指導者およびメディアを含むすべての利害関係者のこの活動への参加を拡大させる。リプロダクティブ・ヘルスおよびに性行動に関する健康における男性の役割と責任を強化するよう、特に注意を払う。また、立法、この問題に対する認識の普及、その昂揚と拡大および資源動員を通じ、政府がその義務を履行しうる環境を創出し、促進する。
 
(b)ジェンダーと人口
 
10. ICPD行動計画では女性のエンパワーメントそれ自身が(達成すべき)目標であることに加え、人口と開発戦略において切り離すことができないものであることを認めている。またICPD行動計画では男女の平等と公正の達成と女性の政治と意思決定への十分な参加が持続可能な開発を達成する上で不可欠である(本質的な要件)であることを認めている。男女の平等と公正、および女性のエンパワーメントの達成には、女児の権利とその教育の権利が不可欠である。多くの国では、その政策変更および立法という手段をとることで女性の権利保護および女性の社会的、政治的、経済的エンパワーメントを推進している。これらの成果にもかかわらず、いくつかの国々では、政治的なコミットメントがあまりなされていない、重要な地位に女性がほとんど就いていない、ステレオタイプなままメディアで女性が取り扱われ、女性のエンパワーメントを妨げる社会・文化的な態度が蔓延している。
 
11. 女児を男児と平等に扱うことは女性の能力を十分に発揮させるために必要なことである。この点から、女児が一般教育を受けることができること、女性が十分な読み書きができる有効識字であることは非常に重要である。学校教育、学校外教育のいずれもが提供されなければならない。
 
行動:
12. 国会議員として女性の十分な社会参加―政策決定も含む―を妨げる法的、社会的、文化的障害を取り除くために働く。各国のそして国際社会において優先的に取り組むべき課題としての、女性のエンパワーメント、男女の平等と公正のより一層の達成、女性の性器切除(FMG)などの有害な慣行を含む女性に対する暴力の防止に関する立法、政策決定、施行および資源動員に対するあらゆる努力を支援する。
 
(c)思春期、若者、高齢者、障害を持つ人
 
13. 私たちは世界の人口学的に重大な変化の目撃者である。過去における高い出生率は15〜24歳人口の人口規模をかつてないほど大規模なものとした。同時に、多くの国における出生率の低下は平均余命の延びを引き起こし、60歳以上の高齢人口の大幅な増加をもたらした。これらの増加によって、様々な社会や国は、若者および障害を持つ人々への教育、リプロダクティブ・ヘルスケア・サービスの提供、そして高齢者に対する社会的な、医療の面での、また資金的な支援に対応できるか、その能力を試されることになる。
 
14. 私たちは、計画されない妊娠、性的暴力、安全でない中絶およびHIV/AIDSを含む性行為感染症を含む思春期の性的およびリプロダクティブ・ヘルス関連の問題に優先的に取り組まなければならない。また特に若者や思春期に向けた適切なサービス、性教育およびカウンセリングの準備も同様に取り組まなければならない。
 
行動:
15. 私たちは、国会議員として、各国政府ならびにその他当事者機関が、思春期、若者、高齢者、障害を持つ人々の社会的な健全性の確保に、高い優先性をおかなければならないと確信する。この点から、これらグループに対する教育ならびに健康ケアに関する支出を増やすために必要となる改革に着手するよう各国政府に要請する。
 
16. 国会議員に若者と思春期のリプロダクティブ・ヘルスに関する必要性を満たす行動をとるよう要請する。この点から、国会議員に、立法を行ない、この問題に関与していく意思を表明し、HIV/AIDS予防を含む思春期のニーズヘの対応を重視した、リプロダクティブヘルス・プログラムに予算をつけ、啓発活動を拡大し、情報とサービスの提供を支援し、人権運動との連携を確立し、NGOとその他市民社会のメンバーとのネットワーク化を促進するよう呼びかける。
 
(d)人口、環境、食料安全保障
 
17. 人口が増加する中で、人間の基本的ニーズが充足されるかどうかは環境の健全性にかかっている。人口学的な要素は、貧困や生産資源へのアクセスの欠如、および過剰消費と浪費的生産パターン、さらにそれに加えて適切な技術の欠如と結び付くことで、環境悪化、汚染、資源枯渇の原因となり、それを加速させ、持続可能な開発を妨げている。
 
18. 人口の増加と農業生産性の低下・淡水資源の枯渇と汚染、土壌流出と環境悪化が相侯って食料供給への脅威となっている。基本的食料の確保は、人間の基本的人権である。各国は適切な雇用の創出を図ると同時に、自給が可能なところでは自給の確保や、伝統的食料生産基盤を生かした食料供給体制を維持できるようにする。また適切な食料の貯蔵・分配システムを準備することが同じくらい重要である。
 
19. 食料安全保障を達成するために女性の貢献は非常に重要である。しかしながら女性にとって適切な技術や適切な資源が欠けている。加えて、しばしば、ジェンダー格差のために食料を十分得ることができない。
 
行動:
20. 私たちは、政府と国会議員が世界貿易機関(WTO)合意を含む、すべての国際的な協定を吟味し、そのような協定が農業生産と環境にどのような影響を与えるのかを各国で検証すべきである、と呼びかける。また、貿易および貿易外障壁とその結果として引き起こされる現象が、途上国に与える影響についても注意を払わねばならない。国際貿易ルールは食料安全保障の長期的な視点と一貫し、十分に整合したものでなければならない。
 
21. 効果的な世界的食料制度として世界食料銀行の設立を検討する。世界食料銀行は国際協力の下に運営され、公正かつ平等な食料入手の可能性を提供するものである。
 
(e)資源動員
 
22. ICPDで国際社会は、人口と家族計画を含むリプロダクティブ・ヘルス関連予算として2000年までに170億ドル――そのうち、113億ドルは各国の資金、57億ドルは海外援助で――という目標を設定した。ICPD以降先進国、開発途上国を問わず各国は人口とリプロダクティブ・ヘルス活動関連活動への支出を増大させてきたが、目標の170億ドルには程遠い現状である。全体で40パーセントが不足で、各国の自助努力分が25〜30パーセントの不足、海外援助分が60〜65パーセント目標を下回っている。これはICPD行動計画の勧告を効果的に履行する上で、最も大きな問題となっている。
 
23. ICPDの目標と目的を来世紀の早い段階で達成しようとするならば、まとまった行動をとるという決意が不可欠である。パートナーシップの原則に基づいて、すべての当事者は負担の分担を実行すべきである。近い将来、国内および海外からの支援者を多様化すべきである。
 
24. 行動計画の実行と人口とリプロダクティブ・ヘルスの人的資源の技能向上を図るために、資源の動員が必要で、そのためには公的部門と民間部門の協力の創出を生み出すための更なる努力が必要である。ICPD行動計画実施のためのモニターと評価を行なうための国内情報データベースが緊急に必要である。
 
行動:
25. 私たちは、資金援助国政府とその他機関に対して0.7パーセント目標を達成するように政府開発援助を増額し、その中の4.5パーセントから5パーセントを人口とリプロダクティブ・ヘルス分野に振り向けるよう呼びかける。
 
26. 国会議員は人口とリプロダクティブ・ヘルス向けの予算措置を促進すべきである。
 
27. 各国政府はリプロダクティブ・ヘルスプログラムの地方分権化を進めるべきであり、そのために必要な資源を提供すべきである。
 
28. 私たちは、社会的ニーズを犠牲にして軍事支出が不均衡なまでに強調されているという観点から、地球規模での支出の早急な再評価を行なうよう強く求める。
 
(f)経済危機
 
29. 国内生産の落ち込み、高い失業率、急速なインフレ、消費水準の急速な落ち込み、対外債務支払履行が難しくなっていることを含む、近年の経済危機の影響は極めて深刻である。その結果、健康および社会分野がとりわけ壊滅的な影響をこうむっている。
 
行動:
30. 私たちは各国政府に対して、経済危機を防ぐ手段をとり、経済の崩壊の影響から貧困者を可能な限り守るよう、強く要請する。
 
31. 私たちは債権国政府に対し、開発途上国、最貧国、天災に見舞われた国々からの債務返済を再検討するよう強く求める。
 
(g)国会議員ネットワーク
 
32. 私たちは一人一人の行動と、一致協力して行なう行動のいずれもが重要であることを認識している。私たち国会議員は、人々と政府を結び付ける存在である。
 
33. 人口とリプロダクティブ・ヘルスに関する国会議員活動は、多くの国で、地域で、そして地球規模でしっかりとした根を下ろし始めている。この点から、現存する各国の、地域レベル、そして人口と開発に関心を持つ国会議員組織――例えば、人口と開発に関するアジア議員フォーラム(AFPPD)、アメリカ地域人口・開発議員グループ(IAPG)、人口と開発に関するアフリカ・アラブ議員フォーラム(FAAPPD)、人口、持続可能な開発とリプロダクティブ・ヘルスに関するヨーロッパ議会作業グループ(EPWG)、汎アメリカ議員同盟、中央アメリカ議員同盟、人口と開発に関する国会議員世界委員会(GCPPD)、国際医療議員組織(IMPO)、地球規模的行動のための国会議員達(PGA)、列国議会同盟(IPU)の活動とその協力を歓迎する。
 
行動:
34. 私たちは、すべての国でICPD行動計画の目標を達成するために、単に、情報、教訓、最善の方法に関して情報交換を行なうだけでなく、立法の促進と支援、支援啓発活動、および資源動員を行なうための人口と開発に関する国会議員の地球規模ネットワークを設立すべきである。
 
35. 私たちはこのような地球規模での国会議員ネットワークを維持し、そして有効に機能させるための十分な資源を動員するために働く。
 
誓約:
36. 私たちは、ICPD行動計画の実施をモニターする上で各国国会議員グループがより活発な役割を果たすよう呼びかける。
 
37. 私たちはここに、この宣言に盛り込まれた内容を、各国の立法制度や関連会議を通じて私たちの個人的なコミットメントから全体的な政治的行動に変えていくことを誓約する。私たちはまた、ICPD行動計画を効果的に実施することで、各国政府がその国民に対して持っている義務を果たすよう呼びかける。
 
オランダ国、ハーグ
国会議事堂
リダールザール・ホールにて1999年2月6日採択







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